富士山
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2部分:第二章
第二章
「わかったね」
「頂上まで、ですか」
「全員ですか」
「辛いけれど頑張ってね」
これは絶対にだとだ。松本は彼等に告げた。
そしてそのうえでだ。彼等はだ。
一歩、また一歩と進んでいく。一合目はだ。
誰も楽なものだった。笑顔さえある。
それでだ。一回生達の中にはこんなことを言う者がいた。
「このままだと十合まで楽にいけるかな」
「だよね、十分の一いけたし」
「それならね」
「いけるかな」
こう言うのだった。しかしだ。
松本はというとだ。彼等に笑顔で言うのだった。
「いや、まだほんの十分の一だよ」
「まだ十分の一ですか」
「それだけだというんですね」
「そう、下を見ればわかるよ」
こう言ってだ。松本は自分から下を見た。下はだ。
まだ地上がよく見える。その地上を見ながら一回生達に話すのだった。
「頂上はもう下が点みたいに見えるから」
「点みたいですか」
「それ位に見えるんですか」
「そう、見えるから」
それだけ凄いというのだ。頂上まで行くとだ。
そしてだ。彼は後輩達にまた話した。
「わかったね。先は長いよ」
「ううん、一合目はまだ序の口ですか」
「そんなものなんですね」
「僕の故郷は盛岡だけれど」
松本は彼の生まれ故郷から話した。そこからの話だった。
「わんこそばもね。十杯は楽なんだよ」
「十杯はですか」
「楽なんですか」
「そう、けれど次第に辛くなって」
そしてだというのだ。
「百杯になるとね」
「あっ、俺それわかります」
一回生の中でとりわけ大柄な男が言って来た。見れば松本よりもまだ大きい。プロレスラーとしても通用する様な、それだけの身体を誇っていた。
その彼がだ。松本に対して言うのだった。
「八十、九十になるともう」
「そう、辛いよね」
「それと同じですか」
「そう、百杯までいくのが辛いんだよ」
それこそだ。かなりだというのだ。
「だからね。まだまだこれからだよ」
「ううん、十杯じゃ序の口ですか」
「それはわかりました」
「じゃあ皆頂上まで行くよ」
松本はこの目標を再び提示した。
「わかったね」
「はい、わかりました」
「じゃあ今から」
こうしてだった。彼等はだ。
山をさらに登っていく。二合、三合と進んでいく。するとだ。
多くノ者から笑顔が消えてだ。その顔にだ。
汗が出て来ていた。そしてだ。
前に進みながらだ。こう漏らすのだった。
「結構辛いですね」
「何か普通の山より辛いですけれど」
「これが富士山なんですか」
「富士山は高い分ね」
どうかというのだ。ここでまた言う松本だった。
「空気が薄いからね」
「あっ、空気ですか」
「それがあったんですね」
「空気の問題が」
「だから余計に辛いんだよ」
それ故にだというのだ。
「だからね」
「色々と慎重にですか」
「呼吸やペース配分も考えて」
「そうして登っていくんですね」
「それへの練習でもあるんですね」
「その通りだよ。それにね」
さらにだとだ。松本は話す。
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