戦国異伝
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第二百三十二話 本能寺においてその四
「ですから」
「まずはそれがしですか」
「それからそれがし達も逃げまする」
「左様ですか」
「何、慶次と才蔵がおりです」
長益は笑ってこの二人の名前も出した。
「飛騨者達もいます」
「あの者達がいるからこそ」
「何も心配はありませぬ」
「しかしあの者達が」
「命を落とすと」
「そうなりませぬか」
「ははは、あの者達が戦で命を落とすものですか」
慶次達がとだ、長益は信忠の今の言葉には笑って返した。
「慶次がそう見えますか」
「いや、慶次は」
そう言われるだ、信忠もこう返した。
「とても戦においては」
「死ぬことはありませぬな」
「あの者なら百万の軍勢が攻めてきても」
「敵を倒しに倒し」
「無事に落ち延びられまする」
「左様です、慶次もそうであり」
そしてというのだ。
「才蔵も飛騨者達もです」
「戦場で命を落とす様な者達ではない」
「ですから」
「それがしはですか」
「何かあればこの抜け道からお逃げ下され」
「そしてその後で、ですか」
「女房衆もそれがし達も逃げまする」
「この抜け道を使って」
「そうします、まあ後で抜け道は塞がねばなりませぬが」
信忠も女房衆も自分達も逃げた後でとだ、長益はこのことも話した。
「しかしです」
「まずは逃げることですか」
「逃げることも戦のうちです」
「では」
「はい、まずはお逃げ下さい」
「わかりました」
信忠も叔父に言われ頷いた、そしてだった。
彼は彼で自身のすることをしていた、二条城から。
それは信長も同じだった、だが彼には最初から迷いがなかった。
それでだ、蘭丸にもこう話していた。
「さて、全ては順調じゃな」
「はい、朝廷とのお話も」
「至ってな、それで今日は茶会じゃが」
「公卿の方々をお招きして」
「茶器も用意した、しかし」
「その茶器がですか」
「何かあればな」
その時はというのだ。
「どうするかじゃな」
「その茶器については」
蘭丸は自分から信長に申し出た。
「それがしにお任せ願いますか」
「御主がか」
「全てです」
「ことが起こった時にはか」
「無事届けますので」
「だからか」
「はい、ご安心下さい」
茶器のこともというのだ。
「果たしますので」
「御主は言ったことは必ず果たす」
このことは信長もよく知っている、伊達に傍に置いているのではない。
「だからな」
「はい、必ずや」
「しかし果たしてもな」
「それでもですか」
「御主は死んではならぬ」
命にかえてもことをするようなことはするなというのだ。
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