サウスポー

第七章

「ボールをよく見ているな」
「そういえば近藤からも」
「三安打」
　このことが観客席においても語られる。
「しかも一本はツーベースだしな」
「相性もいいのか」
「あいつにとっては一番嫌な相手だ」
　このことも語られた。
「間違いなくな」
「最後の最後でそんな奴が出て来るなんてな」
「嫌な展開だな」
「下手すれば本当に逆転か！？」
　ホームランが出れば間違いなくそうなる展開なのは変わっていない。
「ここは。間違いなく」
「やっぱりまずいな」
「抑えられるか？」
　今までで一番不安になる彼等であった。
「今度ばかりは駄目か？」
「どうなるんだよ、本当に」
　そんな声の中彼は二球目を投げた。今度は内角低めのストレートだったがそれはバットに当たりボールは後ろに飛んだのだった。
「よし、まずは一球だな」
「いけるか？」
「芯に当たった」
　しかしここでも言われた。
「今のは。当たった」
「当たってるか？」
「後ろに飛んだ」
　そしてボールはバックネットに当たった。これ自体はよくあることだ。
「それは芯に当たった証拠だ」
「じゃあやっぱり近藤のボールは」
「あいつには駄目なのか？」
「だったらよ」
「本当にまずいかもな」
　危惧する声がまた出された。
「これはな」
「うう・・・・・・」
「辛いな」
　見ている方もこう思うようになってしまう展開だった。
「これであと二球もか」
「打ち取れればいいんだけれどな」
「いや、打たれたらまずい」
　打たせて取ることはここでは危険視された。
「余計にな。三安打も打たれているんだ」
「だからか」
「それも駄目か」
「三振に取るしかない」
　今はそれしかないのだった。
「ここはな」
「おい、頼むぞ」
「あと二球だからな」
　彼等も祈るばかりだった。今はこれしかなかったしできなかった。マウンドにいない彼等にとってはまことに心細いことだった。その中で一三は三球目を投げた。
　今度はカーブだった。内角に入る。しかしこれは内角でボールになってしまった。
「ボール！」
「ワンツーか」
「バッター有利だな」
　俗にバッター有利とされるカウントである。
「フォアボールになったら余計まずいよな」
「ここで満塁は最悪だろ？」
「だよな」
　だからこれは余計にまずいと結論付けられたのだった。
「じゃああと二球か、やっぱり」
「やるしかないか」
　結局はこうなるのだった。
「本当に頼むぜ、近藤」
「御前しかいないんだからな」
　祈りの言葉は続けられる。その中で投げた四球目、今度はストレートが外角高めに入る。今度もまたボールはバックネットにぶつかったのだった。
「やっぱり芯かよ」
「捉えられてるな」
「間違いない」
　二球目もだった。最早疑う余地はなかった。