銀河英雄伝説~其処に有る危機編
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第六話 士官学校には危険が一杯
帝国暦487年 7月 25日 オーディン 士官学校 エーリッヒ・ヴァレンシュタイン
五月の末に卒業式が有って六月の末に入学式が有った。何時もは軍務次官の仕事なのだが今年は帝国軍三長官が来賓として参列した。別に要請したわけでは無いんだが卒業式の評判が良かったからだろう、三長官も積極的に士官学校の式典に参加してくれた。ついでに言うと国務尚書リヒテンラーデ侯も参加した。式典に参加する事で政府のイメージアップを図ろうとしている様だ。
そして新学期が始まってもう一ヶ月だ。月日が流れるのは早い、新入生も学生生活に慣れただろう。八月になれば夏季休暇だ。そして俺はまたレポートを出さなければならん。段々ウンザリしてきたな。今度はアルテミスの首飾りの攻略法でも書くか、反響は小さいだろう。……六月一日付で人事異動が発表された。イゼルローン要塞司令官シュトックハウゼン大将、駐留艦隊司令官ゼークト大将が上級大将に昇進、軍事参議官になった。後任は要塞司令官にグライフス大将、駐留艦隊司令官にメルカッツ大将だ。なかなか良い人事だと軍の内外で好評らしい。
ラインハルトがオーディンに戻って来た。今回の遠征では良いところが無かった。イゼルローン要塞攻略に失敗した同盟軍を追ったのだが逆に同盟軍によって包囲されかかった。原作のように各個撃破とはいかなかったという事だ。まあ出張って来たのがビュコック、ウランフ、ボロディン、ヤンだったらしい。ボンクラのパエッタ、パストーレ、ムーアとはレベルが違う。大怪我する前にゼークトの艦隊が救出したようだ。
本人は残念かもしれない。悔しいだろうが同盟軍はイゼルローン要塞攻略に失敗している。敵の攻撃を挫いたんだ、ラインハルトの敗退はそれほど大きな失態とは見られていない。だが本人はかなり気にしているらしい。オーディンに戻ってからブチブチ愚痴っている様だ。帝国が守勢を取るというのも気に入らないらしい。俺の悪口でも言っているのかもしれないな。焦る事は無い、落ち着いてじっくりと次の機会を待てば良いんだ。誰かそう言って頭を撫でてやる人間が居れば良いんだが……。
捕虜交換は七月から始まる事になった。既に多くの捕虜がフェザーンに向かっている。帝国政府は捕虜返還後にそれを祝って酒、煙草を始めとして一部間接税の税率を今年一年間に限って軽減すると発表した。俺がリヒテンラーデ侯に提案した。入学式の後、帰還した捕虜に何らかの恩恵を与えたいが何か良い考えが有るかと侯に訊かれたからな。
あの爺さん、恩恵は施したいが政府の金は出来るだけ使いたくないと考えていた。虫の良い話だよ。でもまあ分からないでもない、帝国は慢性的に税収不足だ。爺さんは俺の案を財務省に検討させて税率を下げても捕虜の帰還祝いでかなり消費が増えむしろ増収になると判断したらしい。……大丈夫かな?
まあ期間限定の減税、あと四カ月だ。失敗しても来年には元に戻る。この件で俺は財務省の役人から好意的に見られているらしい。それに帝文をとっているからな、連中にとっては半分仲間、兄弟とは言えないが又従弟ぐらいには感じている様だ。軍に飽きたらそっちに進むのも有りだな。その頃にはカストロプ公爵家も断絶しているだろう。
「閣下、如何されたのですか。先程から楽しそうですが」
「いえ、良い季節になったと思ったのです」
ヴァレリーが胡散臭そうに俺を見ている。あのなあ、君は俺の副官なのだよ。なんでそんなに俺を疑いの眼で見るんだ? もうちょっと信頼の眼で見ても良いと思うんだけど。上官と部下、信頼関係が有って当然だろう。もう長い付き合いなんだから。でも七月末だとちょっと暑い。良い季節はおかしかったか。
「授業の内容も変わりましたしね、どんな影響が出るか、楽しみなのです」
うん、少しは視線が和らいだか。シミュレーション対戦を少し変えた。これまでは士官候補生同士の対戦が主だったが新学期からはコンピュータとの対戦を一週間に一度は義務付けている。但し、コンピュータとの対戦は士官候補生側に不利な条件に設定されている。
勝つための戦いでは無く出来るだけ損害を少なくして撤退するための戦闘を学ばせるためだ。教官達が反対するかと思ったが意外にもすんなりと賛成してくれた。シミュレーションならともかく現実では互角の条件での戦闘などそれほど多くない。上手に負ける事も大事、或いは逃げる事も大事だと教える必要が有ると教官達も思っていたようだ。
シュターデンみたいな戦術至上主義のアホが居なくて良かったわ。あいつ、今は二千隻程度の哨戒艦隊の司令官をしているらしい。ラインハルトが宇宙艦隊副司令長官になった時に司令部から追い出されたようだ。ま、良いんじゃないかな。変な作戦を計画されるよりずっとましだ。それに今の宇宙艦隊の正規艦隊司令官は皆シュターデンを嫌っている。宇宙艦隊司令部に居場所は無かっただろう。
生徒達からも反発の声は聞こえない。卒業式で十年間で二割から三割の戦死者が出ると教えたからな。生き残るのは大変だと理解したらしい。実際全ての新米士官が戦場に出るわけじゃない、一生デスクワークに従事する士官もいる。それを考えれば本当の戦死率は格段に跳ね上がるだろう。考えてみれば俺も良く生き残ったよ、原作知識が無かったら死んでいたかもしれない。
シミュレーションの他にも戦略と補給の大切さを理解させたいと思って時々兵站の授業を受け持っている。校長のやる事じゃないという意見も有るがどうしても候補生はシミュレーションでの勝ち負けに拘るからな、シミュレーションの授業に変化を付けた今が一番候補生にインパクトを与える筈だ。戦争の基本が戦略と補給だと認識出来れば候補生達にとって戦術的勝利の持つ比重が小さくなるだろう。戦術的勝利に拘らなければその分だけ不必要な犠牲を強いる事も無いし長生き出来る確率が増える。
候補生達には軍事だけじゃなく政治、経済についても教えないと。特に自由惑星同盟とはどういう国なのか、その辺りを理解させたい。単純に反乱軍という認識じゃ困るんだ。それに戦争が経済に、国家に及ぼす影響も考えて貰わないと……。如何したものかな、一度俺が全校生徒を対象に講話という形で教えるのも良いかもしれない。大勢の前で話すのは苦手だが授業に取り込むというのはちょっと難しいからな。候補生にまずは関心を持たせる事から始めよう。夏休み明けにでもやってみようか。
帝国暦487年 7月 25日 オーディン 士官学校 ミヒャエル・ニヒェルマン
うん、今日の夕食はなかなかいける、当たりかな。一緒に食べている六人も美味しそうに食べている。士官学校の寄宿舎で出す食事は量は多いんだけど味が……。昨日のシチューは牛肉が嫌になるほど硬かった。消化不良を起こしそうだったし顎も疲れた。きっと皆の顎を鍛えるためにあの肉を使ったんだろう。白兵戦技の訓練の一環に違いない。
「今日のシミュレーションはきつかったよ」
「え、なに、相手が大軍だったの」
「いや違うよ、こっちの五割増し。戦うか退くか、本当に迷った」
“そうだな”、“俺も前回がそうだった”と声が上がった。おいおい、口に物が入っている間は喋るなよ。飲み込んでから言え、行儀が悪いぞ。
「で、如何したの? ハルトマン」
僕が質問するとクラウス・ハルトマン、五割増の相手とシミュレーションした奴は困った様な顔をした。
「二倍なら退いたけど五割増しだからな。戦ったよ。負けてもシミュレーションだから……」
「勝ったのか?」
「いや、負けた。あれなら最初から撤退した方が良かったな。撤退戦の勉強になった」
皆、沈黙だ。ちょっと声がかけ辛い。ハルトマンは沈んだ表情をしている。
新学期が始まってから授業の内容が少し変わった。特に変わったのはシミュレーションでコンピュータ相手に結構不利な条件で戦わされる事が時々ある。学校側の説明ではこの対戦は成績には直接関係しないらしい。つまり逃げても負けても構わない、生徒の判断に任せるというのだけれどそれだけにどう判断するかが難しい。いつものように単純に勝てと言われる方が楽なんだけどそれじゃ実戦に即していないという事のようだ。
「二倍なら簡単に撤退を決められるけど……」
「うん、五割増しだと戦意不足って取られかねないからな」
皆が頷いた。ハルトマンも頷いている。そうなんだよね、誰だって臆病者とは思われたくない。なかなか簡単には撤退する決断は出来ない。自分だって撤退の判断は下せないかもしれない。
「でも負けたら意味が無い。あれが実戦だったらと思うとぞっとするよ。俺の判断で五十万人が戦死したんだから」
ハルトマンがぼやく。げんなりだ、気が滅入るよ。
「シミュレーションだけど凄く迷ったよ。あれが実戦だったら如何なんだろう。やっぱり迷うのかな、でも迷ってる時間なんて有るのかな。その場で決断を求められたら……」
「……」
「ほんの小さなミス、些細な誤認でとんでもない犠牲が出る……、校長閣下の言う通りだと思ったよ」
ハルトマンが首を振りながら溜息を吐いた。
「無能と蔑まれるか、臆病者と蔑まれるか、厳しいよね」
ますます気が滅入った。今日も消化不良だ。話題を変えよう。
「もう直ぐ夏休みだけど如何するの?」
三人は帰省するって答えた。一人はマリーンドルフに居る親戚の家に行く。そして僕を含めてハルトマンとエッティンガーの三人は寄宿舎に残る。家に帰りたいけど遠いからな、片道だけで二十日以上かかるから帰るのは到底無理だ。期末試験で盛り返して何とか三年次の専攻は戦史科に進む事が出来たから会えば喜んで貰えると思うけど……、会えるのは卒業式だな。
夏休みは如何しようか? 前から読みたいと思っていた孫子でも読んでみようかな? 九月になったら直ぐに中間試験だから勉強もしないといけない。校長閣下を始め教官達も居るから勉強を教わろうかな。話を聞くのも良いかもしれない。色々と為になりそうだ。実は士官候補生ってオーディン在住の生徒よりも地方出身者の方が全般的に成績が良いって言われている。
その理由の一つが年に三回有る長期休暇、夏季休暇、年越し休暇、春期休暇の過ごし方に有るらしい。僕ら地方出身者は寄宿舎にいるからね、士官学校でついついシミュレーションで遊んでしまったり図書室で本を読んだりする。熱心に勉強するとは言えないけどそれなりに勉強してしまうんだ。それが成績に影響するって言われている。夏季休暇まであと一週間、もう一踏ん張りだ。
帝国暦487年 8月 15日 オーディン 士官学校 ミヒャエル・ニヒェルマン
お昼を食べてからハルトマン、エッティンガーと図書室に行くと校長閣下が副官のフィッツシモンズ少佐と一緒に本を探していた。エッティンガーが“少佐だ”と小声で呟く。こいつ、少佐に興味有るんだ。背がすらっとして美人だからな。それに赤褐色の髪と瞳が凄く印象的だ。エッティンガーだけじゃなく他にも少佐に憧れている候補生は結構いる。少佐は反乱軍からの亡命者だけど反乱軍って帝国と違って女性でも前線に出るんだよね。当然だけど少佐は士官教育を受けている。反乱軍は士官学校も共学らしい。帝国じゃ信じられない事だ。
「ライムント・シーフェルデッカー、これですか?」
「ああ、そうです、これです」
「戦争における非戦闘部隊の役割……、補給関係の本のようですが」
「ええ、戦闘部隊が効率的に戦闘を行うにはどれだけの後方支援が必要か。それが書かれています。実際には軍には補給だけでは無く人事や経理、総務なども有りますから膨大な非戦闘部隊が存在する事になります。軽視されがちですけどね」
ヴァレンシュタイン校長閣下とフィッツシモンズ少佐が一冊の本を見ながら話している。シーフェルデッカー? 聞いた事が無いな。一体誰なんだろう? 戦争における非戦闘部隊の役割って本も知らない。ハルトマン、エッティンガーに視線を向けたけど二人とも首を横に振った。後で僕も読んでみよう。孫子を読んでみたけど面白かった。ハルトマン、エッティンガーも面白かったって言っている。でも訊きたい事も有るんだよな。あ、少佐が僕達に気付いた。校長閣下も僕達を見ている。訊いてみようかな? 如何しよう。
「精が出るね、勉強かな、それとも調べもの?」
迷っていると校長閣下が近付いてきてニコニコしながら声をかけてきた。閣下っていつもニコニコしていて近所の優しいお兄さんみたいだ。
「はい、ツィーグラーの戦略戦術の一般原則を読みたいと思って来ました」
ハルトマンが答えると閣下がウンウンって頷いた。
「あの、孫子を読みました。凄く面白かったです」
「自分もニヒェルマンに薦められて読みました」
「自分もです、面白かったです」
閣下が“それは良かった”と嬉しそうに言ってくれた。
「でもあれは偉い人が読む本なんじゃないですか」
僕が問い掛けるとハルトマンが頷きエッティンガーも頷いた。孫子って読んでいると君主とか将軍とかいう言葉が出てきてその立場の人は如何すべきかって事が書かれている。士官候補生の僕なんかが読んで良いのかな? そう思ったんだけど。
「そういうところは確かにあるね。孫子は孫武という人が書いたのだけど彼が生きていた時代は占いで戦うかどうかを決める事が多かった。まだ用兵学が確立していない時代だったんだ」
占いで決める? 思わず“えーっ”と声を上げてしまった。僕だけじゃない、ハルトマン、エッティンガーも声を上げて驚いている。少佐も目が点だ。そんな僕達を見て閣下が“本当だよ、亀の甲羅を焼いて占ったという話もある”と言って可笑しそうに笑い声をあげた。占い? 亀の甲羅? そんな昔の人なの、孫武って。
「孫武はその事に疑問を持って戦争を科学的に分析し戦争とは何なのか、戦争とは如何行うべきかを書いた。それが孫子なんだ。国家指導者、軍の指導者、指揮官向けの軍事指南書と言えるね」
「じゃあ自分達が読んで意味が有るんでしょうか? 面白かったとは思いますけど」
ハルトマンが自信無さそうに訊ねた。
「勿論、意味は有るよ」
校長閣下が優しそうな笑みを浮かべている。癒されるなあ、ホッとする。
「君達が国家指導者、軍の指導者、指揮官になれば必要とされる知識だ。仮になれなくてもその視点を持つ事は必要だと私は思う。上層部が何を考えてどういう方向に進もうとしているかを理解する。そうする事で今行われる戦いが如何いう意味を持つか、自分の行動が如何いう意味を持つかも理解出来る筈だ。そうでなければ君達は単なる戦争の道具になってしまう、使い捨てのね。私は君達にそうなって欲しくない」
胸がジーンとした。閣下は本当に僕達の事を考えてくれるんだ。ハルトマン、エッティンガーも頬が紅潮している。二人も僕と同じ気持ちに違いない。ハルトマンが一歩閣下に近付いた。
「閣下、自分は授業で五割増しの敵と戦うシミュレーションを行いました。そして負けました。実戦なら五十万人が戦死しています。僕は、いえ自分は臆病と言われるのが怖くて撤退出来なかったんです。自分は、自分は軍人に向いていないんでしょうか?」
ハルトマン……、俯いている。時々落ち込んでいたけどずっと悩んでいたのかな。エッティンガーも心配そうにハルトマンを見ている。さっきまで笑顔だったフィッツシモンズ少佐も笑みを消している。閣下はじっとハルトマンを見ていたけどフッと息を吐いた。
「シミュレーションは勝つ必要は無いんだ。負けても良いんだよ」
「でも」
「大事なのは状況を想定する事、その中で最善を尽くす事だ」
状況を想定? 最善? どういう事だろう、ハルトマンも顔を上げ訝しんでいる。閣下は僕達が納得していないと気付いたようだ、苦笑を浮かべている。
「例えばだが同じ兵力差でも退いて良い場合と戦わなければならない場合が有る。哨戒任務中の遭遇なら退いても構わない。しかし補給船団の護衛任務中で物資が届かなければ味方が大敗北を喫するとなれば物資を守るために不利を承知で戦わなければならない。例え自分の艦隊が敗北しても補給物資を守りそれによって味方が勝利を収められるならそれは意味の有る敗北だ。そうじゃないかな?」
ハルトマンが“はい”と答えると閣下が頷いた。
「状況を想定する事、その中で自分に何が求められているか、自分に何が出来るかをシミュレーションで確認する。それがシミュレーションの持つ意味だ。勝つ事ではないんだよ、ハルトマン候補生。シミュレーションの勝敗に拘らないと言っているのはその状況を想定して最善の行動が何なのかを確認しなさいという事なんだ」
「はい!」
ハルトマンが力強く頷いた。僕もエッティンガーも頷いた。校長閣下が僕達を見て優しく笑みを浮かべてくれた。
帝国暦487年 8月 15日 オーディン 士官学校 ヴァレリー・リン・フィッツシモンズ
ヴァレンシュタイン中将は楽しそうに候補生達と話している。そして候補生達は中将を尊敬の眼差しで見ていた。溜息が出そう、外面だけは良いんだから……。あの卒業式以来ヴァレンシュタイン中将は近年稀に見る名校長って言われているらしいけど少年達、騙されちゃ駄目よ。目の前の中将閣下はとんでもない人なんだから。
今日もエーレンベルク軍務尚書閣下から中将にTV電話が有った。偶々私が出たんだけど唸る様な声で“ヴァレンシュタインは何処だ”って睨まれたわ。直ぐに中将に代わって席を外したから話の内容は知らないけど想像は付く。多分また碌でもないレポートを出したんだと思う。中将がアレを出す度に何かが起きる。まあ捕虜交換の件では助けて貰っているから感謝はしているけど……。
「閣下は逃げ、あ、撤退した事は有るのですか?」
「馬鹿、そんな事有るわけないだろ」
「そんな事は無い、逃げた事は有るよ」
候補生達が“えーっ”と声を上げる。私が副官になってからは無いからその前だろう。ニコニコしているから余り大した事は無いのだと思う。
「本当ですか?」
「本当だよ。ヴァンフリート4=2ではもう少しで負けそうになって逃げた。もっとも上層部は逃げたとは思わなかっただろうけどね」
ヴァンフリート4=2? 帝国軍の大勝利だった。それに中将が居た艦隊は最大の武勲を上げた艦隊の筈だけど……。訝しんでいると中将が私を見て“本当ですよ”と言った。
「地上基地を攻略中に反乱軍の艦隊が近付いてきたんです。来るのは想定していましたが予想よりも早かったので慌てました。まあ相手を騙して逃げましたが内心ヒヤヒヤでしたよ」
中将が肩を竦めると候補生達が感心したような声を出した。私もちょっと驚いた。そんな事が有ったんだ。
「退く事を懼れてはいけないよ。必要が有れば躊躇わずに退く。そのためにも逃げる方法を覚えておくんだ。命は一つしかないし大事に使えば長持ちするんだからね。粗末に扱ってはいけないよ」
「はい!」
候補生達が大きな声で答えるとヴァレンシュタイン中将が嬉しそうに頷いた。そして候補生達は頬を紅潮させている。なんか一番校長にしてはいけない人が校長になっている様な気がした。……多分、気のせいよね。
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