戦国異伝
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第二百三十四話 燃え落ちる寺その九
「上様だけはある」
「ですから都を一時敵に渡しても」
「大事はありませぬな」
「そうです、確かに都を明け渡すのは不本意ですが」
「取り戻せばいいだけのこと」
笑って言う幸村だった。
「後で」
「そういうことです、では幸村殿」
「これよりですな」
「我等も落ちましょう」
「さすれば」
こう話してだ、そしてだった。
幸村達も落ち延びた、彼等は瞬く間に都から消えた。本能寺も二条城も爆発さえ起きて紅蓮の炎に覆われた。
その炎を見つつだ、闇の者達は話した。
「死んだか、織田信長は」
「織田信忠は」
「本能寺は燃えた」
「二条城もな」
「二人共その中で腹を切った様だが」
「亡骸を見なければな」
「それを確かめようぞ」
こう闇の中で話すのだった、闇から燃える本能寺と二条城を見つつ。
「都の中も探してな」
「生き延びて隠れてるやも知れぬ」
「ついでに都を押さえるか」
「そしてついでに御所もな」
「神武の血を引く者達も捕らえようぞ」
「あと六波羅もじゃ」
織田家が都を守る為に置いたそちらもというのだ。
「近頃は所司代というらしいが」
「あそこも攻めてな」
「そしてな」
「次はどうするかじゃな」
「安土じゃ」
老人の声が言って来た、ここで。
「安土を攻めるぞ」
「あの地をですか」
「一気に攻めますか」
「そして、ですか」
「安土も押さえてですか」
「そこからじゃ」
まさにというのだ。
「天下を乱すぞ、そしてその前にな」
「はい、本能寺と二条城の火が消えたら」
「その時からですな」
「織田信長の骸を探すのですな」
「織田信忠のものを」
「そうじゃ、死んだとは思うが」
それでもだというのだ。
「確かめよ」
「寺や城の中に入りです」
「それで以後出てきませぬ」
「しかも燃えています」
「それでは腹を切ったと思われますが」
「それでもですな」
「確かめねばなりませぬな」
他の者達も言うのだった。
「ここは」
「そうしてですな」
「都も押さえ」
「そして、ですな」
「安土に向かうぞ」
「御前、それでなのですが」
ここで一人が言って来た。
「逃げた者達がいますが」
「本能寺と二条城からじゃな」
「はい、武士と忍が幾人か来ていますが」
「捨て置け」
これが老人の声の返事っだった。
「織田信長、そして跡継ぎの織田信忠さえいなければな」
「どうとでもなりますな」
「あの者達のことなぞよい」
まさに歯牙にもかけぬという言葉だった。
「織田信長、そして天下じゃ」
「織田信長の生死を確かめ」
「そして天下を乱すこと」
「それが、ですな」
「大事なのですな」
「そうじゃ、だからそうした者達はな」
まさにというのだ。
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