権力者
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第一章
権力者
宋の皇帝趙炅についてはだ、誰もがその政の素晴らしさは認めていた。
唐が滅んでから乱れていた天下を一つにし善政を行ってだった。国をよくまとめていた。法と慈を均衡にまとめた政であった。
だがそれでもだ、彼の評判は今一つだった。
「やはりな」
「兄君を殺したのではないか」
「即位された時に」
「そうではないのか」
まず言われているのはこのことだった。
「幾ら何でもだ」
「先帝、太祖が崩御された時にだ」
「あの時先帝とお二人だけで飲まれ」
「そして先帝が急に崩御された」
「部屋で何があったのだ」
「まさか」
皇帝である兄、趙匡胤を殺して自分が皇帝になったのではというのだ。
「真実は明らかではないが」
「兄上を殺されたのではないのか」
「太祖の二人のご子息も」
この二人もというのだ。
「不可解な死だ」
「うむ、お二人もそうだったな」
「ご長男は宮廷で自害され」
その前に皇帝に責められている、それで塞ぎ込み自らではないかと言われているのだ。
「ご次男もだ」
「毒ではないのか」
「飼い猫が水を飲んで急にだったという」
「それに弟様もだ」
彼もというのだ。
「その死は怪しい」
「やはりな」
「弟君もだ」
「あの方は」
とかくだ、彼については不穏な話が絶えなかった。兄と二人の甥、そして弟まで手にかけているのではないかというのだ。
しかし確証はなく誰もが囁くだけだった、そして趙炅はというと。
そのことを不愉快に思うがだ、それでもだった。
宰相である趙普にだ、こう言ったのだった。
「世の者達が朕について言っているのは知っている」
「そうですか」
「不快だ、だが」
それでもだというのだ。
「朕は何だ」
「皇帝です」
趙普は何でもないといった声で答えた。
「この国の」
「そうだな、朕は皇帝だ」
他ならぬこの座にあるというのだ。
「ならばすべきことをするだけだ」
「政を」
「出来る限りつまらぬことは言わせぬ」
その自分自身のことをというのだ。
「しかしだ」
「聖上、人の口に鍵はかけられませぬ」
この言葉をだ、趙普は言った。
「表で喋らせずとも」
「裏ではだな」
「それを罰してはきりがありませぬ」
「そうだ、だから言わせぬにしてもだ」
それでもだというのだ。
「裏で言う分には言わせてやる」
「それよりもですな」
「政だ」
それにあたるというのだ。
「それを第一にしていく」
「それこそがです」
「皇帝だな」
「若しそうでなければ」
趙普も言う、趙炅に対して。
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