おぢばにおかえり
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第十七話 梅雨ですその九
「わからないんだけれど」
「わからないの?」
「ええ。そんなの普通にできるんじゃ?」
「私はできないの」
深刻な顔で答えてきました。
「それで言ってるのよ」
「そうだったの」
「本当にやるのかしら」
「やるんじゃないの?」
よくわからないけれどそのまま思ったことを話しました。
「バタフライも授業のうちだし」
「そうなの」
そう言われると暗い顔になっちゃいました。あらら、って感じです。
「困ったわね」
「困った?」
「あれだけどうしてもできないのよね」
今度は溜息と一緒です。
「教えてもらっても」
「続けてやっていたらできるんじゃないの?」
「あまりそうは思えないけれど」
「まずはやってみないと」
何とか彼女に勧めます。
「どうしようもないわよ」
「そんなものかしら。他はできるんだけれどね」
「他できたらバタフライもできるんじゃ?」
「ところがね」
それでもって感じです。どうしても自信がないみたいです。そんな話をしている間も雨は降っています。それは下校の時も一緒でした。学校を出る時に傘をかけると。
「ちっち」
「あっ」
長池先輩の声がしました。見ると前に赤い傘を右手でさした長池先輩が左手で私に小さく手を振ってきてくれています。
「先輩っ」
「今帰るところ?」
「はい、そうです」
先輩と鉢合わせになりました。雨の中ですけれどラッキーです。
「今からそのつもりなんですけれど」
「そう、じゃあ丁度よかったわね」
先輩は私の言葉を聞いて今度は優しく微笑んでくれました。
「私もなのよ」
「先輩もですか」
「一緒に帰らない?」
先輩から声をかけてくれました。
「よかったら」
「はい、御願いします」
高井先輩や佐野先輩もそうですけれど一緒にいたら皆、特に男の人や男の子が振り向いてくれて華やかになるんです。やっぱり美人ですから。
「わかったわ。じゃあ一緒にね」
「はい」
こうして私が先輩の横にお邪魔させてもらって一緒に帰ることになりました。雨の中で夏服の先輩も本当に奇麗です。女優さんみたいです。
「結局今日は一日中雨だったわね」
「そうですね」
先輩の言葉に頷きます。
「何か。降り止まないですね」
「おぢばって結構雨が多いのかも知れないわね」
「多いんですか」
「ここに帰って三年目になるけれど」
思えばかなり長いんですけれど。私一年生でもう随分時間が経ったように感じます。
「その間梅雨はいつも雨だったような」
「いつもですか」
「そう、いつもなのよ」
ちょっとうんざりしたような感じのお言葉でした。前にある天理大学の建物も普段とは違って何だか濡れて泣いているみたいな感じです。
「いつも雨でね」
「何か嫌な感じですね、それって」
それを聞いて思いました。
「ずっと雨っていうのも」
「降らないと困るものだけれどね」
それは確かにそうですけれどそれでも。
「ずっとは困るのよね」
「春が終わったと思ったらすぐにですし」
「この後は夏よ」
先輩の声がさらにうんざりとしたものに。
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