衛宮士郎の新たなる道
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第3話 魔術使い
召喚されてから即座に行動した怪人――――アサシンのクラスに当てはめられている呪椀のハサンは、夜闇を一直線に駆けていき、標的の人物と義妹の姿を河川敷にある土手で見つけた。
如何やら今日の金曜集会を終えて、帰宅するところの様だ。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
ハサンは、即座に標的の義妹を捕えてから、人質として人気のない場所におびき出すと言う策を練ったが即座に棄却した。
この怪人は非情なれど外道では無い。
基本的には自分に仕事を出す依頼人や主の意向に沿うが、それが無い限り合理性と自分の流儀を取る。
少なくとも人殺しを生業とする暗殺に、悦を感じ取ってはいないのだから。
そして、今回の主であるガイアは、どの様な理由かは定かではないが、極力標的のみを狙えと言う命令だった。
しかし、理由は定かでは無いが推測は出来た。
自分をこうして現界させる程度の魔力供給は常に送られてくるが、宝具を使える回数は1回のみ。
自分は暗殺者としては超一流の自負はあるモノの、英霊としては総合的に一流としては劣る事も自覚していた。
こうした事から如何やらガイアは、少なくともこの世界への干渉力が低いと見ていい。
そうでなければこの辺り一帯の被害など考えずに、強力な英霊を呼び出すはずだからだ。
兎も角、無駄なく標的を仕留める為にハサンは尾行を開始した。
しかしこの怪人は気付いていなかった。
自分だけが狙う側では無い事に。
-Interlude-
百代は金曜集会で一応気分をリフレッシュできたのか、風呂から上がった後は気分よく鼻歌を歌いながら自室に戻っていった。
そんな標的足る百代を、一時の間以外はずっと目を放さなかったハサンがいよいよ行動に移そうとしていた。
「娘――――川神百代。せめて苦しみは一瞬の内に終わらせて逝かせよう。それが私に出来る、せめてもの慈悲だ」
そこからハサンは宝具を解放すべく、右腕に巻かれた布を剥ぎ取りながら魔力を周りに迸らせた。
その右腕は異形とも言うべきものだった。
通常の長さの2倍ほどもある腕に、赤黒く不気味な大きい掌が有った。
そしてこの能力の条件として、先程の尾行中に微かに標的に掠るくらいに触れていた。
当の百代には気付かせることなくだ。
これにより条件は全て揃っているので、何の憂いも無かった。
「――――ォオオオオオオオオオ」
ハサンは百代に形状に似た二重存在をエーテル塊として作り上げた。
そのコピーの心臓を握りつぶして、標的を呪殺すると言うのがハサンの宝具だ。
言ってみれば、即席の藁人形である。
「苦悶を溢せ――――妄ごふっっ!!?」
後は握りつぶすだけと言う所で、ハサンの後頭部から口内を突き抜ける何かに襲われた。
「がぉっ!ごっ!」
その他にもほぼ同時に、この怪人の右掌と心臓部分が貫かれた。
その何かとは剣だった。
何の装飾も無い無骨な西洋剣為れど、単なる剣には無いはずの魔力を放っていた。
木の上から百代を狙っていたハサンは、その衝撃に落下していく。
致命傷を受けた怪人の体が徐々に魔力の滓にに変わる中で、激痛すらも消えかかる薄っすらとした意識の無意識の狭間でハサンは思った。
(あぁ・・・私・・・事が・・殺者・・しての基本・忘れ・・・怠る等・・無様・晒して当然・・・)
暗殺者は常に狩る側では無く、何か見落としが有れば瞬時に状況が翻ると言うのを忘れていた様だ。
ハサンは自分への叱咤と僅かな後悔の中、自分が自分足ら占める宝具を解き放つことは勿論、戦闘を一度も行うことなく世界に還って行った。
-Interlude-
ハサンが消滅した川神院の庭先から、10キロ程離れた高層ビルの屋上に黒い洋弓を持っていた赤い外套の人物である士郎が居た。
よく見ると士郎が履いているのはエミヤシロウとは違い、袴姿で日本刀を二本程腰にさしてある。
そして勿論ハサンを突き刺し殺したのは、士郎が投影した無銘の剣類だった。
しかもここからの精密射撃である。
「・・・・・・・・・・・・ハァ」
ハサンの射殺に成功したにも拘らず、士郎がついたのは安堵の息では無く溜息だった。
確かに目標はクリアできたが、問題はその内容だ。
士郎は、百代をこの地点からある一時――――入浴時以外は監視していたので、ハサンの事も気づいていた。
にも拘らず直に仕留めなかったのは確実性を期すためだった。
あのハサンは見覚えが有ったので、アサシンのクラスとして召喚されたと予想した士郎は機を待つ事にした。
此処でもし逃がせば次は確実に後手に回り、どれだけの被害を齎すかが解らなかったからだ。
それ故に、敢えて百代を囮にした上で、ハサンの宝具解放の瞬間である大きな隙を狙っていたのだった。
これが士郎の立てた臨時の策であり、溜息の原因でもあった。
客観的に見れば相手は英霊であり、被害を出すことなく神秘も秘匿することが出来たと言う事なしだが、士郎は同級生である百代を囮に使った自分の非情さにと弱さに、憂いていたのだ。
客観的に言わせてもらえれば、士郎は魔術使いとしては最強の部類だし、戦闘者としても万華鏡を師としていた頃に様々な平行世界に送られて行き、その経験と技法を生かして中々の強者になっている。
しかし士郎には今夜のうちにもう一つの仕事が残っていた。
「何時までも落ち込んでいてもしょうがない。とっとと行くか」
今後のためにと自分で決めた仕事を熟す為、士郎は高層ビルの屋上から飛び降りるように夜闇の空に自分自身を投げ出して行った。
-Interlude-
川神院現総代にして元最強元武神である川上鉄心は、百代の部屋から近い庭先に違和感を感じ取って行ったが、暫く居ても何も見つからないので、気のせいと思い直してから自室に戻ってくる処だった。
「ん?何じゃ、これは・・・」
そこで自室の襖に挟まれている封筒を見つけて、それを取る。
「ふむ、何々・・・・・・・・・・・・・・・」
封筒の中の手紙の内容を確認していく鉄心であったが、直に顔を上げた瞬間にその場から消え去って行った。
そうして鉄心が、まるで消え去るかのように駆けて来た山奥の中腹に着くと、赤い外套の人物に遭遇した。
『お早いお着きだ。流石は鉄心殿と言った所か』
「挨拶何ぞ、ええわい。それよりもお主は何者じゃ?」
『手紙に記載したはずですが?』
「魔術師・・・・・・か」
鉄心は疑いながらも、探るような眼つきで赤い外套の人物を観察する。
魔術師と言う人種を知っているからこそ、距離を置いた上での対応だった。
「その魔術師が儂に――――」
『川神百代は危険だ』
「何・・・?」
鉄心が質問する前に、赤い外套の人物は話を切り出した。
『もう一度言う。貴方の孫である川神百代は危険だ』
「如何いう意味じゃ?うちの孫がお前さんたちの領域に、エンカウントでもしたかの?」
『そう言う意味じゃない。寧ろその程度であれば話は簡単だった。直截に言えば彼女のあまりの才能が危険視されたのか、いずれ世界を亡ぼしうる要因としてガイアに狙われている』
「なっ!?」
鉄心はあまりの突飛過ぎる言葉に目を剥いた。
それはそうだ。いきなりガイアと言うキーワードを出されれば驚きもする。
ただ驚愕したにはしたが、鉄心の心の淵は冷静だった。
孫である百代のあまりの才能については、かつて武神と呼ばれた自分にすらも想像し切れない程だ。
しかし百代を危険視された事については、苦悩はしつつも不思議と納得できてしまった。
だが・・・。
「確かに百代の件についてはそれ程の才能じゃから理解できるが、お主の言うガイアの代弁者が狙っている証拠は有るのかのう?」
『提示できる証拠はないが、貴方も巷の噂なら耳に届いているはずだ。世界中の怪奇現象を。あれらは全てシャドウサーヴァントの仕業であり、彼らが捜しているのは世界を亡ぼす要因だ』
「その原因が儂の孫じゃと言うのかい?」
『その一つだと言っている。貴方は信じないかもしれないが、先程この周辺のシャドウサーヴァントが全て消えて、代わりに一体のアサシンのクラスに当てはめられたサーヴァントが現界して、彼女を暗殺しようとしていた』
「む!」
赤い外套の人物の言葉に、先ほどよりも小さくも確かに驚く。
態度は悪くも可愛い孫の命を狙われたのだ。
そこまで冷静になれるほど、鉄心の心はボケていなかった。
『心配せずとも私が先ほど仕留めた。まぁ、信じる信じないは貴方次第ではありますがね』
「・・・・・・庭先の僅かな違和感はそれか。――――分かったわい。それについては一応信じるとしよう。じゃがな、お主は魔術師じゃ。そんな人種について信じろと言うのは中々に難しいぞい」
『つまり素顔を曝せと?』
「それが儂に出来る範囲の最低条件じゃ。今後の事を考えて姿を現したんじゃろ?」
眉根を顰めて赤い外套の人物を見やる。
そんな風に見られた赤い外套の人物は、鉄心の提案を予想出来ていたのか、躊躇いもせずに仮面を外して外套も脱ぎ去った。
赤い外套の人物の行動にも驚いた鉄心だったが、素顔についてはそれ以上だった。
「お、お主は・・・・・・衛宮士郎!!?」
「こんばんわ、学園長。この様な時間帯に会うのは久しぶりですね」
素顔を曝したからなのか、口調と声音が何時も挨拶してくる少年、衛宮士郎のモノに成っていた。
そんな士郎とは裏腹に、鉄心は未だに動揺から抜け出せずにいた。
目の前の少年は、友人の藤村雷画にとってのお気に入りで孫同然に可愛がられていると言う話も聞いているし、現在校生の中では一番頭がイイ優等生でもある。
「・・・・・・まさかお主が魔術師じゃったとは、すっかり騙されたわい」
「騙すとは人聞きが悪い。俺は単に神秘の秘匿に加えて、一般人を此方の世界に巻き込まないために、隠して使い分けているだけですよ?」
自分の知らない衛宮士郎を、探るような眼つきでさらに聞く。
「・・・・・・雷画の奴はお主が魔術師だと知っておるのかのう?」
「もう何年も前に話しましたから、知っていますよ。他には?」
「魔術師は合理的な考えに基づいていると聞いておるが、お主は如何なんじゃ?」
「如何思いますか?」
「質問に質問で返すのは感心せんの。・・・・・・じゃが、雷画の奴が承知の上で、目の届く所に置いていると言う事に対しては信じたいのう」
友人である雷画の目が、確かなものだと言うのは理解しているからこその言葉だった。
「ではやはり完全には信用できないと?」
「そりゃあそうじゃろ・・・・・・と言いたい処じゃが、最低条件を呑んでもらったんじゃ。何か儂に要求があるのじゃろ?内容によるが取りあえず聞くわい」
「ではこれを川神百代に、日ごろから極力持っている様に頼んでもらえますか?」
「んむ?」
士郎は、よくあるお守りの様なアクセサリーを丁寧に鉄心に手渡した。
「それを常日頃からも所持していれば、今迄よりかはガイアの代理人の目を誤魔化せる筈です。と言っても急ごしらえの応急処置様ですが」
「これがのう・・・。じゃが既に百代は狙われたのじゃろ?応急処置なぞ今更無意味なんじゃないのか?」
「当然の心配でしょうがご安心を。今まで殲滅してきたシャドウサーヴァントも含めて、討滅に使った魔術にある細工を忍ばせていますから、川神の事はばれていない筈です」
士郎の説明に正直半信半疑と言った感じだが、何所まで行こうと魔術についてはお手上げ状態の鉄心からすれば、仕方なくも任せるしかなかった。
「一応、納得しておくの。それで後はお前さんの事を黙っておればよいのじゃな?」
「察してくれて助かります。勿論川神にもですよ?下手を打てば、彼女の現在の精神の在り方では、身も心まで戦闘狂になりかねません」
「耳の痛い話じゃが、最後に皮肉らなくてもいいじゃろうにぃ。――――お主、少し雷画の奴に似てきておるぞ?」
鉄心は、若干恨めしそうに士郎を見た。
その反応に士郎は苦笑する。
「そんなつもりは無かったんですがね。―――では今宵は是にて失礼させて頂きます」
士郎は一礼してから、手に持っていた赤い外套の『赤原礼装』と髑髏に似せたハサンの仮面を被り、一瞬にしてその場を去った。
気配すらも感知させずに。
「・・・・・・・・・相変わらずの身のこなしに気配の隠しヨナ。――――今更じゃがまったく、雷画の奴めはツイておるのう。あんな化け物を懐に忍ばせられるとは」
鉄心は、此処には居ない友人に向けて、僻みの言葉を呟く。
そして川神院の方角に向く。
「これ、モモの奴に如何言い含めようかのう・・・」
士郎に渡されたお守りを見て、また溜息をつくのだった。
-Interlude-
士郎は自宅に戻り居間に入ると、そこにはこの時間帯には珍しく、白を基調とした私服に身を包むスカサハがいた。
今更だが、彼女の漆黒の髪に白い服は良く映える。
「帰ったか」
「ど、如何して――――」
「お前が気落ちしていると思ってな。慰めてやろうと思ったのよ」
士郎の考えた策を了承したスカサハは、士郎がどの様な面持ちで帰って来るか予想出来ていたので、こうして待ってくれていた様だ。
「いいですよ。そんな」
「まぁまぁ、騙されたと思って私の目を見ろ」
「な、何・・・・・・ぉ・・・・・・・・・」
スカサハの手で無理矢理顔を固定された士郎は、彼女の瞳を見た瞬間に、体から力が抜けて意識を手放していった。
そこで倒れそうになる士郎を、スカサハが抱留める。
「ふむ、中々いい具合に体も出来て来たな。さてと、計画通りにことを進めるか」
士郎を抱留め運びながら、物騒な事を口走りつつ士郎の部屋に向かった。
-Interlude-
「ん・・・」
まだ日が昇っていない内に士郎の意識が覚醒していく。
そんな士郎は可笑しな違和感を感じ取った。
士郎はこれまで寝相などしたことなど無いので、誰かに動かされない限り寝た時と同じ体勢で起きるのだ。
ましてや抱き枕を抱いて寝るなどした事が無い、と言うか抱き枕も無い。
しかし今の士郎は、ぬくもりのある抱き枕?の様なモノを抱いて寝ていた。
「何だ・・・・・・・・・・・・・・・え?」
自分が何を抱いているか確認しようと目を開けたら、そこにはスカサハの寝顔が有った。
しかも彼女は、上は胸元を少し肌蹴させたワイシャツで、士郎からは見えないだろうが下の方は黒の下着以外履いていなかった。
「・・・・・・・・・・・・・・・!?!!?!?!?」
この事に士郎の思考がパニック祭りに突入した。
それはそうだろう。このシチュエーションは第3者が見た場合――――いや、誰が如何見ても恋人同士で抱き合って寝ている余にしか見えないのだ。
因みに、士郎は下は何時ものジャージを吐いているのに、何故か上はまっぱであった。
士郎の体は今の年齢には不釣り合いなほどに鍛え上げられており、鋼の鎧を着こんでいるようにも思える程の体だった。
ワイルド系の好きな女性が見れば、頬を赤らめて涎を零しそうになるほどに。
(何故、何、如何して、何で、何が、何を、何々何々何々何々何々何々何々何々、なんでさっ!?)
士郎はパニックにハマりながらも、なんとか気持ちを落ち着かせる様に努めていく。
(・・・・・・・・・ふぅー、取りあえず確認だ!俺はどうして師匠と一緒に寝てるん――――)
「それは昨夜、私たちが情熱的に愛し合ったからだろう」
「・・・・・・・・・・・・・・・し、しししし、師匠ぉおおおおおおおぉぉおおおぉおおおおおおお!!?」
心を落ち着かせている最中に、まだ半目だが、何時の間にかスカサハが起きていた。
そんなスカサハに対して、ツッコむ前に驚きながら布団から飛び出した。
「その様な態度、さしもの私も傷つくぞ?昨夜のお前は、私の元で学び巣立っていったケルトの戦士たちの様に荒々しくも、狂おしかったと言うのに。――――つれない奴じゃのう」
「なぁああああああぁあああああ!!?」
スカサハは、顎に手を当てて口周りを一度舐めてから、厭らしく堪らなくなってくる怪しい眼で士郎を見つめる。
対して士郎は翻弄されるばかりだ。
元の世界で関係を作った女性たちにも、基本的には主導権を取られていたからだ。後半戦に成ると士郎の方がスタミナがあったので、立場は逆転していたが。
そうしてあらかた士郎の初心な態度で楽しんだスカサハは、そろそろネタばらしをする。
「さて冗談はこれ位にするかのう」
「じょ、冗談・・・?」
「何じゃ、ホントだった方がよかったか?何、昨夜のお前を元気づける為にこうして趣向を凝らしたわけよ。――――まぁ、半分以上は嬉々としてやったが」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
全く悪びれないスカサハの態度に、士郎は朝から疲れたーと言いたそうに頭を垂れた。
「あと、士郎。良いのか?今日は藤村組の花見だった筈だが、料理の仕込みをしなくても?」
「っ!そうだった!?急いで仕度しないと、今何時だ?」
スカサハに言われてハッとした士郎は、そのままの姿で台所に向かって行った。
その士郎の後ろ姿を見送ったスカサハは、一人呟く。
「生に飽き、死ぬことを望んでいた私を楽しませてくれるとは、ほんとに興味深い奴じゃな」
感慨にふけながらスカサハは、漸く上ってくる朝日を見つめる。
「影の国に居た時は、ただダラダラと生きてきたが、異世界にて新しい生を謳歌するのも悪くないな」
そして瞳を閉じてまた呟く。
「――――そうは思わぬか?士郎よ」
後書き
細工と言うのはスカサハの魔術によるものです。
まぁ、キーワードに載せているご都合主義とお考え下さい。
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