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コイレク

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第五章

 日本に戻ったがだ、晴海は自宅に戻ってから夫に言った。
「凄くね」
「いいフィールドワークになったかな」
「本当にね、特にね」
 買ってきてだ、島は部屋の端に置いているものを見つつ夫に話した。
「あれがね」
「コイレクとかだね」
「凄い服あるわね」
「うん、僕は何とも思わなかったけれど」
「私は違うわ、それにね」
「日本人から見ればだね」
「あの服は衝撃的よ」
 そこまで至るというのだ。
「本当にね」
「じゃあいい学問になるね」
「そうなるわ」
「それじゃああの服から君も学ぶのかな」
「そうしたいわね、私の専門は日本の民俗学だけれど」
 それでもとだ、晴海はウィリアムに話した。テーブルに向かい合って座って大好物の紅茶を飲んでいる彼に。
「中央アジアの文化というかね」
「衣装、風俗にだね」
「興味が出て来たわ」
「よし、それならね」
 ウィリアムは妻の言葉を受けてだ、微笑んで応えた。
「僕も協力させてもらうわ」
「こんな服があるのなら」
 それならとだ、晴海は目をきらきらとさせて言った。
「日本にも紹介しないと」
「学問としてだね」
「ええ、是非共ね」
 心から言ってだ、そのうえで。
 晴海は日本にコイレクをはじめとして中央アジアの様々な服を民族衣装、文化として紹介していった。そしてその分野でも評価されてだ。
 准教授に昇進した、そして彼女を助けたことで自身も評価を受けて教授に昇進したウィリアムにこう言った。
「准教授になれたことも嬉しいけれど」
「それ以上にだね」
「ええ、中央アジアの服を日本に広く紹介出来て」
「そのことがだね」
「嬉しいわ」
 こう笑顔で言うのだった、だが。
 ここでだ、晴海はウィリアムに少し残念な顔になって言った。
「哲也はね」
「うん、僕達の子供はね」 
 先日生まれた二人の愛の結晶である。
「残念ながらね」
「男の子だから」
「コイレクとかは着れないわね」
「女の子の服だからね」
「そのことはね」
「残念だね」
「そうね、そのことはね」
 こう話したのだった、そのことだけはいささか残念に思いながら。


コイレク   完


                    2015・11・25 
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