| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

花祭り

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第四章

「この国、いえこの辺りの」
「そう、ここはインカだったからね」
「その音楽が残ってるの」
「国はなくなったけれどね」
 それでもだというのだ。
「音楽は幾分かでも残ってるみたい」
「インカ帝国の」
「私はそう思うけれどね」
「それでこうした音楽なのね」
「どう、感じる?」
 微笑んでだ、ルチアーナはファナに尋ねた。
「そうしたのを」
「インカ帝国を」
「そう、どうなの?」
「そう言われても」 
 首を傾げさせてだ、ファナはルチアーナのその問いに答えた。
「私はね」
「ああ、アルゼンチン人っていうのね」
「そうよ、それはルチアーナもでしょ」
「まあね」
 その通りだとだ、ルチアーナも答えた。
「私もアルゼンチン人だから」
「インカ帝国って言われても」
「アルゼンチンはね」
 インカ帝国の領土ではなかった、それでというのだ。
「同じ中南米でもね」
「また違うでしょ」
「ええ、だからね」
 それでというのだ。
「インカ帝国っていっても」
「ぴんとくるものがない」
「言葉は通じても」
 同じスペイン語だ、だからやりとりは普通に出来るのだ。
 しかしだ、それでもなのだ。
「やっぱり違う国でね」
「違う文化の中にいるわね」
「そのことをね」
「実感するわね」
 この村でもというのだ、そしてだ。
 その祭りの中にいてだ、二人は同じスペイン語を喋る中でも違うものを感じていた。それでその中でだった。
 その音楽も料理も楽しんでだ、ファナはワインも飲んで言った。
「こういうのがインカかしら」
「インカ帝国ね」
「その末裔っていうか」
「名残?」
「そういうのがこの村には残ってる」
「そうなのかしら」
「そうなんですよ」
 二人にだ、ガイドが言って来た。
「ここはそうしたお祭りをする村なんです」
「そうなんですか」
「だからツアーの中に入って」
「それで、ですね」
「私達にも」
「楽しんでもらいたいです」
 この祭りをというのだ。
「是非、音楽にしてもお料理にしても」
「どれもですね」
「楽しんで欲しいんですね」
「そうです、それに」
「それに?」
「それにっていいますと」
「見えるかも知れないですよ」
 ガイドも料理と酒を楽しみつつ話した。
「このお祭りの最後に」
「このお祭りの最後にですか」
「その時にですか」
「私達はですか」
「何か見られるんですか」
「はい、私はこのお祭りに何度か参加していますが」
 仕事でだ、それで来ているというのだ。
「今回はかなりいい感じなので」
「だからですか」
「私達は何かをですか」
「見られるんですか」
「その何かを」
「いや、私もまだ一回しか見ていないですけれどね」
 村のワインをごくごくと飲みながらの言葉だ。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧