SAO-銀ノ月-
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ガールズ・オプスーCheer!!-
第九十話
前書き
ガールズ・オプス編を前回のラストから引き続き
照りつける日光、足が焼きつくような白い砂浜、広がる蒼穹と鏡あわせのような青い海。暑い大気と潮が混じった風が容赦なく身体に襲いかかるが、不思議とそれらは不快ではない。そんな海辺の海岸で俺は今、一心不乱に焼きそばを焼いていた。
……女性陣の防具を直しにいった筈の自分たちが、何故焼きそばを作ることになったのか。それはあの悪夢の女子会が終わり、ようやく揃ってALOにログインしてからのことだった。
「イヤッホォー!」
「キャァァァァ!」
どこからかリーファの歓声の声とシリカの悲鳴が木霊する。どこか場所を確認しようにも、当の俺も雲の中に突入していて何も見えない。スカイダイビング――とでも言うべきか、俺たちは地上も見えないほどの天空から、その身を投げ出していた。……もちろん、パラシュートもなく。
もちろん翼も展開しておらず、ただただ風と重力に従った自由落下。浮かんでいたモンスターをぶっちぎり、普段は下から見るだけだった雲を突き抜け、地上に向けて身投げしていく。聴覚も風を切る音と悲鳴に歓声しか処理できず、視界も覆われて何かを見ることも適わない。
「――――」
――それでも、必死に悲鳴をかみ殺しているリズの姿は、しっかりと捉えながら。
「みんなー! そろそろ翼開いてー!」
リーファからの指示が何とか耳に届き、即刻その背中に生えた妖精の翼を展開させると、自由落下のスピードを減衰させていく。パラシュートのような役割を果たす翼で、自由落下から滑空状態へと移行すると、意気揚々とシルフ領の首都《スイルベーン》へと着地する。
「楽しかったぁー!」
「どこがですか! どこがなんですか!」
喚起にうち振るえているようなリーファに対して、シリカが半分キレているかのように文句を叫んでいく。その腕の中でピナは震えている……と思いきや、遊園地で絶叫アトラクションをねだる子供のような、そんな笑みと鳴き声を浮かべていた。
「はは、思ったより、大したことなかった、わね……」
「声が震えてるぞ」
誰かに聞かれるより早くやせ我慢の言葉を口にするリズに、ボソッと小さく呟いておくと、その耳を真っ赤にしながらそっぽを向いてしまう。それを見ない振りをしながら空を仰ぐと、太陽のような天空にアインクラッドが浮かんでおり、あそこから落下してきたのかと思うと感慨深い。
「ショウキくんは楽しくなかった?」
「いや、楽しかった。なかなか出来ない経験だった」
未だ興奮覚めやらぬようなリーファの問いかけに、こちらも満足げに頷いた。そんな俺たちを信じられない、という口振りでシリカは見つめながら、酔ったような動きをしていた。
俺たちが今やってきたのは、天空にそびえるアインクラッドから、その直下の都市までのスカイダイビング。都市間でのワープがないこのALOにおいて、リーファがたまに用いてる移動手段兼アトラクションとのことで。シリカは最後まで抵抗していたが、結局他のみんなに押し切られ――普通に降りてきたのでは、時間のかかるのも確かだ――アインクラッドからこのスイルベーンまでの、スカイダイビングを体験することとなった。
「もう! 死んでも! やりません!」
「ごめん、ごめんってー」
それがスピード狂のリーファ以外には受けがよくなかったのか、リーファは特にシリカに対して必死で謝っていた。そんな三人はそれぞれいつもの格好ではなく、寒い日にコートを着るようにマントを羽織っていた。恐らく、普段から使っている防具がダメになってしまっているからだろう。
「むしろ、何であんたは大丈……あれ? ショウキ?」
「見てくれリズ、掘り出し物だ」
そんな三人を後目に買い物に行っていた俺は、近くのPCショップで買い物をしてきていた。木製で出来た白木の鞘にしまい込まれた、平均より少し刃渡りが短い一振りの刀。その刀身を抜き放つと、スイルベーンの日光に刃が煌めいた。
「何とこの刀身伸びる」
小太刀かと見紛うほどとは言わないが、少し短い刀身はフェイク。何と刀身部分に伸縮機構が仕込まれており、ガムのように伸びて射程をカバーするのだ。
「……で。あんたそれ、使うの?」
「何言ってるんだ、俺には二人で作った最強の刀があるじゃないか」
「返してきなさい!」
胡散臭そうに買ってきた刀を眺めるリズに対して、考え抜いた殺し文句を放つがバッサリと切り捨てられる。俺のアイテムストレージの許容量を超えそうな刀コレクションに、新たに加わることが内定した刀を、リズは即断即決で返してこいと命じる。それをアイテムストレージにしまい込むと、リズをどうどう、と動物にするようになだめる。
「大丈夫、大丈夫」
「大丈夫じゃないから言ってるの!」
「……それより、ひよりはまだか? あまり時間はかからないと思うんだが」
一緒に女子会をやっていた柏坂ひより――ことクロは、何と新しくキャラクターを作り直すつもりだったらしく。SAOのキャラデータを引き継ぎながら、シルフで始めるとのことで――だからスイルベーンまで降りてきた訳だが――あまり時間がかかる作業でないソレに、もうこの世界に来ているとばかり思っていたのだが。
「女の子には色々あるんだよ、ショウキくん」
「そうですよショウキさん。クロさんのアバターだって、ずっと使い続けてたんだから、思い入れだってあるでしょうし」
女性陣からの猛烈な抗議にあい、俺は意見を改めざるを得なかった。データ移行は時間がかかる作業とのことで、懐かしのシルフ種の初期地点を眺めていた。
「あのお坊ちゃんアバターが懐かしいんじゃないの?」
「ありえない」
最初に旧ALOに来た時に使った貴族のお坊ちゃんアバターについて、リズからの問いかけに隙を与えず答えながら、アバターを変えると語った時のひよりの言葉を思い返す。《クロ》はキリト――黒の剣士の強さを借りていただけの仮初めで、これからは自分自身のアバターで楽しんでいきたい、と。SAOでいなくなった大事な人の分まで、SAOで使っていたアバターで――と、ここまでで良かったのだが。
最後に『……ですよね、翔希さん』などと言ったものだから、しっかりリズに『ポエマー』などとからかわれたのは別の話として。
「あ、来たみたいですよ!」
そんなことを考えていると、初期配置地点に光が灯っていく。新たなキャラクターがログインするその証に、シリカは恐らくひよりだと当たりをつける。
「……ふぅ」
その読みはどうやら当たったらしく、ウェーブのかかったロングヘアの少女――髪の色だけ弄ったらしく、現実とは違う水色が混じった流水のような銀髪で、シルフの初期装備が窮屈そうに現れた。
「……ん?」
生成されていくルクスの脚部に、何か刺青のようなものが見えた気がした。見覚えのある形だったが、詳しく確かめるより速く服の下に隠れてしまう。
「初めまして……になるのかな。こっちでの名前は《ルクス》。よろしく頼むよ」
そんな俺の違和感を知ることはなく。自己申告の通りに、口調がリアルと違い凛々しくなる彼女――《ルクス》だったが、その後に深々とお辞儀をしてきた。そんな、中身はあのひよりから変わっていないのだと感じさせる動作に、一同が安心したように小さく笑うと、ルクスが疑問を感じたのか首を傾げた。
「……変、かな?」
「んーん。ハンドル持つと性格変わっちゃう系なのねー」
「ルクスさんになっても変わらなくて安心したんです!」
ルクスを囲んでかしましく談笑し始めようとしたその時、背後に回り込んでいたリーファが、何を思ったかルクスのスカートをチラリとめくる。
「リリリリーファ!? いきなり何を!?」
「あ、ごめ……何か見えた気がして……」
「リーファさん、セクハラはダメですよー?」
「違うってば!」
どうやらリーファも彼女の足に何かを見たらしかったが、もうそこには何もなく。アバターを構築する際のポリゴン片が何かと見間違えたか、と思ったところ……ポン、と肩に手をかけられた。
「何をじっくり見てるの?」
「…………いえ、何も」
こちらの肩を叩いて笑顔で語りかけてくるリズに、どうやって返答をするか、過去最高の速さで思考を回転させると――結果として、適当にごまかすというあまり有効でない返答となった。
「ふーん。ま、いいけど。ルクスの足スラッとしててキレイだもんねー」
ふんだ、という効果音がつきそうな感じで、リズはそっぽを向いてしまう。そのまま、まだ騒いでいるリーファたちに対して「そろそろ行くわよー」という声をかけ、翼を展開する。
「…………」
後で謝るか埋め合わせをしなくては、と思いながら俺もリズと同じ色の翼を選択すると、揃って飛翔していく。目指すは、各領地からアインクラッドへと向かう経由地である《イクドラシル・シティ》。そこにある《アシュレイ》氏の店へ――
「やめて下さいよぉ~!」
――さて、自分はSAOにおいてカリスマお針子であったという、アシュレイ氏とは面識が無かったのだが。せいぜい、あのデスゲームの中で《裁縫》スキルをいち早くマスターした、という話程度で。自分たちSAO帰還者の中で直接面識があるのも、キリトとアスナ夫妻くらいなのだが。
「やだーお肌スベスベじゃなーい!」
偶然本人がいる時に店を訪れることが出来てラッキーだと思えば、その店の店主は男か女か分からない顔と体格で、シリカの全身をセクハラしていた。ハラスメント警告が鳴っていないということは、恐らくは女性プレイヤーなのだろうけれど。
「……おいリズ」
「分かってる、皆まで言わなくていいわ。アスナからは凄く個性的な人、って聞いてたけど……」
「尻尾はやめて下さいー!」
確かに個性的ではある、充分すぎるほどに。そんな個性的なカリスマお針子の手から、遂にシリカが悲鳴をあげて逃げると、アシュレイ氏は残念そうにおほほ、と声を上げて笑う。
「あらあら残念。もうちょっと触ってたかったのに」
「えっと……あたしたちは……」
「分かってるわよ、服の修復でしょ?」
代表してリズが交渉を進めようとすると、アシュレイ氏はあくまでマイペースに話は進めていく。置いてある机に無造作に座ると、そこに置いてあった羊皮紙をペラペラと捲っていく。
「見たとこ結構手間がかかりそうだし、悪いけど今から予定あるのよねぇ」
「そ、そんな……」
いつの間にかこちらの状態を把握している目線は流石だが、だからこそ暇ではないのか、アシュレイ氏はこれから予定があるという。なら縁がなかったということで、他の店を訪ねようと提案しようとしたところ、アシュレイ氏はリズへとペンを突きつけた。
「ま、他ならぬアスナからの紹介だし。アナタがワタシの質問に答えてくれたら、時間都合するわ。リズベット武具店さん?」
「ウチをご存知で!?」
カリスマお針子、などと呼ばれる存在に知られていたことに驚いたのか、リズが素っ頓狂な声をあげる。
「そりゃもちろんよぉ。アスナからも聞いてるし、このシティでも評判よ? ま、このALOは魔法スキルも上げなきゃいけないから、ワタシたちみたいな生産系プレイヤーは貴重、ってこともあるんでしょうけど……」
アナタのお店も儲かってるんじゃない? と嫌らしい笑顔でアシュレイ氏は問いかけてきて、ついつい俺は苦笑いを作ってしまう。黒字経営万歳。
「リズさん凄いです!」
「ありがと。それで……聞きたいことって?」
本題であるリズに――いや、リズベット武具店店主に聞きたいこととは。アシュレイ氏は相変わらず、商売人らしく笑みを絶やさずにこちらに問いかける。
「SAOクリアから半年とちょっとくらいかしら、急にアナタとアナタの店の名前が上がったの。だから同じ職人プレイヤーとして、その時にコツでも見つけてたら教えて欲しいなぁ、ってねぇ」
「クリアから半年とちょっと前……?」
オウム返しに呟きながら、リズは何があったかと思い返していた。ついでに自分も関係者として、何があったか考えてみると――キリトが解決したという《圏内事件》が起きた頃だろうか――一つの可能性に思い至る。しかし、まさかこれではあるまい、とその考えを自分の中に封印する決意を固めると、思いも寄らぬ場所からその考えは放たれた。
「それって、ショウキくんに会った頃じゃありませんか?」
『――――』
「ショウキさんと?」
まさかのリーファからの発言に対し、俺とリズは揃って口をつぐんで――どうやらリズも、その考えに思い至っていたらしい――固まってしまう。ルクスにシリカが不思議そうに聞いていくと、さらにリーファは言葉を続けていく。
「ちょ、ちょっとリーファ何言って」
「ショウキくんとリズさん、いつ頃から会ってたのか気になって。前に聞いてみた時、そう言ってたけど」
「何? 男なの? 男のおかげでアンタの武器は良くなったの!?」
「関係ないですって!」
復活したリズの制止も間に合わず、謎の食いつきの良さを見せるアシュレイさんに、リズは顔を赤くして否定する。まさか俺がリズベット武具店に出入りするようになったから、リズの鍛冶の腕が上がったなどと口が裂けても言えない。俺からしても、リズからしても。
「で? アンタがそのショウキ? この子にナニしたの?」
リズが何も答えないと見るや否や、アシュレイさんの矛先がこちらに変わる。一瞬『拙者はクラインと申す者』とかいう文言が浮かんだものの、誤魔化しても仕方がないというかすぐにバレる。リズに視線で助けを求めたものの、リズはリズで他三人からの質問攻めを受けていた。
「知り合ったから、素材アイテムとか融通してただけで。別に」
「ふーん。そう」
本当であるとは言えないだろうが、決して嘘は言っていないその返答――そもそもリズの鍛冶のコツなのに、何故自分が答えることになっているのか――は、どうやらアシュレイさんの望んだ解答ではなかったらしく。いざ答えを聞くとアシュレイさんは興味なさげに返答し、リズたち三人のマント姿を観察すると、羊皮紙にガリガリと何かを書いていく。
「まあいいわ。こんだけの値段で融通してあげる」
「本当ですか! ほら、いい加減にしなさいアンタたち!」
リズに絡んでいる三人を無理やり引き離し、アシュレイさんから値段やら何やらが書かれた発注書を受け取った……かと思えば、ピシリと凍結したかのようにその動きを止める。どうしたかと思って背中からその発注書を覗き見ると、俺までリズと同じようにその動きを硬直させる。
「どうしたんだい、二人とも……っ!」
ルクスを始めとした三人も、俺たちの動きが固まった理由を察した。リズにシリカとリーファ、三人の服を新品同然に直す見積もりが書かれているのだが、その値段がまるで見たこともない数値だったのだ。それこそ我がリズベット武具店の金庫を、採算度外視して投入すれば何とか、といったところであり。当然払えるような値段ではなかった。
「見た目はただの破損だけど、凄い『呪い』がかかってる。NPCやそこらの三流に任せたら、最悪ロストするかもね」
それくらいは、アナタほどの《鑑定》スキルがあれば分かるでしょう? ――と。アシュレイさんはたたみかけるように、主にリズに向けて語りだす。ぼったくりじゃないか、と疑う心が無かったといえば嘘になる俺たちの心境は、リズの力ない頷きで間違いだと気づいた。
「でもたかが服でこんな……」
「……たかが?」
リーファが小さく呟いた言葉に耳ざとく反応し、机に行儀悪く座っていたアシュレイさんの気配が悪いものに変わる。今までマイペースに話を進めてきていた人とは別人のように、その目はリーファを糾弾するように射抜いていた。
「ワタシはこの仕事とスキルに誇りを持ってるの。それこそ、命を賭けてたぐらいにね。……そんなこと言う客には、その値段の倍出されたたって仕事したくないわ」
命を賭けてたぐらい――というところを、笑うことは出来ない。何故なら彼女は、あの命の危険があるデスゲームでさえ、その仕事の為のスキルを優先したのだから。街中は安全であるとはいえ、自衛のための手段より先に。
「……すいませんでした!」
それは第三層から既に鍛冶屋を始めていた、リズにも言えることであり。失言をしてしまったリーファより早く、彼女は真っ先に頭を下げていた。
「ごめん、なさい……」
「……もういーわよ。女の子をイジメるのは趣味じゃないの」
リーファも決して本心から言った訳でもなく、失言を正直に謝ったところ、アシュレイさんはどうでもよさげに手を振った。悪意ある気配はそれで去っていき、代わりといっては何だが……俺たちの前に、一枚のチラシが提示されていた。
「そんなアナタたちに、いいお金儲けの方法があるんだけど……どう?」
――そしてアシュレイさんから提示されたのは、『浜辺の英雄は君だ! ~水着コンテスト~』という、ひと昔前のバラエティー番組のようなものであり。ある浜辺での水着コンテストでの優勝商品が、アシュレイさんから提示された金額を軽く上回るほどだったのだ。更に水着はアシュレイさんから提供されるということで、俺たちは海に赴くこととなっていた。
「いやぁ……でも今思うと、アシュレイさんのペースに上手いこと乗せられてたわよねぇ」
「リズさんが買ったんじゃないですか……」
最終回にそのアシュレイさんの申し出を受けたのは、もちろん胸を張ったリズであり。「その挑戦、受けてたちます!」などと言った手前、水着とコンテストの指揮はリズが取っていた。
「でもこれ、ハラスメント的にグレーよね……」
「合法的に水着を見ていいと言っているようなものだからね」
そんな水着コンテストとは、何でも他のプレイヤーに視線を合わせられた数、というのを計測しているらしく。平たく言えば、『一番水着姿を見られた女性プレイヤーが勝ち』という身も蓋もないことで、リーファがハラスメントギリギリというのも無理はなかった。
そんなこんなで装備も壊れておらず、かつ水着コンテストにも出場していない――当然だ――俺からすれば、全くもって何の関係もなくなったのだが、もちろん帰るわけにもいかず。舞台裏でリズの作戦に協力することとなった。
「焼きそば一丁ー」
海の日光に照らされて、気だるげな声でルクスに声をかける。発案者曰わく、『一緒に食欲も満たしてやりゃいいのよ!』とのことで、俺が作った焼きそばを四人を売り子として売っていた。多少の料理スキルはあれど、あくまで素人の自分の焼きそばなど売れるものか――と思っていたが、なんと売り上げは好調らしく。
「まさか売れるなんてね……」
比較的近くで売り子をやっているルクスが、信じられないような口振りで言葉をもらす。その視線を追ってみると、先程焼きそばを買っていったプレイヤーが、涙を流すほどの感激具合で焼きそばを貪っていた。
「このボソボソと気の抜けた麺! イマイチ火が通ってない肉! 丸ごと入れられたキャベツの芯!」
「まさか、ここまで海の家クオリティを再現しているとは……やるなこの店……」
「そういうこと……らしいよ?」
そんな様子を見ていたルクスとクスリと笑いあうと、さらに焼きそばを適当に増産せんと、ソースのかかった麺を鉄板に放り投げていく。浜辺を見てみると、ピナが口から水鉄砲を出して虹を作り出し、そこをシリカが走り回りながら焼きそばを「美味しいですよー」と売っていた。あいにく美味くはない。
「……ふふ。ここは……いや、皆といると楽しいね。ありがとう」
「お礼を言われるようなことを俺はしてないよ。あちっ」
作り終わった焼きそばの束をルクスに渡していると、鉄板から跳ねた油の粒が頬に当たる。反射的に手で覆うものの、特に火傷などはしていないようで――当たり前である。
「大丈夫かい?」
仮想世界で火傷の心配をしてしまった自分に、ルクスの優しい言葉が突き刺さる。確かに現実と見紛うほどの綺麗な海ではあるが、自分もずいぶんと慣れてしまったらしい――と思いながら、作りきった焼きそばを全てルクスに渡す。
「ああ。そろそろ中間報告と休憩時間だから、それまで売ってきてくれ」
そろそろ全プレイヤーの累計ポイントが発表される第一中間報告で、ちょうど焼きそばも売り切れそうな頃合いだ。リズとリーファの組み合わせが見えないが、あの二人はあの二人でどこかで売っているだろう。……リズとリーファ、という組み合わせがとてつもない不安感を煽るが。
「了解だ。ところで、リズから『売る時に胸をムギュってするように』って言われてるんだけど」
「無視していい」
「だけど、こうなったのも元々私のせいで……いや、うーん……」
自分が《天使の指輪》クエストで無茶をしたが為に、リズたちの防具がボロボロになったという引け目。それと単純な羞恥心の狭間で悩みながら、ルクスは焼きそばを売りに海外へ向かっていく。
ルクスの水着は、いわゆる『パレオ』という腰に巻きつけるものがあり、太ももの辺りまで布が巻き付かれていた。元々リズの選んだ水着には、そのパレオは無かったらしいが、ルクスが絶対にパレオを巻きたいと主張したのだという。
『似合ってるからいいけど、足出すの恥ずかしがってるのかしら』――とは、自らはスポーティーな水着を選んだリズの弁。普通ならそう思うだろうが、ルクスがこのALOに来た時に俺とリーファだけが見た、ルクスの足についていた『何か』。
しかしリーファが確かめたところ、もはやそんなものはなく。俺とリーファが揃って気のせいだった、という話で終わるはずだった。
「ラフコフ……」
――その足についていた『何か』が、あの笑う棺桶《ラフィン・コフィン》のエンブレムでなかったなら、の話だが……
後書き
ガールズ・オプスって微妙に略しづらいんですよね。ガルオプって言いにくいというか、ALOだのGGOだのと比べて浮く……かと思えば、元々フェアリィ・ダンスとファントム・バレットって略しようもないサブタイでしたね、原典もそういや。
やはりイカジャムは偉大(
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