真田十勇士
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巻ノ二十四 鎌倉その一
巻ノ二十四 鎌倉
幸村主従は鎌倉に着いた、その時にまず山を越えたが。
十人の家臣達は鎌倉の町に来たところでだ、こう幸村に言った。
「いや、結構よい山でしたな」
「険しく」
「あの山なら守れます」
「守りに適しています」
「しかも一方は海」
三方は山でだ。
「これはよい場所ですな」
「これ以上はないまでに守りやすい場所です」
「そのまま町を壁で囲んでいる様な」
「そうした町ですな」
「頼朝公もよい場所に座られましたな」
「全くじゃ、ここは天然の要害じゃ」
幸村もこう言った。
「都は四方を壁で囲んでおったが」
「鎌倉はその必要もない」
「そのまま、ですな」
「壁に囲まれている様なもの」
「だからここを拠点とすれば」
「それだけでかなりのものですな」
「その通りじゃ、しかしじゃ」
ここで幸村は言った、鎌倉のそれなりに賑やかな町中を歩いて見回りつつ。店も多めで人の行き交っている。
「公方様もな」
「最早ですな」
「かつてはここに東国を治める方がおられましたが」
「今はおられませぬな」
「幕府がなくなったので」
「鎌倉幕府が滅んでもな」
それでもだったのだ。
「ここに東国を治める公方様がおられた」
「室町幕府から送られた」
「その方がですな」
「おられましたな」
「守りに適した町であるが故に」
「しかし今はおられぬ、東国も主がおられぬ」
今の天下と同じくというのだ。
「羽柴殿が天下人になられてもな」
「東国にはですか」
「手を及ぼされていない」
「左様なのですな」
「そうじゃ、西国と東国は違う」
同じ日本であってもというのだ。
「それで羽柴殿が天下人になられてもな」
「それは西国のことで」
「東国は、ですな」
「また別のこと」
「だからですな」
「東国はですな」
「主がおられぬ状況ですな」
家臣達も幸村に言うのだった。
「まだ」
「関東管領は上杉殿ですが」
「それでもですな」
「まだ主はおられぬ」
「そうした状況ですか」
「果たしてどうなるか」
幸村は考える顔で述べた。
「わからぬ」
「東国は」
「まだ、ですか」
「どうなるかわかりませぬか」
「どうしても」
「まだな、ただ」
ここでこうも話した幸村だった。
「東国で一番強いのはな」
「はい、北条殿ですな」
「やはりあの方ですな」
「小田原におられる」
「あの方ですな」
「そう思う、やはりな」
何といってもというのだ。
「あの方じゃ、しかし」
「しかし、ですか」
「その北条殿でもですか」
「関東は治められてもな」
それでもというのだ。
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