普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【ソードアート・オンライン】編
112 とりあえず一件落着
SIDE 《Kirito》
「ちょっと待って。私、ティーチ君に聞きたい事があるの」
〝一連の事件〟が円満──とは言い切れないが、解決したのを確認した後、ティーチは収まりが悪かったのか、1人でそそくさと帰えろうとする──のを先程ティーチに宥められてから、ずっと仏頂面のアスナが留める。
(ナイスだ、アスナ)
……アスナに便乗するわけではないが、俺もティーチに聞きたい事が有ったので、アスナの言葉は俺にとっては渡りに舟だった。
―貴方を信じていたからに決まっているだろう、そんなの。グリセルダさんは〝有言実行〟──ならぬ、〝不言実行〟を体現していたんだよ。……グリセルダさんは貴方に〝前線へ出てほしい〟と、一度でも言ったか? ……貴方が〝それ〟に気付いてくれると信じていたんだよ…っ!―
それは間違いなくティーチの〝怒り〟だった。ティーチの──真人兄ぃの恫喝なんて初めてみた。……グリムロックの言葉はティーチにとって、それほどまでに赦せないものだったか。
「……ん? 聞きたいこと?」
「……〝なんで今回の件に関わろうとしたの?〟とか、〝なんでグリムロックさんにあんな風に怒ったの?〟とか色々聞きたい事はあるけど、一番聞きたいのは、〝なんでお姉ちゃんを遠ざけようとするの?〟って事かな」
「……っ!!」
ティーチの表情が固まる。
アスナは、ティーチ──そして真人兄ぃの〝鈍感なフリ〟に気付いてしまったらしい。……だが、それもそうだろう。真人兄ぃはモテる。同級生の女子の告白を、俺が真人兄ぃへの橋渡し役になったのも一度や二度じゃきかないくらいにはモテる。
そして、真人兄ぃは告白されてもその相手の女子を傷付けない様に断れるくらいの弁舌をもっているし、〝人の気持ち〟を考える事も出来る。……今更ティーチが〝恋愛なんて解りかねる〟と言われても、俺は信じないし──アスナもまた納得しないだろう。
……しかし、今アスナが言ったように──〝遠ざける〟なんて事は無かった。……ティーチは明らかにユーノからの好意──若しくはそれに準ずる感情に気付きつつ、ティーチは頑なにユーノ──とだけでは無く、女性と〝懇ろな関係〟になろうとしない。
そんな折に、今回の──グリムロックへのあの恫喝である。……それでアスナの中で燻っていたティーチに対する疑問や疑惑が確信へと変わって、それが表面化したようだ。
「……ちなみに言っておくけど、〝ユーノの気持ち? 何それ?〟とかは言わないで。……ティーチ君がグリムロックさんに言った事から判るの。……ティーチ君は女性──だけじゃなくて、女の子の気持ちをちゃんと理解出来るんだって」
「……はぁ~~~…」
ティーチの深い深い溜め息。籠められているのは諦念か──はたまた別の何かか。
「……バレたか…」
どうやらティーチは〝誤魔化し〟より、〝観念〟を選んだらしく──その様は年貢の納め時が来た昔話に出てくる農民を見ているようにも思える。……または、アスナの纏っている雰囲気がティーチの〝逃げ〟を許さなかったのかもしれない。
……そこら辺からアスナの〝本気度〟が窺える。
(胃が痛い…。帰りたい…)
アスナの雰囲気に当てられ、何故か俺が胃を抱えたくなった。
今のアスナは、その昔ユーノにちょっとした劣等感を抱いて頃とは全くの別モノである。……しかしそれを裏返せば、姉妹仲が良好であると云う事でもあるので悪い事ではないが…。
閑話休題。
……〝劣等感〟で思い出した事だが、アスナは“料理”のスキルを完全習得したりしている。……寧ろ──同じく“料理”を採っているティーチとアスナの料理以外が食べられないまであって、アスナに胃袋が掌握されてしまっていた。
また閑話休題。
「……で、聞きたいのは〝俺がユーノを突き放している理由〟で間違いないな?」
ティーチはアスナが頷いたのを確認したのか、1つだけ息を吐くと自分の心中を吐露するかの様に語り始めた。……その顔は、〝升田 真人〟の時には──もとい、〝ティーチ〟になっている時にも見たことがない顔振りだった。
SIDE END
SIDE 《Asuna》
「……で、聞きたいのは〝俺がユーノを突き放している理由〟で間違いないな?」
私はそのティーチ君からの確認に頷くと、ティーチ君は、在りし日の事を思い出しているかのような──私と1つ2つしか年齢が変わらない少年がまずはしないであろう表情で語り始める。
……そのティーチ君の表情を見た時、なぜか田舎のお祖母ちゃんを思い出して、そしてお祖母ちゃんに会いたくなってしまう──そんな風に思わされる
表情をしていた。……要は、悪く言ってしまえば〝老けた〟──良く言えば〝老成している〟顔だった。
「〝俺がユーノを突き放している理由〟──それを語るには、まずは俺がグリムロックの心中が解った理由と、グリムロックに説教染みたマネをした理由から語らなければならない」
「グリムロックさんに説教した理由…?」
「グリムロックの気持ちは、俺には手に取る様に解った。……何しろグリムロックと俺は〝ある意味一緒〟だったからな…。……〝愛する女性〟に置いていかれる気持ちを知っている──〝愛する女性〟と一緒に人生を歩めなくなるのは恐怖であると云う事を知っている、〝同類〟とも云えなくもなかったからな…」
「……っ…」
私の鸚鵡返しにティーチ君は1つ頷き──更に続けたティーチ君の顔は見ていられないものだった。……私がティーチ君にそんな表情をさせてしまったのだ。……そこで私は姉の想い人にとんでもない事をしでかしてしまった事を漸く理解する。
……ティーチ君にどんな言葉を掛けて良いか判らなかった。
「……どうせ別れがくるなら誰も愛したくない──だからユーノを遠ざけていたんだよ。……もう〝あんな想い〟をするのは懲り懲りだからな」
「………」
「………」
ティーチ君の語り振りに私とキリト君は2人揃って閉口してしまう。……どうやらよりティーチ君に近い筈のキリトも、今のティーチに掛けるべきであろう言葉を見失っているみたいだ。
……〝人には言いたくない事がいくつかはある〟──そんな当たり前の事すら判らなかった。……いくらティーチ君がお姉ちゃんを遠ざけている理由が〝そこ〟に起因するのを知らなかったとは云え──私の浅薄な問い詰めが、ティーチ君の心傷を抉ってしまった事には変わりない。
「……あっ、そういう事か」
いざ探り探りにティーチ君に謝罪しようとしたが、ティーチ君はいきなり声を上げて、自己解決をした様な顔つきになった。
「……改めて考えると、グリムロックへの言葉は〝グリムロックの瞳に映っていた俺自身への糾弾〟だったのかもしれないな」
腕を組みながらティーチ君は〝うんうん〟と何度も頷く。……その表情は、先ほどまでの張り詰めた〝それ〟ではなく、いっそ清々しいもので──私とキリト君はどこか彼方に置いてきぼりになっていた。
「……すっきりしたぁ。他人ならまだしも、自分を〝切開〟するなんてマゾい行為だと思っていたが、意外とやってみるもんだな。……ありがとう、アスナ。ユーノとは俺も、もう少し真剣に向き合ってみるよ」
「え、ああ、そう? なら良かったけど…」
「そういえば、キリトは俺に聞きたい事があったんじゃないのか?」
「……いや、俺はティーチがグリムロックに言った事が聞きたかった
だけだから、大丈夫だよ」
ティーチ君はキリト君に──実は私も気になっていた事を訊ねるが、キリト君はキリト君で、ティーチ君に訊きたかった事は聞けたらしい。
「それじゃあ、俺は行くよ。じゃあな」
ティーチ君は私達に背を向けると、軽快に走り去って行った。
SIDE END
SIDE 《Kirito》
「………」
「………」
軽快なステップで去って行ったティーチだったが、取り残された俺とアスナの間には言い様の無い雰囲気が漂っていた。
そしてアスナが、いつぞやの様に語りだす。
「キリト君はさ、好きな人の、今まで知らなかった一面が出てきたらどう思う? ……例えば今のティーチ君みたいに…。キリト君もあんなティーチ君初めて見たんだよね?」
「……確かにあんなティーチは初めてだったかな。……まぁ、それは兎も角として〝いつもと違う一面〟か…。……うーん…。〝その時〟になってみないと判らないけど、勝手な失望はしないと思いたい」
「〝今の〟キリトの考えが聞きたいんだけど」
些か日和見な考え方かもしれないが、人の関係は流動するので、〝今は〟それについて名言したくない。……しかしアスナは納得してないようで、〝今の俺の考え〟を聞きたいらしい。
「今、俺が〝好きな人の全く違う一面を見せられたら〟か…。……〝素の一面を見せてくれるくらいには俺に気を許している〟──と思うかな」
「へぇ…そっか…。……あ、そういえばキリト君って好きな人居るの?」
「……い、居る、けど…」
「誰誰? 私の知ってる人? お姉ちゃん──は無しか…。リズ? シリカちゃん? ……それともサチさん…?」
いきなりの話題転換と問い掛けに吃りながら答えると、アスナのテンションが急上昇──または急降下させながら問い詰めてきた。……げに恐ろしきは〝女子+恋バナ〟の加足式か。
……サチの──〝あの一件〟以来、たまに交流する様になった少女だけはトーンが低くなる。……確かにサチは〝守ってあげたくなる系〟の少女で、心を傾けかけた事が無かったと云ったら嘘になるが…
「言わなきゃ駄目か…?」
「うん」
(……出たとこ勝負だな、これは…)
即答だった。どうやら〝俺を逃がす〟と云う選択肢はアスナの中には無かったらしい。……そこで俺は、〝分の判らない賭け〟が嫌いではないので1つ腹を括る事にした。
「……アスナだよ」
「あっ、もしかしてリーファ──ふぇっ…?」
俺の告白が意外だったのか、可愛らしい声を漏らしながらアスナは瞠目する。……どうにもアスナは自分が好かれているとは思っていなかったらしい。
SIDE END
SIDE 《Asuna》
「……アスナだよ」
「もしかしてリーファ──ふぇっ…?」
唐突なキリト君からの告白。……慮外のことだったので間の抜けた声を漏らしてしまった。
今、私はどんな表情をしているのかは知りたくない──否、見なくても判ってしまう。……きっと今の私は、途轍もなくだらしの無い顔になっているのが判ってしまう。……だって、顔の表情筋に力を入れても、表情筋が全く仕事をしないから。
「……そ、それじゃあキリト君って私の事を…?」
「好きだけど…?」
「……私だよ? ……というより〝そういうの〟って、あっさり言って良いの?」
キリト君はあまりにあっけらかんに言うので、寧ろそこが気になってしまった。
「……あんまりクサいセリフは言いたくないんだが敢えて言おう。〝アスナだからこそだよ〟──と。……と云うより、寧ろアスナには俺の好意なんてバレバレだと思ってたんだが…。……アスナの誘いには絶対に断らなかっただろう?」
〝そういえば〟──と私が挟む前に、キリト君は矢継ぎ早に続ける。
「……それに、もしアスナに告白してフラれても〝俺はその程度の男だった〟ってなるだけだしな」
「……私もキリト君が好きだよ」
〝いつから〟と訊かれれば、〝気になり始めたのは多分3層から〟と答えるだろう、私の気持ち。キリト君のあっけらかんとした態度に当てられたのか、すんなりと私の口からも素直な気持ちが出てきてくれた。
「……罰ゲーム宣言やドッキリ宣言はまだ間に合うぞ?」
キリト君は私の告白が意外だったのか、数回瞬きをして私の告白の真意を問い質してくる。その問いに首肯で返す。
「……俺だぞ?」
「もぉ、キリト君だからだよ。……“料理”のスキルを完全習得したのに、なんでキリト君に味見役を頼んでいたのか判らないかなぁ?」
「あ…。……ははは…、なんだそういえばそうだな。……なんか凄くアホみたいじゃないか、俺」
「ふふっ、だったら私もそうかもね」
乾いたキリト君の笑い声が【十字の丘】に響き、私も釣られて笑ってしまう。
……するとキリト君はいきなり佇まいを正して…
「あー、変な雰囲気になったが、これだけは言わせてもらいたい。……俺はアスナが好きだ。俺の〝HP(いのち)〟を君の為に使わせてくれないか?」
「……私もキリト君が好き。貴方の〝HP(いのち)〟は私が護る。だから私の〝HP(いのち)〟はキリト君が護って。……もちろん、〝現実世界〟でも」
「ああ! ……アスナ…」
「ん…キリト君…」
キリト君からのいきなりの抱擁。すると、〝倫理コード〟が作用したのか──キリト君を監獄エリアに送る旨のコマンドが出てくるが私はそれを見なかった事にして、キリト君の〝暖かさ〟を受け容れる。
……この世界ではその〝暖かみ〟をまやかしだと断じるかもしれないが、私にはそうは思えなかった。……そして、ティーチ君はこの世界の事を〝泥の底を這いずり回らなければならない世界〟と評したが、私はそう悪いことばかりでもないと思いたい。
だって、私を抱き締めてくれているキリト君は暖かくて──今の私はこんなにも幸せなのだから。
(お姉ちゃん、私、漸く〝大事なもの〟が出来たよ)
1年越しの想いが叶い、この上無い多幸感に身を委ねるのだった。
SIDE END
後書き
フライングでキリアスです。和人君がコミュ障を拗らせすぎなかったのと、アスナが同ギルドに居るので前倒しされました。
……あとは〝どこぞのおせっかい共〟がキリアスへとブーストを掛けたり掛けなかったり…
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