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神の贖罪

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2部分:第二章


第二章

「諸君等が誤って殺してしまった我等の同志だが」
「うむ」
 ブリアンが三人を代表して彼の言葉に応える。三人の周りには多くの神々が集まりある者は陪審員として、ある者は検事として、またある者は弁護士として、その他の者達は離れた場所で裁判の行く末を見守っている。誰もがそれぞれ裁判を見ているのだった。
「まず生き返ることができた」
「そうか」
「それは何よりだ」
 三人はそれを聞いてまずはほっとした。それは顔に出ている。
「しかしだ」
「しかし?」
「罪は罪だ」
 ルーはこのことははっきりと強調するのだった。
「それはわかっていると思うが」
「その通りだ」
「それは否定しない」
 三人もこのことは認めた。
「だからこそここにいる」
「裁きを受ける為にな」
「そうか、わかっているか」
「我等とて神だ」
 またブリアンが答えた。そのはっきりとした大きな声で。
「誇りはある。例え軽率だとしても」
「喜んで裁きを受けよう」
「俺もだ」
 三兄弟は堂々と宣言さえしてみせた。
「それでいいな」
「是非ともそうさせてくれ」
「よし、見事な心だ」
 ルーもまた三人の心を受け取った。それを見て感心さえしている。
「それではだ。裁きを下そう」
「うむ」
「それは何だ」
「三つの林檎と一枚の豚の皮」
 彼はまずはこの二つを出した。
「一本の槍、二頭の馬と馬車」
「それだけか」
「いや、まだある」
 さらに述べるのだった。
「一匹の子犬と一本の焼き串、そして三度の叫びを要求しよう」
「随分と変わった要求だな」
 ブリアンはルーの話を聞き終えてこう返した。
「そういったものはその辺りにあると思うが」
「それならばすぐにでも持って来るぞ」
「そんなものが裁きとは我等を侮っているのか」
「無論そうではない」
 ルーは三兄弟のその問いには首を横に振った。
「言うまでもなくな」
「ではどういったものなのだ?」
「まずは東のヘスペリデスの園に行ってくれ」
「ヘスペリデスのか」
「そうだ。そこにある林檎だ」
 まず林檎はそれだった。
「そこにある黄金の林檎だ」
「あれをか」
 三兄弟はその黄金の林檎のことを聞いて顔を強張らせた。
「あの恐ろしいまでに甘くどんな傷と病も治すという」
「その通りだ。無論他のものもそうだがな」
「そうか。それではすぐに向かおう」
「他のものも困難なものだ」
 ルーはこう忠告してきた。
「君達は波鎮めを使うといい」
「あの船をか」
「そうだ、君達の家に伝わるな」
 その船は彼等の家にある船だ。陸も海も進むことができる魔法の船だ。それを使ってもいいというのである。ルーの心配りである。
「あれを使うといい」
「わかった」
「そしてだ」
 彼はさらに言ってきた。
「アンヴィルを使うといい」
「アンヴィルをか」
「そうだ。私の馬をな」
 アンヴィルとはルーの持っている魔法の馬だ。一日に千里を駆け何人でも乗せることができる。まさに神が乗るべき魔法の馬である。
「使うといい」
「いや、それはいい」
 しかしブリアンはそれを断ってきた。手を前に出して動作でも見せてきた。
「それはな。いい」
「いいのか」
「そうだ、我等の裁きは我等でつける」
「だからいいのだ」
 ヨッハルもヨッハルヴァもこう言ってルーの申し出を断るのであった。
「それについてはな」
「好意だけは受け取っておこう」
「本当にいいのか」
 ルーは三人のその毅然とした態度にかえって心配になった。何しろそれぞれの要求の困難さは話す彼が最もよくわかっていることだからだ。
「それで。本当に」
「いいと言っている」
「波鎮めさえあればそれで」
「いいのだ」
 三兄弟はそれぞれ言った。こうしてアルヴィルは受け取らないことになったのだ。
 三兄弟は遂に旅立った。彼等を家族と他の神々が見送る。裁きの結果だがそれでも見送るのだった。
「それではな」
「うむ」
 ブリアンはルーの言葉に応えていた。
「行って来る」
「死んだ我等の同志だが」
「生き返っているな」
「そうだ。貴殿等のことは怨んでいないそうだ」
「そうか。それは何よりだ」
 このことを聞いて笑みになる三兄弟だった。
「生きていて怨んでいないとならばな」
「それは安心してくれ」
 また言うルーであった。
「怨みは消えているからな」
「わかった。では安心して行って来る」
「うむ。しかしいいのだな」
 彼等を気遣う顔になっていた。見送りに海辺に集まっている神々も皆同じである。海は黒く訛りの色になっており空も重い。冷たい風が吹き荒れまるで三人のこれからの困難を現わしているようだった。その中での不安な顔はその重苦しさをさらに助長させるものであった。
「その船だけで」
「そうでなければ裁きの意味はあるまい。違うか」
「それはそうだが」
「安心しろ。必ず帰って来る」
 こうルーに告げた。
 
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