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忍具を扱う少女

作者:不遇救済
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第3話


 テンテンは自分のことを平凡で、突出した才能がないアカデミー生だと思っている。実際、体術や忍術、筆記での成績は平均程度。教師からの評価も手のかからない優秀な生徒、と特に目立ったところはない。しかし、そんな彼女にも才能があることには違いない。



 その日、彼女は自分の家の庭で日課の修行をしていた。
 忍具家を営む彼女の家では、忍具の試用のために専用の庭が存在する。忍を志す彼女は忍具の試用を兼ね、こうしてここで修行することが日課になっていた。
 修行内容はチャクラを練るための瞑想から一通りの体術の型を模倣。習った忍術の確認と他のアカデミー生と比べるとちゃんとしてはいるが普通なものだ。だが、ただ一つ、忍具をつかった修行だけはどこかおかしい。

「ふん! はぁ!! やぁ!!」

 キンッ キンッ キンッ サクッ

 三つの手裏剣がぶつかり合い、一つの的へと刺さる。手裏剣に手裏剣を当てることで軌道を変え、まるで見当はずれの場所に投げられたと思われた手裏剣は全て狙い通りの場所へ刺さる。
 父が忍具家を営んでいる以上、これくらいの手裏剣術は普通だと、彼女自身はそう思っている。確かに手裏剣術と一つに言ってしまえばアカデミー生でもできて当たり前の技術だ。的に当てられることで教師から褒められることはあってもそれを誇る者はいない。動かない的に三つの手裏剣を狙い通り投げられたことくらいでは自慢にはならないのだ。

「ふぅ! きょうはこれくらいでいいかしらね」

 満足そうに頷くその様子には、先日まで自分の目指す姿がわからずにうつむいていた頃の陰りはもうみえない。誰でもできる当たり前の手裏剣術、しかし満足そうに的に刺さった手裏剣を見て頷く。朝の日課はいままでと変わらない。的に刺さった手裏剣もいままでと全く変わらないものだ。しかし、あの悩める日をきっかけに彼女のいまは少しずつ変わっていく。




「おう、テンテン! おはようってば!」

 アカデミーの朝、いの一番に声をかけてきたのは先日以来顔見知りとなったうずまきナルトだった。顔に青いペンキのようなものをつけたその姿から、またイタズラをしてきた後なのだとわかる。

「おはよ、ってあんたどこから来たのよ!? またイタズラ? ほどほどにしとかないとまたイルカ先生に怒られるわよ」
「くぉらぁ! ナルトー!!」
「うわ、来た!! じゃ、じゃあ俺はもう行くってばよ!」
「あー、はいはい。行ってらっしゃい」

 ナルトとあいさつすることはいままでにはなかったことだ。彼と話をすることによって友人たちの中には悪い噂を信じ、ナルトと縁を切るように見当はずれの忠告をしてくるものがいた。その忠告を無視していると今度はテンテンと縁を切り、裏で悪い噂を流すようになったのだからいままでどれほど自分が節穴なのかを知らされた気分だった。
 あの日以降、彼女にとって忍とは『忍の心得』に書かれた言葉そのものとなった。そして、忍ですらないただの少女たちと関係を絶つことはまだ完全に割り切ることができない少女にとっては辛いものだった。

「あの、おはようございます!」
「あら、ヒナタ。おはよ」

 友人だった者だけが彼女の周りにいるわけではない。いまの彼女にとっては辛い過去よりもいままわりにいる人たちが大切だった。
 この目の前でもじもじしている少女も、いま彼女が大切にしている者の一人である。白みがかった特殊な瞳を持つこの少女の名前は日向ヒナタ。テンテンと同じ学年にいる天才と呼ばれる少年と同じ一族、日向の少女である。
 白眼と呼ばれる血継限界を持つ日向の一族は、木の葉隠れの里創立から続く長い歴史を持つ名門の家だ。そして名門日向と呼ばれる彼女の家は歴史だけでなく忍としても大きな力を持つと聞く。同じ学年の天才少年をみればその実力には納得がいくが、目の前でポーッと笑う少女をみると首をかしげてしまうのだから同じ一族でも良し悪しだろう。

 ヒナタと別れたテンテンはいままでであればそのまま教室に入り、友人と呼んでいた少女たちと会話をして時間を潰していただろう。しかしいまではもうクラスにそんな友人はいない。教室の代わりに彼女が向かったのはアカデミーの裏手にある庭だった。

「うぉぉぉぉおおお!! 六百八十九! 六百九十!!」
「リー、朝からそんなに体力をつかっていたらまた授業寝ることになるわよ? あんた、あまり成績よくないんだから体術以外もやることやらなきゃ」
「テンテン、おはようございます! ですがボクはお勉強する時間はないのです。もっともっと頑張らなくては!! 六百九十八! 六百九十九! 七百!!」

 アカデミーの裏手で、朝から暑苦しい声をあげながら腹筋をしているのは額にハチマキを巻いた太めの眉の少年、ロック・リーである。一つ下の学年ではうずまきナルトがおちこぼれとしてよく知られている。しかし才能という一点でみればこの学年の落ちこぼれ、ロック・リーはナルトにも劣る。彼は忍術をつかうことができない。日々努力を重ねているとはいえ体術も他のアカデミー生と変わらない普通レベル。
 諦めずに努力する彼を多くの者が能無しと馬鹿にし、無駄なことだと蔑んだ。

「はい、タオル」
「ありがとうございます。ちょうど時間もいい頃ですし、一緒に教室へ行きましょうか」
「いやいや、あんた汗かきすぎでしょ。わたしたタオルがびしょびしょじゃない! 一度着替えないと風邪ひくわよ!」
「はい、わかりました!」

 ビシッと敬礼するように素直に返事をするとともにリーから暑苦しい汗が飛ぶ。その様子を見て大きく距離をあける。そして、いままで友人たちと一緒にいた頃よりもいま、暑苦しい少年といる方が楽しいことに気が付く。諦めず努力をしていても、その努力が実るどころか、アカデミーを卒業できるのかもわからない。それでもまわりの声に流されず、ただひたすらに現状を耐え忍ぶ姿は、とても眩しく心揺らされる。テンテンはいつか目の前の彼が立派な忍になることが夢の一つになっていた。

 アカデミーが始まれば今までと何も変わらない時間が過ぎる。教室で授業を受け、体術や忍術、座学を学ぶ。側にいる友人たちの姿は異なっていても、異なっているからこそ、今の方が充実していた。

 そして、アカデミーは終わる時間が来る。家へ帰ってきた彼女はいままで通りベッドにダイブする、ことはせず父親が営む忍具家へと足を運ぶ。

「父さーん! きょうは何を手伝えばいい?」
「そこのクナイを片付けてくレ!」
「了解! ここね!」
「それが終わったラ、次は倉庫の整理を頼む!!」

 家へ帰ってから、アカデミーの疲れや復習を言い訳にいままで一度も父親の手伝いをしたことはなかった。あっても休日や時間が余っている日だけだ。たった一人で店をまわす父親が大変だということは知っていたのに。
 そんな父親に甘える時期はもう過ぎた。見てみぬフリもしない。目指す先があるから。

「ふひ、ふひひひひ」

 そう、強い決意を心の中に定めた少女は父親の手伝いが終わった後、倉庫で一人、ニヤニヤしていた。父親の手伝いをするようになってから、どこかおかしな方向へ進み始めている彼女を、誰も知ることはなかった。





 
 

 
後書き
 す、少しくらいのキャラ付けくらい許してよね!(;´・ω・) 
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