ポケットモンスター 急がば回れ
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27 グリーン対カツラ
カツラ「うおおーす!
わしは燃える男、グレン島のポケモンジムのカツラ!
わしのポケモンは全てを炎で焼いて焦がしまくる強者ばかりなのだー!
うおおーす! 火傷治しの用意はいいか!」
グリーン「ポケモン屋敷じゃ妙に澄ましてたと思ったら、急に暑苦しいじじいになったな」
カツラ「バトルとなれば変わるものだ!」
グリーン「フィールドがこれだからな。
暑苦しくなるのも無理ねーか」
フィールドは幅の広い吊橋のようになっていて、その下には煮えたぎった溶岩がときおり気泡をたてながら流れている。
周りはスタジアムのように楕円形に岩が削られていて観客席になっている。
そしてそこにイミテは気を失ったまま寝かせられている。
レフェリー「使用ポケモンは3体。
手持ちが3体以下の場合は手持ち全て。
使用できる道具は挑戦者は無制限、ジムリーダーは4つまで。
ジムリーダーは挑戦者のバッジの数により定められたポケモンを使用すること。
使用できるポケモンがいなくなったら負け。
反則行為は即失格」
カツラ「お前、ジムバッジは幾つ持ってる?」
グリーン「4つだが手加減無用!」
カツラ「面白い小僧だ! こいつらで相手をしてやる!」
カツラは2つのモンスターボールを構える。
グリーン「ギャラドスを置いてきたのは痛かったが、いつも通りこいつで勝負だ!」
レフェリー「では、始めっ!」
グリーン「いけっ、フーディン!」
カツラ「ゆけっ、ウインディ!」
グリーン「フーディン、影分身!」
目にも止まらない速さで残像を作っていく。
1体が2体、2体が4体、4体が8体といったように回避率を上げる。
カツラ「わしは下手な賭けはせん! 全て燃やし尽くしてくれる!
ウインディ、炎の渦!」
炎が巨大な竜巻となってフーディンに迫る。
グリーン「くそっ、避けきれねえ!」
フーディンと残像は竜巻にのまれる。
カツラ「わかっているぞ、影分身に紛れて身代わりを作っていたのだろう!
更に身代わりに攻撃を受けさせてカウンターで返すつもりだったな!」
残像は消滅していき、やがて身代わりの分身も消える。
本体は竜巻の中央に取り残される。
グリーン「お見通しというわけか……
炎攻撃じゃカウンターで返せねえし、これじゃあ身動きも取れねえ」
炎の竜巻は徐々に1本の炎の柱になろうとしていく。
グリーン「このままじゃまずい!
フーディン、サイコキネシス!」
中心から超能力のテリトリーを広げて炎を掻き消す。
そしてそのままウインディを捉えようとする。
カツラ「ウインディ、神速!」
グリーン「速くて捉えきれねえ!」
カツラ「エスパー技とて所詮は五感で相手の気を読む術。
必ず死角が存在する!」
ウインディはフーディンの真上から突撃する。
フーディンは苦手な物理技の強襲を受けてよろける。
カツラ「自己再生の暇を与えるな!
ウインディ、もう一度神速!」
グリーン「フーディン、リフレクター!」
リフレクターでなんとか致命傷は避ける。
ほっとしたのも束の間、素早いターンから3回目の神速攻撃が来る。
グリーン「テレポートだ!」
いったん戦線を離脱して体勢を立て直す。
カツラ「逃げていては勝てんぞ」
レフェリー「グリーン選手、トレーナー戦でのテレポートは認められていない。
もう一度テレポートを使ったら失格だ」
グリーン「ちっ……そんなルールがあったとはな」
グリーンは考える。
身代わりとカウンターは読まれた。
サイコキネシスも通用しない。
自己再生も知っていた。
そして、テレポートも封じられた。
グリーン「おいじじい!
お前、俺のこれまでのバトルを見てたのか?
俺のことも知ってたし、お前は一体何者だ! じーさんの知り合いか?」
カツラは静かに笑う。
サングラスで双ぼうは明らかではないが、口元は確かにそうである。
カツラ「お前を見てると昔のオーキドを思い出す。
奴もお前と同じ眼をしていた……」
カツラは一呼吸置いて遠くを見上げる。
グリーン「年寄りの昔話でも始まるのか?
まあせっかくだし聞いてやるよ」
カツラ「オーキドがこんな話を孫にするわけがないからわしが聞かせてやろう。
……事の始まりはフジがミュウを発見したことだ」
グリーン「ポケモン屋敷の日記に書いてあったポケモンか」
カツラ「わしとフジはミュウの研究を秘密裏に行おうとしたが、オーキドはミュウを世間に公表しようとした。
そんなことをしたらポケモン協会が黙っていないことは目に見えている。
なにしろミュウは、これは早い段階でわかったことだが、あらゆるポケモンの遺伝子を持っている。
これはまたとないチャンスだ。ミュウがいればポケモン図鑑は完成して研究ははかどる。
フジが発見したということでオーキドはいちおう納得して公表はしなかった」
グリーン「なんだよ、ポケモン図鑑はとっくに完成してたんじゃねーか」
カツラ「図鑑集めなど、新人トレーナーを育てるための子供騙しに過ぎん。
図鑑を完成させるのが夢などとほざきおって……
お前もオーキドに騙されていたというわけだ」
グリーン「俺、図鑑なんか持ってねーぜ。
ポケモン全種集めるとか、正直興味ねーし」
カツラは鼻で笑う。
カツラ「研究はわしら3人と選ばれた助手で行われた。
主に指揮を執っていたのはオーキドで、フジはミュウの遺伝子を使って人工的な繁殖を、わしはミュウの能力を調べた。
それで充分手は足りていた。むしろ人員を減らすべきものを、オーキドは当時の教え子だったサカキを助手に加えた。
わしらに何の相談も無しにな」
グリーン「サカキ……あのロケット団のボスのサカキか?」
カツラ「そうだ。
わしは最初から嫌な予感がしていた。
サカキは当時から強いポケモンにしか興味を持っておらず、オーキドの手伝いというのは口実で最初からミュウに目をつけていた。
その証拠に最初はわしの助手をしていたが、ミュウそのものに大した力は無いとわかるとすぐにフジの助手についた。
どのようにしてフジを口車に乗せたのかは知らんが、研究は次第にサカキに乗っ取られていき研究室にはポケモンの亡骸の山ができていった。
フジがやったとは到底思えんよ」
グリーン「フジって奴は何者なんだ?」
カツラ「誰よりもポケモンを大事にしていた。
大事にするあまりバトルには批判的で、ポケモンの戦闘本能を取り除くなどというロボトミーのような研究もしていた。
少々行きすぎるところもあったが、おそらくそこをサカキに逆手に取られたのだろう。競争の無い帝国主義のような理想論でも押しつけられてな」
グリーン「今はどうしてるんだ?」
カツラ「少々行きすぎる性格ゆえ、死んだ全てのポケモンたちの癒やされぬ魂を自分ひとりで背負ってシオンタウンのポケモンタワーで墓守をしている。
もっともシオンタウンはミュウツーに破壊されてしまったから、今はどこでどうしてるかなど知らんがな」
グリーン「イエローを助けにいったのはそのフジってじーさんだったのか」
カツラ「イエロー……
たしかそんなような名前の孫がいると風の噂で聞いたな。
……そんなことはどうでもよい!」
突然カツラが逆上する。
ジムに響く声にイミテが反応して目覚める。
カツラ「わしが許せんのはオーキド……
あいつの身勝手に振り回されてわしらがどんなにひどい目に遭ったか!
あいつのせいでフジはまるで僧侶のような生活を強いられ、わしは家族を奪われた!」
グリーン「よくわかんねえけど、それはサカキのせいじゃねえのか?」
カツラ「同じことだ!
オーキドがサカキを連れて来なければこんな結果にはならなかった!」
イミテがフィールドに下りてきて、カツラに歩み寄る。
イミテ「おじいちゃん……!」
カツラ「ブルー……」
カツラは一瞬だけ表情を緩めてから、またすぐに元の強張った顔に戻る。
カツラ「おじいちゃんなどと呼ぶな! メタモンの分際で!」
イミテ「その……ごめんなさい……」
カツラ「お前がわしの息子夫婦を殺し、孫娘の記憶を奪ったんだ!」
鬼の形相で詰め寄りイミテの首を掴む。
カツラ「メタモンは全て殺処分されたはずだ! お前も殺してやる!」
華奢な首筋に指がめり込んでいく。
グリーン「事情はよくわかんねえけどやめろ!」
グリーンはカツラを背後から取り押さえる。
カツラの掴んでいた手が緩む。
解放されたイミテは床に倒れ込む。
オーキド「その子はもうメタモンではない」
ジムに2人の老人が入ってくる。
カツラのかつての仲間である。
カツラ「オーキド、それにフジ! どういうことだ!」
フジ「メタモンはお前が作ったポケモン、既にわかっておるじゃろう。
メタモンは一度変身したら元には戻れん。
この子はこの子として生きていくしかないんじゃよ。
両親と同じ過ちを繰り返さんためにも」
フジはイミテの肩を抱いて起こす。
グリーン「シオンタウンにいたじーさん、あんた生きてたんだな。
イエローはどうした?」
フジ「イエロー君なら無事じゃよ。
今はまだ戻ってこれんがいずれ会えるじゃろう」
かつて幻のポケモンの研究をしていた3人、オーキド博士、フジ老人、そしてカツラが奇しくも研究所のあったグレン島で再会する。
カツラ「同じ過ちだと! 過ちならもう犯してしまった!
なぜブルーがメタモンに寄生されなくてはいけなかったのだ?
メタモンは全て処分したはずだろう?
なぜ生き残っていたんだ!」
オーキド「誰のせいでもない。
責められるとすれば、ここにいるわしら3人じゃ」
カツラ「そうだな。
だが、なぜわしだけが家族を奪われなければいけなかったんだ?
それはオーキド、お前のせいだ!
わしが自らメタモンの変身の実験台になろうとしたのをお前は止めた」
オーキド「研究を続けていくには君が必要じゃった」
カツラ「結果的に、続ける必要はなくなったがな。
オーキドよ、わしは一生お前を許さんぞ。
ポケモン研究の第一人者だかタマムシ大学名誉教授だか知らんが、悪魔の研究に関わっていたことには変わりない」
グリーン「俺のじーさんはお前を助けようとしたんだろ?
それに最初からミュウを公表してたらこうならなかったんじゃねーか?
逆恨みはやめろ!」
オーキド「よせ、グリーン!
カツラの言う通りじゃ。全ては研究の指揮を執っていたわしの責任じゃよ」
フジ「カツラよ、今からでも遅くない。孫娘に会ってみてはどうじゃ?
わしも孫に会ってみたが悪い気分ではなかった。
そろそろ自分を許してやってもいいんじゃないか?」
カツラ「フジよ、お前は自責の念からだろうがわしは違う。
全てはオーキドへの復讐だ。
ブルーを預けたのも許したからではない。
精神が崩壊していく様を見せつけてやるためだ!
息子夫婦がわしの目の前でそうなったようにな!」
サカキ「いい歳した大人がいつまでも意地を張って駄々をこねるのはみっともないですよ、カツラ博士」
サカキはジムに静かに入ってくる。
そして後にはブルーが続く。
カツラ「サカキ、その娘は……」
サカキはブルーの頭を撫でながら言う。
サカキ「あなたの孫娘ですよ。お忘れですか?」
いや忘れるものか、とカツラは思う。
カツラ「ブルー、聞いていたのか……」
ブルーはただ黙って何も答えない。
カツラ「さ、さっきのは言葉のあやだ。
本当はな……本当はお前に会うのがつらかったんだ。
ブルーよ、わしはお前のことを思わん日は1日もなかったぞ。
今日までよく生きていてくれたな……わしは嬉しいぞ」
ブルーは押し黙ったままカツラを冷たい目で見ている。
そして相変わらず撫でられる頭はサカキに任せたままである。
グリーン「なーにサカキに懐いてんだよブルーの奴……
つーかあのじじい、俺とのジム戦忘れてねーか?」
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