戦国異伝
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第二百三十二話 本能寺においてその九
「しかしですな」
「うむ、喜ばぬ」
「それは確かに素晴らしいことですが」
とかく質素に務める、このことの美徳は利休も認めることだった。
しかしだ、利休は別の視点から信長に答えた。
「もてなさせて頂く方としましては」
「贅を尽くしてこそと思うからな」
「それがどうも」
どうにもというのだ。
「がっかりするものがあります」
「そうじゃな、そのことはわかっておくことじゃ」
「では普通の膳に酒に」
「菓子もな」
「普通のものを、ただ素材はよいものを使います」
「素材をか」
「料理の品自体は馳走でなくとも」
しかしというのだ。
「素材と作る料理人の腕はです」
「堺の中でもよりをかけたな」
「そうしたものにします」
「それがよいな、あと竹千代は確かに贅沢は好まぬが」
だがそれでもというのだ。
「味噌と揚げたものは好きじゃ」
「そうしたものはですな」
「それは出すとよい」
「わかりました、では」
「そうしたものを出して竹千代を楽しませてやれ」
「さすれば」
「あ奴とは長い付き合いじゃ」
信長は家康に対して親しみを込め笑みで話した。
「だからな」
「それで、ですな」
「うむ、あ奴が喜んでくれる嬉しい」
「では徳川殿に心から楽しんでもらいます」
「そうしてくれ、頼んだぞ」
「さすれば」
「さて、わしはこのまま都におる」
即ち本能寺にというのだ。
「やることが終われば帰るがな」
「その前に、ですな」
「何かあるやもな」
今度は楽しげな笑みでだ、信長は言葉を出した。
「そしてその時はな」
「その打っておいた手で、ですな」
「対する」
「ではそのことも見させて頂きます」
「また安土に来るのじゃ」
信長は笑って利休にこうも話した。
「そして安土を楽しみな」
「それがしの茶をですな」
「また飲ませてもらう、よいな」
「さすれば」
「そして大坂にも行くからな」
「そこでもですな」
「飲ませてもらうぞ」
利休が淹れた茶をというのだ。
「またな」
「上様はとかくお茶がお好きですな」
「大好きじゃ、菓子もな」
茶と共に出されるそれもというのだ。
「そちらもな」
「甘いものもお好きですし」
「そうじゃ、どちらもな」
「上様はお酒は口にされないですな」
「昔からな、酒を飲むとな」
「ほんの一口で、ですな」
「頭が痛くなる、わしは酒は駄目じゃ」
それが信長だ、だから彼は酒を飲まないのだ。酒が出る宴の時も酒は決して口にはしない。水や茶を飲んでいるのだ。
「そうしておる」
「そうですな、しかしそれもです」
「悪いことではないな」
「酒は飲めぬ方は飲めませぬ」
それはどうしてもというのだ、体質的にそうした者がおり信長もまたそうした体質の持ち主なのである。このことは利休も知っている。
「ですからそうした方はです」
「茶をじゃな」
「楽しまれればいいのです」
「そして菓子もじゃな」
「無論です」
茶に欠かせないそれもというのだ。
ページ上へ戻る