戦国異伝
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第二百三十三話 本能寺の変その九
「これは我等にとっては好都合じゃ」
「ですな、ただ」
「ただ。何じゃ」
「何かです」
迫る兵達を見ての言葉だ、見れば。
織田家の青い具足の者達だけでなくだ、他には。
闇の者達も来ていた、その者達を見ての言葉だ。
「一向宗との戦でもいたと聞いていますが」
「はい、あの者達はです」
「まさに」
慶次と可児が信忠に答える。
「一向宗の者達の中にいた」
「そうした者達です」
「ここ数年出ていませんでしたが」
「荒木殿の軍勢の中にはいましたが」
「しかしです」
「ここでまた急に出て来た」
また言った信忠だった。
「父上の仰る通りじゃな」
「十兵衛も操っておるか」
「そう思うのが妥当ですな」
「勘十郎兄上と同じか」
長益にとっては兄なのでこう呼ぶのだ。
「あの時はわしはまだ幼くよく知らなかったがな」
「人を操ることもですな」
「する様じゃからな」
それでというのだ。
「あの者達は」
「だから十兵衛を」
「しかしな」
「十兵衛を操るとなると」
「相当じゃ」
それはとだ、長益も言った。
「その相手は」
「はい、どういった者か」
「あの津々木という者か」
「はい」
実際にというのだ。
「それがしはよく知らないのですが」
「わしも幼かったのでな」
長益もとだ、苦い顔で答える。
「その者はよく知らぬ、しかしな」
「勘十郎叔父上が操られるとなると」
「相当な者じゃ」
このことは間違いないというのだ。
「確実にな」
「やはりそうですな」
「しかしじゃ」
「十兵衛を操っても」
「十兵衛の采配まではどうにも出来なかったな」
それまではというのだ。
「あ奴ならこんな采配はせぬわ」
「とてもですな」
「そうじゃ、我等も危うかった」
そうだったというのだ。
「こんなものではなかったからな」
「今は思ったより楽です」
「うむ、最初から火矢を使って来ぬからな」
「まずは数を過信して攻め込んできたりはしませぬな」
明智ならばというのだ。
「そこがそもそも違う」
「確かに。では」
「まずはこのまま踏ん張りましょう」
慶次と可児も言ってだ、敵をその得物で吹き飛ばしていた、ここで業を煮やしたのか遂にであった。二条城の外から。
火矢が来てだ、それが二条城に刺さってきた。
それでだ、徐々にではあるが確かにだ。
城が燃えて来た、長益はそれを見て信忠に言った。
「ではな」
「はい、あと少しで、ですな」
「御主は腹を切りに行くふりでもしてな」
「城の中に入り」
「そしてじゃ」
そのうえでだというのだ。
「逃げるのじゃ」
「わかり申した」
信忠は叔父の言葉に頷いた、しかし今はまだ戦う。
そのうえでだ、慶次と可児にこう言った。
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