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怪我から

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5部分:第五章


第五章

「他には何が好きなの?」
「好きなのですか」
「お野菜とか果物で。何が好きなの?」
「林檎の他にはオレンジとか」
 問われるままに答える実生だった。
「あとは苺にトマトに人参に」
「いいわね、全部いいわよ」
 そして蘭流はその野菜や果物の種類を聞いてさらに笑顔になるのだった。
「全部。物凄くビタミンが多いのよ」
「それは知ってますけれど」
「じゃあこれからはそうしたののジュースも作るわね」
「看護士さんが作ってくれるんですか」
「だって。私は実生ちゃんの看護士だから」
 にこりと笑って彼女に告げてきた。
「それも当然よ。じゃあまずは林檎のジュースね」
「はい」
「いただきましょう。もう少し歩いたらね」
「わかりました」
 こうして実生はその大好きな林檎ジュースを貰うのだった。それがはじまりで実生は蘭流と共にリハビリを続けた。それは彼女にかなり自由なものでかなり好きに、もっと言えば多くやった。蘭流はそんな彼女の側にいていつもジュースや牛乳、それタオルを用意してくれていた。
「はい、今日もお疲れ様」
「はい」
 この日もかなりリハビリをしてそのうえで病院の中の席に座る実生の横についてジュースとタオルを出す。ジュースは今日は苺のジュースだった。
「かなりよくなってきたわね」
「はい。自分でもそう思います」
 蘭流の差し出したそのタオルで身体を拭きながら応える。
「あと少しで」
「そうよ。あと少しだからね」
「はい、頑張ります」
 何故かここで蘭流に対して素直な言葉で応えることができた。
「あと少しですから」
「頑張ってね。それとジュースだけれど」
「美味しいですよ」
 その苺ジュースもにこにことして飲んでいる。
「とても」
「そうよね。これも百パーセントなのよ」
「それが一番身体にいいんですよね」
「食べるものはね。美味しいのと一緒で身体によくないといけないのよ」
 こう実生に対して言うのだった。
「一緒にね。両方ないといけないのよ」
「両方ですか」
「ええ、両方」
 言いながら替えのタオルを差し出すのだった。そっと。
「有り難うございます」
 実生は御礼の言葉を述べてからそのタオルを受け取った。そのうえで静かに微笑むのだった。ここまでごく自然に行うことができた。
「いえいえ。汗も随分かいてるわね」
「何か今日暑くて」
「暑いと汗をかくのは当然よ」
 蘭流はそれは当然だと言う。
「けれどね。そういう時にはね」
「ちゃんと汗を拭いてですね」
「身体を冷やしたらいけないから」
 それが理由であった。
「スポーツするからにはね。身体を冷やしたら駄目よ」
「ええ、それはわかっています」
 実生も当然ながらそれはよくわかっていた。
「けれど替えのタオルまで」
「いいのよ。一枚で駄目なら二枚」
 彼女は言う。
「用意すればいいだけだから」
「だからですか」
「そうよ。だからどんどん使っていいの」
 微笑んでの言葉だった。
「それよりもリハビリね」
「はい、頑張ります」
 こうした日々を過ごしそのうえでリハビリを進めていった。そうして遂には退院した。その時に病院の玄関で蘭流に対して頭を下げて言うのだった。
「有り難うございました」
「えっ、実生が素直に御礼を言うなんて」
 彼女の横にいた母が驚いて言った言葉だ。
「まさか。そんな」
「そんなに驚くこと?」
「驚くわよ」
 少し聴いただけでは実の娘に対するものとはとても思えない言葉だった。
「あんたが御礼言うなんて」
「実生さんはいい方ですよ」
 しかしここで蘭流はにこりと笑って彼女に述べるのだった。
 
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