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エル=ドラード

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1部分:第一章


第一章

                     エル=ドラード
 この伝説は誰もが知っているものだった。
 エル=ドラード。南米アンデス山脈の何処かにあるという黄金郷。誰もがその名前を知っていた。
 しかし何処にあるのかは誰も知らない。幻だとさえ言う者がいた。しかしそのエル=ドラードが実在すると信じ探す者が今一人いた。
 ホセ=ポンス。丸々と太った大柄な男で鷹揚な表情をしている。その顔は黒い髭に覆われている。職業は考古学者でありペルーのある大学で教授を務めている。
 彼は幼い頃にエル=ドラードの伝説を聞いてだった。その存在に憧れ学者になり様々な文献を読み漁りアンデス中を見回して。探しているのだった。
 この日はアンデスを歩き回っていた。険しい山を何日もかけて幾つも越えてだった。そうしたことをこれまで何度もしてきたし今回もだった。しかしであった。
「今回も見つからないか」
「いえ、博士」
 彼に同行しているのは褐色の肌にやや切れ長の目を持つ美女だった。黒髪はやや縮れており長く伸ばされている。ラテンの血とインディオの血を感じさせる美女だった。
 この美女は彼の助手であり名前をミレッラ=シッドという。彼と同じペルー人である。
 その彼女が彼と共にいる。助手として彼の探索にいつも行動を共にしているのである。
「諦めたらそれで終わりじゃないですか」
「諦めたらかい」
「それで何もかも終わりですよ」
 こう明るい顔で言うのだった。彼女はその背に多くの荷物を持っている。そしてそれはポンスもだった。彼もまた多くの荷物を持ってアンデスを歩き回っているのだ。
「それだけで」
「それはわかっているんだがなあ」
 ポンスはその大きな頭を振って述べた。
「いや、それでもだよ」
「見つからないからですか」
「今回も駄目なんじゃないかなってね」
 こう思っているのである。
「そう思ってね」
「ですからそういう考えがちょっと」
「駄目なんだよね」
 また言うポンスだった。
「じゃあ今回も諦めずに」
「そう。諦めたら終わりですから」
 シッドの言葉は変わらなかった。
「進みましょう、先に」
「希望を信じてだね」
「はいっ」
 こうして彼等はアンデスの中を二人で歩き回る。ポンスは彼があらたに見つけた地図を見ながら進んでいる。そうしてその日は歩き続けた。
 夜はそれぞれテントを設けてその中に休む。ポンスは紳士であり女性と同じテントの中に入るような男ではなかったのである。
 ただ食事は一緒だった。硬いパンと豆の缶詰を食べながら焚き火を囲んで話をしていた。
「さて、明日はだけれど」
「このまま地図を頼りにですね」
「うん、行こう」
 こうシッドに話すのだった。豆を食べながら。
「そうしてね」
「わかりました。今度こそですね」
「そうだね。今度こそね」
 シッドのその明るい言葉に頷くポンスだった。
「見つけようか」
「その意気ですよ。では明日に備えて」
「寝るとするか」
「はい。それで教授」
「何だい?」
 シッドの言葉にふと声を止めた。
「ピューマやジャガーには気をつけて下さいね」
 このことを忘れないシッドだった。アンデスにも自然がある。そしてそうした獣もいるのである。アンデスにおいて最も警戒しなければならないものの一つである。
「くれぐれも」
「わかってるさ。それは君もね」
「銃はありますから」
「僕もね。それじゃあお休み」
「はい、お休みなさい」
 こうしてそれぞれのテントの中で用心しながら休む彼等だった。そのうえで次の日はだった。彼等はまたアンデスの中を進むのであった。
 アンデスは山が何処かでも連なっている。地図にある怪しい場所にようやく辿り着くとだった。そこには何もなかった。普通の山があるだけであった。
「やれやれ、今回もか」
「そうみたいですね」
 気落ちするポンスにシッドが声をかける。
 
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