竜から妖精へ………
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第4話 目覚めたら妖精の尻尾
場面は変わる。
この場所は、マグノリアの街のギルド。……改めて紹介する。
このギルドの名前は妖精の尻尾
ギルダーツのゼクトに対する説明も一通り終わりを告げた。
まだ 眠り続けるゼクトを見て、ギルダーツは頭を掻いた。
「ってな訳。そんな事があったんだよマスター。……オレもどーすりゃいいかわかんなくてな? それで、そうするうちに、泣きつかれて眠ったよ。まぁ 連れて帰らない、って言ったんだが……そうも言ってられなくてな?」
そう言い終えると、ギルダーツはゼクトの顔を覗き込んだ。
規則正しい寝息の音が聞こえてくる。苦しそうな表情はしていないのが良かった。まるで、家に帰る事ができて、安心した子供の様な寝顔だった。
「へっ……こうしてみると唯の普通のガキ……なんだがな。戦ってる時とは比べ物にならんな。自然な顔、と言う意味では同じだと思うけど」
正直、ギルダーツもあの力量には目を見張るものがあった。どう見ても子供なんだが、……本当に子供なのか?と疑った。だけど、今は違って見える。泣きつかれて寝ているとはいえ、今のゼクトの顔は…… 年相応のものだった。
「ふむ……、そのゼクトじゃが、うちのギルドの名を聞いた途端に、か……」
マカロフは、ギルダーツの話を思い出し、考え込んだ。
今眠っている少年が 突然泣き出した理由を。
「そう言うわけだ。マスター、こいつの事、知らないか? あの反応を見たら、フェアリーテイルと関係ないとは到底思えねえんだ」
「うむ……、さっきから考え込んではいるんじゃが……、やはり、このコの事 見覚えも聞き覚えもないわい。……そのゼクトと言うその名もな」
ギルドマスターであるマカロフにもわからないようだ。妖精の尻尾に関しては、マスター・マカロフ以外に詳しい者はいないから、これ以上は手のうちようが無いだろう。後は本人に訊くしかない。
「じゃが……、主とやりあった程の子供じゃ……。 それに 無関係とも到底思えんしな。 このままうちで預かろう。うちとしては、問題は無いじゃろう。……じゃがまぁ 色々と不安な面は捨てきれんがな」
マカロフは、考える。
ギルダーツと、正面から戦り合える程の力を保有する者。そんな魔道士は、近年では見た事がない。
――……そんな者が、もし敵であったら?
ギルドを危険に晒すやもしれんと言う可能性も捨てきれない。勿論、それは客観的に見たらだ。……実際の所、そんな心配はないと確信できる。
「問題はねーよ。それにな、マスター。こいつには……保護者や仲間が必要なんだ。コイツが 一体いつから1人なのかは知らねえがな? ……無意識だと思うが、オレと戦る前はずっと寂しそうな目ェをしてたんだ」
ギルダーツはそう感じていた。そして、マカロフの方を見た。
「こんなガキ……、あのまま 放っておく訳にゃいかねえーだろ? マスター。初めにも言ってたしな?」
マカロフが心配ない、と確信できる最大の理由がギルダーツがゼクトに向けている目だった。もしも、本当に危険な者なのであれば、まず 小さなガキの多いこのギルドにつれて帰ったりはしないだろう。
そして、先ほどでも言ったとおり、ギルダーツの目だ。それは、ガキを心配している親の目そのものだったから。
「はははっ! そうか、わかったわい。」
マカロフは笑みを見せた。
「そのコはうちで預かろう! 評議員の連中にも問題ないと伝えておくわぃ」
「サンキュッ、マスター」
マカロフの決定を訊いて、ギルダーツは手を上げたその時だ。
『おらーーー!! ギルダーツ!!!』
『コラナツ!! 何してやがる!』
『そーよ! 中にけが人がいるんでしょ? そんなトコで暴れちゃだめだよ!』
突然、外が騒がしくなってきた。大体察したギルダーツは 軽く首を回すと。
「ふう……騒がしくなってきたな。まぁ 今朝約束したのは事実だし。ちょいと相手してくるわ。マスター」
ギルダーツは、そう言うと外へ向かっていった。ギルドの子供達の相手をする為に。
「やれやれ……」
マカロフは ギルダーツ同様ため息をしていた。
だが、その表情は笑顔そのものだ。
「マジ、元気じゃのう。……いやマジで。なーんも心配要らんな。このギルドの未来は」
笑顔のまま、マカロフはベッドで寝続けるゼクトを見た。それなりに騒がしくなっても起きる様子が無かった。
「……寝顔は 本当に年端も行かぬ子供そのものじゃ……。じゃが」
マカロフは、寝ているゼクトの顔に手を当てた。眠っていても、魔力を有している以上、感じる事は出来るのだ。
「むぅ……、これは 感じた事のない魔力を感じるな。確かに、魔力の底が見えない」
寝ていても、ゼクトから発する魔力は健在だった。いや 常人のそれ以上に多いと言う事は判る。生きとし生ける物は例外なく眠る時は無防備になると言うものだ。だが、その気配さえ見えない。まるで、意志を持った魔力。……眠っていてもゼクトを守っている様だった。
おそらく、評議員の連中もこの不思議な魔力を視て、強引な捜査に踏み切ったんだろうと思える。
「ん……ん~~……」
マカロフが、手をゼクトに宛がっていると、くすぐったそうに、表情を歪ませていた。
「おっと、悪かったの……」
マカロフは、すぐに手を除けた。
「目を覚ましたら聞けるじゃろう。今はそっとしておこう。」
そう言って、ゼクトに乱れた毛布をかけなおした。
そして、暫くして……。
「ギルダーツ!勝負だーーーー!!!」
ナツの盛大な大声がギルド中に、いや 街中にも聞こえてくる。そして、いつも通りながらその後に訊こえてくるのは、これまた騒音だ。
「がべぇぇぇ!!」
“ドカーーーン!” と言う建物が壊れる音が響いてきた。ギルダーツが一撃、軽く入れたのだろう。……軽く?
「よーし! ナツぅ! とことんやってやる! 今から 表ぇでろ!」
ギルダーツは、腕を回しながら気合を入れている様だが、肝心のナツは目の前にはいない。
「いや…もう外にとんでっちゃッたよ?」
ナツの相棒である猫。《ハッピー》が、そう突っ込みを入れていた。
「まったくアイツは……。ほんと、懲りねぇよな。このやり取り、一体 何回目だよ?」
グレイは、ため息しながらそう言うけど。
「グレイこそ、何回目? 普通に服を脱ぐの?」
ハッピーがグレイにも痛烈なツッコミを入れた。これもいつも通りであり、グレイの反応も同じ。
「って! ああ!! いつの間に!!」
無意識下で、服を脱いでしまっている為、自分でも脱いだ事に気づいていないのだ。だから、指摘されて初めて気づく事も多いのだ。と言うか、それが殆どだ。
「まったくぅ~……。どっちもどっちだよ」
ハッピーは呆れてしまっていた。一番まともかな? とも思えるのだが、別段そうではないのである。
そんな2人? は一先ず置いといて。ギルダーツはそのままナツを追いかけて外へと向かっていった。
「おい! 外に行こうぜ!!」
「そうだなっ!」
「ナツぅ…また ぼこられちゃうよ~?」
ギルドの皆は外へと駆け出した。なんだかんだ言いつつ、恒例になっている風景であり、見るだけでも十分楽しめるのだ。……一方的にボコボコにされてしまってるから、一部の者にとって(殆どグレイだが)は、憂さ晴らしになったりもするが、それはまた別の話。
そして、ギルダーツとナツに触発された者は、者達まだいた。
「久しぶりの喧嘩だけど! 一時休戦だよ! エルザ! あっちの方が面白そうだ!」
今の今まで、帰ってきたミラとエルザが喧嘩をしていたのだ。ギルダーツの久々のやる気を見てそっちの方が良いと判断したようだ。
「うむ! そうだな! 私が先だ!」
「私だっ!!」
そして、我が先! っと互いに押し合いながら外へと向かっていった。
「ギルダーツもすげえな…毎日よ……」
酒を飲みつつ、そう言うのはギルドの魔導師であり、大人である《マカオ》
「ははっ…さっすがオヤジだな…」
そして、その隣でパイプを吹かしながら同意するのは同じく大人の《ワカバ》だ。
「お前も歳考えたら、もうそろそろ、オヤジの仲間入りだろ?」
マカオは 嫌にニヤニヤと笑いながらワカバにそう言うけれど、同期なので 完全に自分に矢印が帰ってくるのだ。
「おめーに言われたくねえ!」
だからこそ、ワカバも反撃をしていた。つまり、こっちはこっちで言い争いをしているのだ。拳で語り合ったりはしていないが。つまり、ギルドでは絶えず、このような状況が続く、日常茶飯事なのである。
これは、おそらく何時までも続く事なのだ。
そして、ギルドの外の広場では既に始まっていた。
「おらーーー!!!」
先ほど、吹き飛ばされたナツだったが、子供とは言え侮るでなかれ。
既に復活し、またまた、ギルダーツに炎を纏わせながら殴りかかる! のだが。
“ペシッ♪” っと、かるーくビンタ? するようにギルダーツがナツの頭を叩くと。
「ほげえええ!!」
“ベッシャ……” っとあっという間に地面にめり込む様に倒れてしまった。本当に容赦ない一撃だろう。こんなギルダーツとやり合っていたゼクトの異常性、今ならよく判ると言うものだ。
ギルダーツは、ナツを相手にしながら、頭の片隅でそう思っていたが、直ぐにナツに集中していた。
「どうした? そんなもんか? ナツ」
ギルダーツは、笑いながら ナツにそう言っていた。何度か起き上がって反撃するが、一撃も入れられず、ただただ倒され続けていた。
「ま、ナツじゃ一生かかっても無理だな」
グレイも、2人の戦いを見て、笑いながら言ってる。それを訊いたギルダーツは、ナツの攻撃を受け止めつつ、グレイの方を向く。
「お? じゃぁ いっちょやるか? グレイもよ?」
ギルダーツがそう提案を出した。1対多数の戯れあい等何度もしているから、造作もない事だ。だが、ギルダーツの強さをよく知っているグレイはと言うと。
「いい゛ッ!! お、オレは良いよ! まだ!!」
グレイは、慌ててそう言っていた。ギルダーツにはエルザの様な恐ろしさはないのだけれど、如何せん加減するのが苦手だと言う事はよく知っているのだ。……ナツと一緒にされるのも複雑だし、無様に倒れるのも嫌だった様だ。
ギルダーツは、大体察したようで、ニヤニヤと笑っていた時。
「くっそ~!! まだまだあ!! 隙有りだ! ギルダーーつっっ!!」
その隙にナツが、一気に反撃に出た。炎を今度は頭に纏わせながら。
「火竜の劍角ぅ!!」
“ズンっ!!” と炎を纏った頭突きを撃ちかました。それも足にも炎を纏わせて、ブースト、速度を上げているから、更に威力もアップだ。
「ぶっ!!」
隙だらけの腹に、直接攻撃を喰らってしまい、思わず噴出してしまったギルダーツ。
「おお! ナツが初めて有効打を入れたぞ??」
「けっ…卑怯じゃねえか?」
「何を言っておる! 勝負の最中によそ見したギルダーツが悪いのだ!」
「でも…効いてる感じしないね…?」
初めての一撃に、当然観戦していたギャラリーも沸いていた。
だが、沸くのも一瞬だけだ。次にどうなるのか 大体判っているから。
「どーだ!! ギルダーtごべぇッ!!!」
ナツが、頭を離して、ギルダーツを見上げようとした瞬間、ナツはギルダーツの肘うちを喰らって、今度こそノックダウンをしてしまった。
「きゅう~~~~……」
起き上がる事が出来ないナツ。どうやら、先ほどの一撃が最後の攻撃、最後の力を込めていた様だった。
「はは…強くなってんな? ナツ。だが、まだまだ……だ」
ギルダーツは、地面に座り込み、ナツにそう言っていた。
「く…っそー!」
ナツは…意識はあるものの、立ち上がる事ができない。あの一撃がまだ身体に残っているから。
「ギルダー…ツ! お前は…一番つええ! ギルドで…いちばん…! でも…いつか…ぜってぇー勝ってやるっ!!」
ナツは、倒れたままでも 必死にそう言っていた。
それを訊いて、ギルダーツは 笑った。
「ははっ! おもしれえ。そうだな。オレもお前には負けたくねえ。……いつでも相手になってやるよ」
そう言って、ギルダーツは ナツを抱き起こした。
「ほれ…! さっさと戻るぞ? ギルドによ」
「う~~……」
ナツは、いつも通りとは言え、完敗した事がやっぱり 悔しかった様で表情を歪ませていた。そんなナツを担ぎ上げて、肩車をしているギルダーツの姿は、まるでナツの父親のようだった。
傍から見ても微笑ましく思える。
「ははは……やーっぱ ギルダーツはすげえな!」
「まったくだ!」
「ナツも、よくも毎回毎回食らいついて言ってるなぁ……」
全員が彼らの戦いを見届けた後、同じく背を向けてギルドへと戻っていった。
そして…ギルドへ向かっている途中の事だ。
「そういえばギルダーツ!」
エルザがギルダーツの傍にまで来た。
「あん? どした、エルザ」
ギルダーツは、呼ばれた為、立ち止まって振り返った。
「さっき、帰ってきた時に、抱えていた者は何者なのだ? 今朝もマスターと何やら話していたが、ひょっとして ギルドの新しい仲間なのか?」
エルザは ギルダーツに今朝の事を訊いていた。ここにいる殆ど全員がmナツの暴走のせいでで、すっかりとあの少年の事を忘れていたようだ。
「おおっと……そう言えばそうだな。忘れてた」
いや、ギルダーツも同様だったから、全員が忘れてしまっていた様だ。説明をする事、説明をしてくれる事を。
~フェアリーテイル・医務室~
それは、ギルダーツとナツの戦いが終わって直ぐの事だ。
眠り続けていた少年、ゼクトは目をゆっくりと開けていた。
「う………ん……… あ…れ?…オレ…いったい…」
起きたばかり故に、記憶がはっきりしない。
頭の中に靄が出来ているように、中々払えなかった。一体何故、この場所にいるのか、ここは何処なのか、それらが判らなかった。
「え、っと……、オレは……、あの場所で…確か……」
ゼクトは、必死に思い出そうとしていた。大切な事、だから。
そう、始まりは突然だった。
気がついたら、あの渓谷、あの場所にいたんだ。何故だか、判らなかった。
判らないのに、その場所は とても、とても大切な場所に思えた。何も記憶に残ってないというのに。……何か大切な事があった感覚がする。
目を瞑れば、目の前に、浮かぶ。でも その目の前にいるのは……誰か…わからない。
男なのか女なのか、それすらわからない。
ただ、目の前には 《そのひと》がいて、《そのひと》は、笑ってる。微笑みを見せてくれている。顔は見えないのに、その表情は笑ってる感じがするんだ。その笑顔は 素敵で愛しい。
でも、それで終わりだった。それ以上は 思い出せない。あの場所に居続けたのも、そのひとに会う為に、思い出す為だったのかもしれない。
「う…ん……」
ゼクトが 思い出せないのは今までもずっとだった。だけど、それは今は置いておく。それよりも、今の自分の状況の方が大事だった。
「え……っと……(確か 今まで、変な連中に…連れて行かされそうになってて……。拒んでも…拒んでも…、しつこくて……最終的には……実力行使で……)」
そう、何度も何度も連中はやって来た。だから、ゼクトは抗ったんだ。大切な場所だから…、離れたくなかったから。
でも、ここで、不可解なところがあった。
「ここ……は……あの場所じゃない……? でも、離れてるのに、こうも落ち着くのは……なんで?」
そう言う事だった。
あの場所から…離れるときは、狩をしに森や山へ行くときくらい。そういった理由があるのだから、離れるのは問題ない。別に縛られている…と言った訳ではない。あくまで自分の意思に従っているだけだ。それが 今は、この場所にどうしているのかが判らない。
そして、初めてきた場所だと言うのに、落ち着く。心から落ち着く理由が判らなかった。
「ええ…っと……この場所…は? それは 後だ…ええっと……」
ゼクトは、更に記憶を揺り起こそうとした。
――あの時……、明らかに違う男………。そうだ……今までとは明らかに違う実力者が来た。その男に…完全に撃ち負けた。……報いを受けるときがきたのか…?そう思ってた時に……。
「あっ!」
ゼクトは、この時全てを、今までの事、思い出した。
「え………、つ、つまり ここは、この場所は……妖精の……」
あの名前を呟こうとした時だった。
「その通りじゃよ」
誰かが、部屋の中に入ってきた。
「ッッ……!」
ゼクトは、驚いて、声の方に振り返った。そこには、小柄な老人がいた。
「すまんのぉ…。驚かせてしまったか? じゃが 無理はせんでええぞ。キミが望むのならば、あの場所に……、あの 渓谷にも送ろう。だが、その前に……何点かあってな?」
そう言いながら、ゼクトがいるベッドの傍の椅子に座った。
「聞かせてもらえんか? お前さんが何故、あの場所が好きなのか…とかをな?」
目の前の老人は、笑顔を見せてくれた。その眼は安心出来るもので、敵意を全く感じなかった。何故だか判らない。会って間もないと言うのに、直ぐに信頼できる、そんな感じがしたのだ。
「ん……いいです…が…、えと、貴方は?」
ゼクトは、そう聞いていた。
「おおっと……そうじゃったの。子供に諭されるとはの。わしもダメじゃなぁ? ワシは、マカロフという。このギルド、フェアリーテイルのギルド・マスターじゃ」
マカロフと名乗った老人は、そう言って再び笑った。
《フェアリーテイル》 妖精の尻尾。
ゼクトは、その言葉を聞くだけで、やはり心が震えた。何故なのか、その理由だけはわからないままだった。自分がいたあの場所が何で好きなのかがわからない、それと全く同じだった。だから、無関係とは思えなかった。
「あ…その…よろしくお願いします。」
ゼクトは、頭を下げていた。誰かに下げるなど初めての事だった。覚えている範囲での事だけれど。
「ふむぅ……。よろしくのぉ。キミの名は聞いておるぞい? ゼクト」
マカロフは、一通り話をしてみて、一瞬首を傾げそうになっていた。
何故なら、この目の前の少年は、評議員達の魔道士を退けたその上に、ギルダーツと戦りあう程の子供だ。なのに、その子供が こんなに礼儀正しい。だからこそ、当初から感じていたイメージと遥か離れているのだ。頭の中では、『ギルドのガキどもを見習わせたい』 と思った程だった。
「あ…はい。その、…オレの名はゼクト…です」
ゼクトは、改めてそう言っていた。
「ふむ。よろしくのー!」
マカロフは、ゼクトの口から名前を訊いた後、手を差し出した。
「……はい」
ゼクトは、迷う事なく、差し出されたその手を掴んだ。
「――……(何故だろう? これまでの大人と違う。いや、あの大人…ギルダーツも…そうだったけど、安心できる…といった方がいい…かな?)」
ゼクトは、あの時に戦った相手の事、ギルダーツの事も思い出していた。撫でられた感触と温もりも忘れられなかったんだから。
「さて……互いに自己紹介はすんだのぉ? 先程の話じゃが…」
マカロフは、先程 即ち 好きな理由について、訊こうとするけれど、ゼクトは直ぐに話をした。
「すみません……。理由なのですけど…、その……オレもよくわからないんです」
「むぅ?」
「オレは…初めて目が覚めたとき、あの場所でした。その瞬間から…想いが募ってました。大切な…って。だから、どんな所、場所よりも……特別な場所だったんです。だから、あの場所にいたら いつの間にかこういう事態に、なってて……」
《こういう事態》
あの場所に、沢山の大人たちが押しかけてきて、色々とあってそして、今に至る事だった。
「なるほど…の。 やはり そういったわけか……」
マカロフは 腕を組みながらそう呟いていた。
どうやら、ゼクトには、悪意があった。と言った類は皆無のようだ。もともと、マカロフは、ギルダーツの話も聞いているから、ある程度 ギルダーツが知る程度は判っていた。……いや、ゼクトと少し話した時点でそんな気などは失せてはいた。
「ふむ 合点はいった。すまなかったのぉ……。理由も知らず、強行的なことに出てしまって」
経緯を聞いたからこそ、マカロフはゼクトに謝っていた。突然頭を下げられて、驚きを隠せられないのはゼクトだ。
「い……いや、その、でも 元々は…… オレが……あそこ、に……」
だから、ゼクトは 慌ててそう言う。そんな姿を見て マカロフは もう堪えきれなかった。
「はっはっはっ!」
大声で、マカロフは笑い出したのだ。
「……え? ええ??」
ゼクトは、何で笑い出したのかが 判らなかったから、只々戸惑っていた。
「はっはっは! いやぁ すまんすまん。評議会の連中……、つまり、ギルダーツよりも 前にお主を捕まえようとしていた連中の話とは似ても似つかん印象を感じたからな? だから、つい笑ってしまったんじゃよ」
そう言っている間も、笑顔を見せており 暫くはマカロフは、笑いに笑って、もう止まらない様だった。
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