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神の贖罪

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1部分:第一章


第一章

                   神の贖罪
 ブリアン、ユッハル、ユッハルヴァはケルトの神々であった。彼等は兄弟でありそれぞれ大柄で厳しい武張った顔をしている。勇猛で血の気の多い三人として有名であった。
 彼等はその血の気の多さでトゥアハー=デ=ダナンの神々の中ではトラブルメーカーであった。その強さは確かに頼りになるがそれでも短気ですぐに剣を抜くうえに早とちりも多いので騒動を起こし続けていた。それは戦場においても同じでありこの騒動もまた同じであった。
「?兄者」
 ユッハルがふと長兄のブリアンに声をかけてきた。今三人は野営地にいる。丁度見回りをしていたユッハルがブリアンに声をかけたのである。
「あれを見ろ」
「どうしたのだ?」
「猪がいる」
 こう兄に告げたのである。今二人は武装していた。
「猪がな」
「猪がか」
「しかもこっちに来ているな」
 今度はユッハルヴァが二人に言ってきた。
「俺達の陣に」
「どうする?」
 ユッハルはまたブリアンに尋ねてきた。
「あの猪を。どうする」
「殺すか」
 ブリアンは特に何も考えずにこう二人の弟に答えた。
「殺して。食うとするか」
「それはいいな」
 ヨッハるヴァは長兄の提案を聞いて満足そうに笑った。丁度三人共剣や弓を持っている。殺そうと思えば何時でもできる状況だった。
「皆も呼んでな」
「猪鍋とするか」
「うむ」
 こうして三人の考えは決まった。早速弓に手をかける。だがここで三人は誰も気付いていなかった。何故その猪が野営地に向かっているのか。
 考えないまま三人はそれぞれ弓に手をかけた。そうして弓を放って射抜いた。だがその射抜かれた猪は息絶えると忽ちのうちにその姿を変えたのだった。
「!?これは」
「猪ではないぞ」
「うむ、人、いや」
 その姿を見てようやく三人はわかったのだった。
「我等の同志か」
「神ではないか」
 そうなのだった。神、即ち彼等の同志であった。殺してからようやく気付いたのだ。
「参ったぞ、これは」
 まずブリアンが難しい顔をして述べた。
「同志を殺してしまった」
「生き返らせることはできないか?」
 ヨッハルヴァが死体を見下ろしつつ二人の兄に尋ねた。
「そうすれば問題はないわけだが」
「いや、それでもだ」
 しかしここでヨッハルが末弟に言うのだった。
「殺したことは事実だ。それはな」
「では避けられないのか」
「そうだ」
 はっきりと末弟に答える。
「裁きを受けるのはな」
「しまったな」
 今更ながらにこのことを後悔するヨッハルヴァだった。
「こうなってしまってはもうどうしようもないのか」
「そうだ。それにだ」
 今度はブリアンが言う。
「逃げられはしないぞ」
「逃げられないか」
「ここは我等の野営地だ」
 このことを二人の弟に告げる。
「何があったのかすぐにわかるようになっているな。術でな」
「くっ、そうだったな」
「だからだ。絶対に逃げられぬ」
「それでは兄者達」
 ヨッハルヴァは難しい顔のままさらに二人の兄に言うのだった。
「観念するとするか、ここは」
「うむ、仕方がない」
「罪は罪だ」 
 こう言って仲間の神々が彼等のところに集まって来るのを待っていた。彼等は程なくしてその仲間達に取り囲まれた。確かに血の気が多く迂闊な三人だったがそれでも潔さは持っていた。だからここでは素直に武器を差し出し裁判に向かったのだった。裁判官は神々の長である光の神ルーだった。彼は三人を前にして難しい顔をしていた。
 
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