三十五歳独身が
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第三章
「こうなったら」
「それもいいんじゃない?」
「まず出会いからだから」
「出会いがあってからの結婚よ」
「お見合いにしてもね」
「実家にも言うわ」
実家の両親にもだ。
「お見合いしたいって」
「これまでお見合いは?」
「断り続けてたのよ」
友人の一人の問いに後悔している顔で答えた。
「実はね」
「仕事が忙しいから」
「だからなのよ」
それで、というのだ。
「ずっと断っていたけれど」
「それをなのね」
「こっちからお願いするわ」
是非にという言葉だった。
「それで相談所にも登録して」
「相手を探す」
「出会いからね」
「そこからはじめるわ。何か会社だと縁がないみたいだから」
本来出会いがあるべきこそでは、というのだ。
「だからね」
「頑張ってね」
「結婚も努力よ」
「結婚してからもだけれどね」
「だから頑張ってね」
友人達は決意した祐加奈にエールを送った、祐加奈は三十五歳になって遂に結婚を真剣に考える様になった。それで実家にお見合いの話をして相談所もまずはどの相談所がいいのかを探しだした。そうしている中で。
ふとだ。祐加奈にだ。上司の桐山慎吾営業部長が言って来た。
「君に頼みがあるが」
「頼みとは」
「仕事のことでだが」
部長は皺が目立ってきたが引き締まったダンディな趣の顔で祐加奈に言うのだった。
「八条百貨店に行ってくれるか」
「百貨店にですか」
「うん、これからね」
「わかりました、ただ」
「ただ、どうしたんだね」
「百貨店の本店ですね」
祐加奈は上司に確認を取った。
「そちらですね」
「神戸のね」
「ではすぐですね」
祐加奈は自分が勤めている八条運送本社の場所から言った。八女運送も八条百貨店とな軸八条グループの企業で本社は神戸にあるのだ。
「もう歩いて」
「歩いて行って欲しい」
「経費節約も兼ねて」
「これからね」
「はい、では」
こう上司と話してだ、祐加奈はその八女百貨店まで歩いて言った。そうしてその八条百貨店の本社まで来ると。
十四階だった、その百貨店は。相当な高さだ。
そのビルに入ってだ、桐山に言われたことを受けつけの若い女性社員に話した。そして。
応接室に案内されてそこで仕事の話をすることになった、お茶とお茶菓子を出されて座って待っていると。
部屋に二人の男性が入って来た、一人は髪の毛が薄くなってきた若い初老の男で。
もう一人は黒髪をオールバックにした細面で長身の男だった、眉は太く目はしっかりとしていて大きく唇はしっかりしている。
一八〇を超えている長身ですらりとしていてスーツも似合っている、二人は祐加奈にそれぞれ互の挨拶から話した。
「奈良省吾です」
「村瀬祐です」
「宮村祐加奈です」
祐加奈も名乗った、席を立って。
そのうえで座りなおしてだ、あらためて話をした。
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