ドリトル先生の水族館
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第十二幕その九
「兄さんみたいだと何も手に入れることは出来ないわよ」
「手に入れるって?」
「海の底に行くことも幸せもよ」
「僕は充分過ぎる程幸せだよ」
「幸せには限りがないのよ」
無欲な先生への言葉です。
「それが誰にも迷惑をかけなかったらいいでしょ」
「だからなんだね」
「そう、兄さんはね」
それこそというのです。
「もっと前に出て欲を張って」
「幸せを手に入れるべきっていうんだね」
「そうよ、もっとね」
「それで深海にもなんだ」
「行ける様にお願いするのよ」
そうするべきだというのです。
「色々な人にもね」
「そうしてだね」
「海の底行きたいのよね」
「うん、行ってね」
そしてと答えた先生でした。
「色々な生きものを調べたいよ」
「そうしたいのね」
「やっぱりね」
「じゃあお願いするのよ、自分からね」
行きたいと、というのです。
「わかったわね」
「ううん、じゃあ一旦相談しようかな」
「そうしてね。ただ」
「ただ?」
「考えてみたら」
ここでこんなことを言ったサラでした。
「海の底に潜水艇で行くのよね」
「そうだよ、深海用のね」
「それだと飛行機に似てるかしら」
「空を飛ぶことに?」
「飛行機も壁一枚外はお空で」
それで、というのです。
「そしてね」
「そして?」
「潜水艇も壁一枚向こうは海で」
そしてというのです。
「そこに出たら終わりよね」
「そういえばそうだね」
「普通の船もそうだけれどね」
「僕飛行機はね」
使うことがあってもとです、先生は飛行機についてはあまり浮かない感じでサラにこう言ったのでした。
「サラも知ってるね」
「嫌いよね」
「嫌いっていうか苦手なんだ」
「そうよね」
「日本の野球選手で江川卓って人がいたけれど」
今は引退しているその人の名前を出すのでした。
「その人と同じでね」
「兄さん飛行機は苦手よね」
「船や電車の方が好きだよ」
「月にも行ったのに」
「確かに月に行ったけれど」
それでもというのです。
「あまり好きじゃないよ」
「お空を飛ぶことは」
「どうにもね」
「それじゃあね」
「深海に潜水艇で行くにも」
「兄さん大丈夫なの?」
自分のお兄さんである先生にです、サラは尋ねました。
「そのことは」
「どうなのかな」
「そのことも考えてね、けれどよね」
「うん、一度でもいいから行きたいね」
そうだと言うのでした。
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