ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
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SAO
~絶望と悲哀の小夜曲~
圏内事件
「ん、あれ?」
アルゲードの商店街には無数のプレイヤーショップが開店していて軒を連ねている。
その理由は、店舗物件の代金が下層の街と比べても驚くほど安く設定されていたからだ。
当然、それに比例して店は狭く外見も汚いが、このアジア的な雰囲気が好きだというプレイヤーも多い。
エキゾチックなBGMと呼び込みの掛け声に、屋台から流れるジャンキーな食い物の匂いがミックスされた空気の中を歩いて数分。
その店はあった。
だが、いつもなら開いているはずの鎧戸が閉ざされている。
まぁ、ノックしたらいいのだし、とノックをすると二階から、太いバリトンで返事が聞こえてきた。
ほどなくして内側から開く鎧戸。
「すまねえ、今日はもう……」
現れた巨漢は謝りながら戸を開け、固まった。
「おぉ、レンじゃねぇか!」
「あはは、エギルおじさん。また買い取りはできそう……もないねそれじゃあねー」
嫌な予感しか感じられないので、回れ右をして去ろうとするレン。
その肩を後ろからガッシと掴む、逞しい手。
「ちょっと待て、レン。ちょうどよかった」
そのバリトンに含まれた真剣さを感じとり、やっとレンはこの店の店主に向き直った。
百八十センチはある体躯は筋肉と脂肪にがっちりと包まれ、さらに唯一カスタマイズできる髪型をスキンヘッドという実にインパクトのある髪型にしているものだから、通り過ぎる子供は泣くのではないか、という顔になっているエギルは、いつも笑っている印象の顔を引き締めていた。
「ちょうどよかったって?」
レンが思わず聞き返すと、エギルはいいから来い、と先程までいたと思われる二階へと上がっていく。
仕方なくカオス極まる店内を抜けて、その後をついていく。二階に上がり、エギルは閉ざされているドアに顎をしゃくる。
何だか刑事ドラマみたいになってきた。カツ丼はどこだ。
良くない予感をひしひしと感じつつ、ドアを開ける。
そう広くない部屋の中央に置かれたテーブルについていたのは──
「キリトにーちゃん……アスナねーちゃん……」
キリトはレンに気付き、軽く微笑を浮かべて、手を上げる。
アスナはきっと視線を鋭くし、そっぽを向いた。
仕方ないこととはいえ、ずきんと胸が疼く。
「何で二人がここに?」
冷静に考えれば、買い物に来たとか理由はいくらでもあったが、残念ながらキリトの口から語られたものは、ちょっと、いやかなりレンの思考容量をオーバーしていた。
「圏内でHPがゼロになったぁ!?デュエルじゃなくて?」
キリトの口から語られたものは、かなりのものだった。
曰く、今日の夕方、キリトとアスナは一緒に食事をしていた。ここらへんの理由は長いので割愛しよう。
その食事中に悲鳴が聞こえたので、外に出てみると建物の二階の飾り窓から一本のロープが垂らされ、輪になったその先端に男がぶら下がっていたという。
NPCではない。その男は、分厚いフルプレート・アーマーに全身を包み、大型のヘルメットを被っていた。
ロープは鎧の首元にがっちりと食い込んでいたが、キリト達が恐怖したのはそこではない。この世界ではロープアイテムによる窒息で死ぬことはない。
恐怖の源は、男の胸を深々と貫く、一本の黒い短槍だ。貫通系武器は、通常の武器とは大きく違う特性がある。
それは《貫通継続ダメージ》だ。
しかも、男の傷口から出る赤いライトエフェクトの量から考えて、どうやら黒い短槍は継続ダメージに特化した武器のようだった。
直後、男は無数のグラスが砕け散るような音とともに、青い閃光が走った。
爆散するポリゴンの欠片を視界の端で捉えつつ、キリトとアスナは周囲に視線を走らせた。
存在すべきもの──必ず出現しなければならないものを探すために。
すなわち《デュエル勝利者宣言メッセージ》。
主街区の、つまりアンチクリミナルコード有効圏内で、プレイヤーがHPにダメージを受け、なおかつ死にまで至るからには、その理由は一つしかない。
完全決着モードのデュエルを承諾し、それに敗北すること。それ以外には有り得ない、はずだ。絶対に。
その時、必ずどちらかが死ぬのと同時に、勝利者の近くには『WINNER/名前 試合時間/何秒』という形式の巨大なシステムウインドウが出現する。
それを見れば、あの全身金属鎧男を殺した犯人が解る。
そう思ったキリトは、即座に周囲に目を走らせた。
だが──
「なかった?」
「ああ。どこを探しても、な」
キリトは重々しく頷いた。
「……その、建物の中に隠れてたってことは?」
レンのどちらかと言えば、確認のために放たれた疑問に、あくまでも他人行儀でアスナが答える。
「建物内はくまなく探しましたし、何らかの手段を使って透明になって外に出たとしても、入り口に隙間なく人に立ってもらったので、出ようとしたときに自動看破されます」
「なるほど」
若干の静寂。
レンはテーブルに置かれた黒く輝く短槍を指差した。
その短槍は、このカテゴリの武器には珍しく、全体が同一素材の黒い金属で出来ている。
長さは一メートル半くらいか、手元に三十センチのグリップがあり、柄が続き、先端に十五センチの鋭い穂先が光る。
特徴は、柄のほぼ全体にびっしりと短い逆棘が生えていることだ。
それによって、一度深く突き刺さると抜けづらくなる特殊効果を生み出しているのだ。
引き抜こうとするなら、かなり高い筋力値が要求されるだろう。
「これが、そのヒトを殺した武器?」
「ああ。それで今、エギルに鑑定して貰おうって話になったんだよ」
キリトが言った答えに、レンはふーん、と頷いた。
そのレンの反応を見ながら、アスナがエギルに頷きかける。
エギルも頷き返し、太い指で黒い短槍をタップした。
開かれたポップアップウインドウから、《鑑定》メニューを選択する。スキルを持たないプレイヤーがそれをしても失敗表示が出るだけだが、商人のエギルなら、ある程度の情報を引き出せるはずだ。
はたして巨漢は、彼にだけ見えるウインドウの中身を、太い声で短く言った。
「PCメイドだ」
キリトとアスナは同時にがばっと身を乗り出し、「本当か!」と思わず叫び、レンはへぇー、と気の抜けた返事。
PC作成品
つまり《鍛冶》スキルを習得したプレイヤーによって作成された武器ならば、必ずそのプレイヤーの《銘》が記録される。
そして、この槍はおそらく、特注仕様のワンオフのものだ。作ったプレイヤーに直接訊けば、発注・購入したのが誰だか覚えている可能性が高い。
「誰ですか、作成者は?」
アスナの切迫した声に、エギルはシステムウインドウを見下ろしながら答えた。
「《グリムロック》………綴りは《Grimlock》。聞いたことねぇな。少なくとも、一線級の刀匠じゃねえ。まあ、自分用の武器を鍛えるためだけに鍛冶スキル上げてる奴もいないわけじゃないが………」
職人クラスのエギルが知らない鍛冶屋を、キリトやアスナ、ましてやレンが知っているわけもなく、狭い部屋には再び沈黙が満ちた。
しかしすぐに、アスナが硬い声で言った。
「でも、探し出すことはできるはずよ。このクラスの武器を作成できるレベルに上がるまで、まったくのソロプレイを続けてるとは思えない。中層の街で聞き込めば、《グリムロック》とパーティーを組んだことのある人がきっと見つかるわ」
「確かにな。こいつらみたいなアホがそうそう居るとは思えん」
エギルが深く頷き、アスナと同時にそのアホ共を見た。
すなわちレンとキリトを。
「な……なんだよ。お、俺だってたまにはパーティーくらい組むぞ」
「ボス戦のときだけでしょ」
冷静に突っ込まれ、キリトがあえなく撃沈。
「ぼ、僕だって……」
「論外」
撃沈。
ふん、と鼻を鳴らし、アスナは改めてエギルの手中のショートスピアを見た。
「ま……正直、グリムロックさんを見つけても、あんまりお話したい感じじゃないけどね………」
それはレンも、恐らくキリトも同意見だろう。
確かに、その男を殺したのは、この槍をオーダーした未知のレッドプレイヤーであって、鍛冶屋グリムロックではないはずだ。
自分が造った、イコール作成者の《銘》が記録されている武器で誰かを殺すというのは、現実世界で凶器の包丁に名前を書いてから人を刺すのに等しい。そんなアホがどこにいる。
しかしその一方、ある程度の知識と経験がある職人プレイヤーなら、この武器が何のために設計されたものなのか推察できるはずだ。
《貫通継続ダメージ》は、基本的にモンスター相手には効果が薄い。
アルゴリズムによって動くMobは、恐怖を知らないからだ。貫通武器を突き刺されても、ブレイクポイントが発生し次第、むんずと掴んで引っこ抜いてしまう。
当然、その後親切に武器を返してくれるわけもなく、遠く離れた場所にポーイと捨てられたそれは戦闘が終わるまで回収できない。
ゆえに、この槍は対人使用を目的として作成されたものだということになる。大抵の鍛冶屋ならば全員、仕様を告げられた時点で依頼を断るはずだ。
なのにグリムロックは槍を鍛えた。
よもや殺人者本人ということはあるまいが──鑑定すれば容易く名前が割れてしまうので──しかし、倫理観のかなり薄い人物か、あるいは密かにレッドギルドに属しているということすら有り得る。
「……少なくとも、話を聞くのに、タダってわけにはいかないカンジだな。もし情報料を要求されたら………」
キリトがそう呟くと、エギルはぶんぶん首を横に振り、アスナはじろっとキリトに一瞥くれた。
「割り勘でいきましょ」
「解ったよ、乗り掛かった船だ」
「うん、それじゃ、僕はこれで……」
「「「ちょっと待てぇ!!」」」
男二人のユニゾンした声が、カッコつけて部屋を出ていこうとする少年の足を止める。
ついでにその肩をむんずと掴む、華奢な手。
「……どこに行こうとしてるのかな?」
恐らくこの世でこれ以上美しく、そして恐ろしい笑顔もないだろう。
「い、いや~、ちょっと用事を思い出し…」
「いろ」
「…………………ハイ」
後書き
なべさん「はい、始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!!」
レン「ねー、タイトルコールはいいんだけどさぁー」
なべさん「ん?なんだよ」
レン「すでにネタバレされてるミステリーってどーよ」
なべさん「………………すんません」
レン「圏内事件ってアニメでも放送されたよねぇ?」
なべさん「……………本当にすんません」
レン「誰も面白くないと思うんだけど」
なべさん「うぅ」
レン「訳を言え、訳を」
なべさん「話せば長く……」
レン「一行で!」
なべさん「ぶっちゃけ閑話休題?」
ドスッ☆(何をされたのかは読者様のご想像におまかせします)
レン「はい、自作キャラ、感想もじゃんじゃん送ってきてくださーい!」
アアァァァァ!(作者の悲鳴)
──To be continued──
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