下水道
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2部分:第二章
第二章
「遊んでき給え」
「ラスベガスでですか」
「そうだ。それならいいだろう?」
フランコを見上げて問う。
「遊びで行くのならな。取材はついでだ」
「まあ確かにそうですけれど」
だがそれはそれでフランコは聞きたいことがあるのであった。
「けれど編集長」
「何かね、今度は」
「随分気前がいいですね。一体どういう風の吹き回しですか?」
尋ねながら笑顔を作ってみせてきた。ラテン系の笑いであった。
「ついでに首とかですか?」
「馬鹿言っちゃいけない、うちは常に人手不足だ」
そうした壮絶なまでのインチキ記事を書ける記者が少ないからだ。そんな才能があれば変わり者以外は小説家になっているか漫画家になっているからだ。つまり彼等は変わり者というわけである、
「君を辞めさせたら大きな損失だ」
「じゃあ何でそんなに気前がいいんですか?」
それでもフランコは尋ねるのであった。
「何かあるんじゃないかって思うのが普通ですけれど。遊んで来いなんて」
「ただの社員への慰労だよ」
しかしカンセコは笑って言葉を返すのであった。
「君は最近ずっと休暇と取ってからな」
「そういえばそうでしたね」
フランコも言われてそれに気付いた。自分のことであるのにだ。
「ずっとここでネットを見ながら書いていましたからね」
「やはりネットか」
「役に立ちますよ、情報収集には持って来いです」
笑いながらカンセコに述べる。
「そりゃ歩くのよりも」
「言うな。まあいい」
とりあえずフィールドワークをメインに考えるカンセコには喜ばしい話ではなかったがそれはここでは置いておいた。そうしてまた言うのであった。
「とにかくだ。それでいいな」
「有給休暇ですね」
「そういうことだ。暫く羽根を休めてくるんだな」
「わかりました。そういうことなら遠慮なく」
「うん」
こうしてフランコは有給休暇を取ってラスベガスに入った。だが早速あるマンホールの前で制服姿の警官に呼び止められたのであった。
「ああ、あんた」
「俺はジャーナリストだぜ」
振り返ってすぐにこう答えた。そうしてボディーチェックを受ける。
「な、そこに書いてあるだろう」
「ああ。何かマンホールをちらりと見たからな」
身分証明書にはちゃんとジャーナリストと書いてある。他には免許証も見られた。警官はそういったものを見ながら彼にマンホールの話を出してきたのであった。
「馬鹿なことをするんじゃないかと思ってな」
「下水道に入るってか」
「そうだ。最近変なことを考える奴が多い」
白人の顔だが微妙に肌が赤いその警官が言う。
「それを止めるのに少し神経を使ってるんだ」
「そうだったのか。お疲れさんだね」
「少しな。しかしもう話は聞いてるんだな」
警官はフランコの言葉を聞いてそれに気付いた。
「そんなに有名だったのか」
「有名も何も世界中で話題になってるぜ」
フランコは身体検査を受け終えてから応えた。身体を彼に向けたまま。
「何が出るかってな」
「おいおい、世界中にかよ」
「何人も行方不明になっているそうだな」
それも彼に対して言うのだった。
「下水道の下で」
「さあな。それは知らないがな」
警官はそれについてはわざと知らないふりをしてみせた。フランコにはそう見えた。
「知っているんじゃないのか?本当は」
「本当のところは俺も知らないさ」
やはりこれもフランコにとってはとぼけているように見えた。
「本当かね、それは」
「本当じゃなかったらどうするんだ?」
「さてね。調べるだけさ」
彼は平気な顔をして警官に告げた。
「それがジャーナリストだからな」
「それで死んでもかい?」
「いや、死ぬのはちょっとな」
その質問に対しては軽い調子で笑って返した。
「勘弁願いたいな」
「やっぱり命は惜しいか」
「当たり前だろ。それに今は休暇で来ているんだしな」
それもまた警官に対して言った。
「何でそれでわざわざ命をかけて行くんだか」
「けれど命懸けじゃなかったらどうするんだ?」
「さてね」
その問いにはとぼけて返す。
「わからないね、そこんところは」
「とぼけるねえ。まあいいさ」
警官はここまで聞いたところで彼から離れるのだった。
「注意はしたぜ。けれどもそれで何かあったら」
「警察は責任持てないってか」
「そういうことさ。それだけじゃない」
彼はこうも言う。
「若し勤務中の警官に捕まったら今度はアウトだぜ」
「アウトか」
「勤務中ならな。覚悟はしておけよ」
「精々制服の警官には気をつけるさ。それじゃあな」
「おい、最後に聞きたいんだが」
だが警官は去ろうとするフランコにまた声をかけてきたのであった。
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