大蛇
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10部分:第十章
第十章
「だからじゃよ。わかるのじゃ」
「だからですか」
「左様、悪党には容赦はせん」
まるで騎士の様に語る彼だった。
「見ておれよ。わしが全て倒してやる」
「何か凄い流れになっちゃいましたね」
「冒険に悪党は付き物じゃ」
言いながらまた発砲する博士であった。容赦がない。
「何なんだ、一体!」
「こいつ等やるつもりかよ!」
「降りかかる火の粉は払ってみせる」
彼はまた言うのだった。
「悪党は自ら出向いて成敗してやってもいいぞ」
「何かこの先生って」
「まんまあれなんだな」
ドウモト兄弟も周囲に攻撃を浴びせながら言うのだった。
「ドン=キホーテなんだな」
「本当にな」
「さて、死にたい奴からかかって来るのじゃ」
散弾銃を放ちながらまた言う。
「このわしの前に出て来たこと、地獄で後悔させてやろう!」
「野郎、その言葉そのまま返してやる!」
「許さねえぞ!」
河賊達の声がする。そうして船が高速で動く音がする。時折銃声もして銃弾が足元や身近に来る。パンチョはそれに慌てふためいた様子になる。
「うわ、撃たれないかな。船に当たらないかな」
「安心するのじゃ従者よ」
すっかりドン=キホーテになっている博士が言うのだった。
「悪者は正義の味方を倒すことはできんものじゃ」
「それは物語でしょ?」
「いや、事実じゃ」
本当になってしまっていた。
「わしが言うのだから間違いない」
「間違いないって」
「見るのじゃ」
言いながらだった。銃弾を込めてからまた発砲する。
博士は間違いなく河賊達を倒している。ドウモト兄弟もだ。しかし河賊達の数は闇夜の中ではっきりしないが減っていないように思われる。彼等の劣勢は明らかだった。
「まずい、これは」
パンチョは青い顔で呟いていた。
「近付いて来てるんじゃ」
「では接近戦じゃな」
博士だけが何でもない様子だった。
「ナイフは持っておるのう」
「それはまあそうですけれど」
「なら問題ない。スピアでないのが残念じゃが」
そしてこんなことも言うのであった。
「さて、悪者達よさらに来い」
騎士そのものの言葉になっている。
「わしが成敗してやろうぞ」
「本当に大丈夫なのかな」
ドウモト兄弟が健闘しているそのすぐ後ろで小さくなって時折ライフルを放つだけしかできなくなっているパンチョが小声で呟く。
「こんな有様で」
「安心するのじゃ」
しかも博士の自信は不動だった。
「悪党は敗れるのが運命じゃ」
「ですからそれは物語で」
また言おうとした。しかしここで。
突如として闇夜の中に緑に光る二つの光が見えた。それが河賊達の声がしている方に来て。
「うわっ!」
「ぐわっ!」
複数の重いものが水の中に落ちる音がした。そうして。
「うわあああっ!!」
「ぐわああっ!」
断末魔の声が聞こえてくる。ドウモト兄弟はそれが何故かすぐにわかった。
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