戦国異伝
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第二百三十三話 本能寺の変その五
「それは」
「いえ、旗は畳まれていてです」
「見えぬ様になっていました」
「具足もです」
「上から覆いを羽織っていまして」
「あえて素性を隠しておるか」
幸村はまた述べた。
「そうしておってか」
「はい、それで」
「それでなのです」
「どの軍勢かはです」
「わかりませんでした」
「そして我等に気付いた様でしたので」
「去りました」
こう幸村に話すのだった。
「数はわかりましたが」
「それでもです」
「それ以上のことはです」
「申し訳ありませんが」
「そうか、しかしそこまでわかったのならな」
それならと言う幸村だった。
「これよりじゃ」
「はい、上様にお伝えして」
「そしてですな」
「明朝に備える」
「そうしますな」
「今からなら充分間に合う」
幸村は強い声で述べた。
「よく知らせてくれた、しかも二条城にまで報を届けてくれたのは上出来」
「では我等も」
「これより」
「うむ、備えをしてくれ」
こう言ってだ、そしてだった。
幸村は信長にも伝えた、彼の部屋の麩のところに来てその麩越しに告げた。そうしてからそのうえでだった。
麩の向こうの信長にだ、こう問うた。
「ではここは」
「わかった、ではな」
「備えをですな」
「これよりしてじゃ」
そのうえでというのだ。
「朝まで寝る」
「そうされますか」
「備えはしてもな」
「それでもですな」
「敵には勘付かれるな」
そこは絶対にというのだ。
「我等が気付いていることはな」
「そのことはですな」
「敵にこちらの考えを気付かせぬ」
「それが戦ですな」
「そうじゃ、だからじゃ」
それでというのだ。
「ここはな」
「我等も」
「備えはしてもじゃ」
「相手が来た時にですな」
「気付かれるでないぞ」
「さすれば」
「わしもその様にするからな」
信長自身もというのだ。
「御主達もじゃ、よいな」
「畏まりました」
「うむ、しかし北西から来たのか」
「一万程」
「若しやと思うが」
信長は軍勢が来るという方角から察して言った。
「有り得ぬが」
「上様もそう思われますか」
「どうもな」
「はい、不思議に思われますな」
「うむ、しかし旗も具足の色も隠しておるのならな
「それがわかることもない」
「ですから」
「そのことは今考えてもせんなきこと」
だからというのだ。
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