ウェンティゴ
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5部分:第五章
第五章
「できないな」
「だからです。山には犬です」
ロナウドは断言した。
「ですから」
「わかった。それではだ」
「はい」
「吹雪が止むまでここにいよう」
彼は言った。
「食べ物もあるしな」
「食べられればそれで生きられます」
言いながら実際に犬達に餌をやりつつ自分も干し肉を食べるロナウドだった。
「ですから」
「待ってそれでか」
「行きましょう。それで」
「ああ、今の場所だけれど」
エドワードの方から地図を出してきた。言うまでもなくこのコースの地図だ。ここで丁度現在位置を指し占めてロナウドに話すのである。
「ここだね」
「はい、ここです」
ロナウドもそのポイントを指し示して頷く。
「我々は今はここにいます」
「わかった。それじゃあもうすぐか」
「山を越えたら友軍です」
「間に合えばいいけれどね」
「間に合いますよ。吹雪もここのはそんなに続きませんし」
「そうなのかい」
「はい、そうです」
その通りだと。エドワードに話した。
「それは」
「どうしてなんだい?それについては」
「ここの気候はすぐ変わりますから」
だからだというのである。
「ですから」
「すぐに止まるのかい」
「明日には止まりますね」
実際にそうだというのである。
「ですから。今日待てばそれでいいです」
「わかった。それじゃあ」
「ここで犬達と一緒に待ちましょう」
こうしてであった。その日は一日待った。そして朝になるとであった。
吹雪は止んでいた。ロナウドの言った通りだった。エドワードは犬達と共にそこに出てだ。雪道を踏み締めながら二人で道を歩きはじめた。
その中でだ。ロナウドはまた言ってきた。
「さて、もうすぐですし」
「頑張って行こうか」
「そういうことで。行きましょう」
こうしてであった。二人は山を越えて無事任務を果たすことができた。友軍は備えることができ敵の奇襲を撃退した。報告が功をなしたのだ。
エドワードはそれによって中尉となりロナウドも曹長になった。二人はその武勲を認められたのだ。
しかしだ。エドワードはロナウドと二人で祝杯をあげながら彼に問うた。場所は部隊の行きつけの酒場だ。西部の雰囲気そのままのワイルドな黒い木造の店のカウンターでバーボンを飲みながらだ。彼に言うのであった。
「しかし」
「何ですか?」
「あの時はよくあそこまでわかったね」
こう彼に問うたのである。
「完璧に。経験があったのかい?」
「教えられたんですよ」
「教えられたんだ」
「はい、私の地元は元々インディアンの土地でして」
これはアメリカという国全土がそうである。アメリカは元々はインディアンの場所である。そこを開拓地と称して侵略したという一面が確かにあるのだ。
「インディアン達がしょっちゅう攻め込んできまして」
「それでなのか」
「ええ、奴等はいつも山から来ました」
その山からだというのだ。彼等が通ったその山だ。
「そこからです」
「そうか。そこからか」
「それでわかったんですよ。というか調べまして」
「道のことをかい」
「そして山のことも」
ロッキーのこともだというのだ。
「村単位で調べまして。それでだったんです」
「つまり備えてなのか」
「それが役に立ちました」
感慨を込めての今の言葉だった。
「ですから」
「そうか。おかげで助かったよ」
エドワードはあらためて感謝の言葉を述べた。述べながらバーボンを喉の中に流し込む。独特のそのいがいがとした感触が喉を攻める。
その感触を楽しみながらだ。彼はさらにロナウド達に対して話した。
「つまりその場所を知れってことか」
「そういうことですね。行くにはまずその場所を知る」
それだというのだ。
「敵を知るのと同じ位に」
「そうでなければ勝てるものも勝てなければ」
「命もありません」
極論ではなかった。エドワードも自分一人だけで言ったならば、そしてロナウドの言葉を聞き入れなければどうなっていたか、よくわかっていた。
「ですから」
「そうだな。それじゃあ」
「それじゃあ?」
「犬達にも御馳走するか」
笑ってこう言ったのである。
「今度はな」
「ええ、そうですね」
ロナウドもエドワードの今の言葉を聞いてにこりと笑って応えた。
「あの連中も頑張ってくれましたし」
「犬がいたから温もれたしね」
「荷物も運んでくれましたし」
「それに」
エドワードはここであることに気付いた。それは。
「山の獣達も近付いて来なかったし」
「だから数を連れて行きました」
ここでまた事情を話すロナウドだった。
「犬は多ければ多い方が力がありますから」
「人と同じだね」
「そういうことです。ではその功労者達にも」
「うん」
「御馳走しましょう」
その笑みで返すロナウドだった。二人は無事任務を終えて今は一息ついていた。自然の驚異を無事避けられてだ。任務の成功と共にそれも祝っていたのだった。
ウェンティゴ 完
2010・3・5
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