権力者
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第三章
「それもな」
「おかしいな」
「全くじゃ」
「考えれば考える程な」
「このこともおかしい」
「そして徳昭様の弟君も」
「あの方もまさか」
彼のこともというのだ。
「毒ではないのか」
「何故飼い猫が急に死んだのか」
「そしてあの方も」
「趙廷美様もじゃ」
趙炅の他ならぬ実弟である彼もというのだ。
「怪しかったな」
「冷遇されてな」
「そして挙句は」
「では」
趙炅を見つつの言葉だった。
「あの方はご自身の兄君、甥お二人、弟君を」
「そうではないのか」
「そしてご自身が皇帝になられた」
「そうした方なのか」
「では隋の煬帝と同じか」
己の父と兄を殺し皇帝になっただ。
「あの暴君と」
「恐ろしい方なのか」
「確かに何処か冷たい方じゃな」
「太祖様と違ってな」
気さくで人を惹きつけるものがあった彼とは、というのだ。
「人を、一族を殺しても何も思わぬ」
「そのうえで玉座に座られた」
「そうした方か」
「政は素晴らしいが」
「そのお人柄は」
恐ろしい者だとだ、世の者達は話した。
しかしだ、趙炅は善政に務めた。そして国は繁栄し唐の最盛期と比べても劣らないどころかさらに素晴らしいものとなった。
国は見事なものになった、だがだった。
悪評は絶えなかった、表では喋らさずとも。
それは彼が死ぬ時まで消えなかった、それでだった。
趙炅は臨終の時にだ、周りの者達に言った。
「面白いものではなかった」
「と、いいますと」
「それは一体」
「皇帝になり面白いものはなかった」
それこそ全く、というのだ。
「誰もが朕のことを言っていた」
「ですか」
「だからこそ」
「面白くも何もなかった、皇帝になってもな」
それこそというのだ、そしてだった。
その中でだ、あえてだった。
宦官の一人がだ、彼に問うた。
「しかし聖上の政は」
「当然のことをしたまでのこと」
これが彼の返事だった。
「何ということはない」
「左様ですか」
「そして朕は死ぬがそれでもだ」
彼がだ、死んでもというのだ。
「世の者達は朕のことを言い続けるだろう」
「ですか」
「それでは」
「うむ、朕は死ぬがだ」
それでもとだというのだ。
「世の者は朕を言うことを止めぬ、皇帝になって朕はそうなったのだ」
「・・・・・・・・・」
周りの者達はもう何も言えなかった、そしてだった。
趙炅は憮然とした顔で死んだ、だが。
世の者は彼が言った通りに言い続けた、彼のことを。その疑惑を。
「善政を敷いたが」
「兄弟、そして甥二人は」
「殺されたのではないのか」
「やはり」
この話は彼が死んでから千年以上経っても言われ続けている、真実はわからないし趙炅も真実を誰にも言わなかったが。だが彼は皇帝になり面白いものは何も感じなかった。名声と同じだけの疑惑、彼によってはそれ以上のものを感じていたからこそ。
権力者 完
2015・8・15
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