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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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GGO編
  第207話 帰還

 
前書き
~一言~

 遅くなってすみません!! 何とか1話分の文字数が来たので、投稿をします!
 出来れば、クライマックス! まで行きたかったのですが……、ちょっと変な所で区切っちゃいました……。次、次の話で決着までいける? かと思います! ……………多分。

 が、がんばります!!


 最後に、この二次小説を読んでくださってありがとうございます。これからも、がんばります!


                                   じーくw 

 

 リュウキは、困惑を隠せられなかった。
 目の前に、シノンの身体がある。と言うより突然、抱きつかれたのだ。困惑を隠せられないのはリュウキは勿論、キリトもそうだった。特にリュウキに関しては、考え事をしていた時の自己紹介だったから、更に驚きがあったんだ。
 シノンは、少し……とは言っても、ものの数秒。5秒にも満たない程で、慌ててリュウキから離れた。

「ご、ごめんなさい……。少しふらついちゃって……」

 顔をやや 赤らめながら謝罪をするシノン。……ふらついた、と言うより 自分からリュウキに抱きついていった様に、キリトは見えたのだが、そんな事を指摘できる様な心臓は持ち合わせておらず、黙っていた。
 リュウキはと言うと。

「……確かに、状況が状況。神経戦だったからな。無理もない事だ。大丈夫か?」

 簡単に納得をしていた。その辺は 想像の通りだ。例え キリトの様に傍から見てみたとしても、多分気づかないだろう。……大分変わったかな? と思えても リュウキはやっぱりこうだから。

「……なんだよ? キリト」

 リュウキは、何だか妙な視線を感じて キリトの方を見ていた。
 何処か、小馬鹿にしている、或いは呆れている様な顔と視線を向けられている事に気づいた様だ。

「あ、いやー……。ははは」
「だから、なんだ? その生返事。それに、変な笑いすんな。なんか不快だ」

 2人の絡みを横から見ていたシノンは、軽く笑っていた。


――……胸に秘めた想いはまだ(・・)、打ち明けない。


 まだ、100%ではないから。
 もしも、そうだったとしたら、シノンは、……誌乃は、()に現実でまた、出会えた時に言うつもりだった。ちゃんと礼を、『おごる』と言う約束も果たさなければならないから。
 そして、この胸の内に熱く焦がす様な、感情は一先ず 置いておく事にした。


 それは、リュウキやキリトの話の中に、《想い人》がいると言う事を知ったから、と言う理由もあるだろう。でも、今はそれでもいい。……何もかもが、始まったばかりだから。
 だから、シノンは微笑みながら2人を見た。

「ふふ。リュウキも同じ感じ、だったね。竜崎。リュウキ、ね」
「……それに関してはキリトと同意見だな。シノンに言われたくない」

 シノンの言葉を訊いてため息を吐くリュウキ。考え事をしていた時の会話だが、リュウキは、ちゃっかりと訊いていた様だ。

 そのセリフを訊くと同時に、また場は仄かな笑いに包まれる。
 そして、笑っている間にも、頭上のカメラは チカチカ、と瞬きを繰り返している。催促をしている様にも見える。『早く戦えー!』と。

「やれやれ……」
「だな。ギャラリーは、かなり期待をしてるみたいだ。ん……、そう言えば シノンは今大会で オレとは正式に対戦してなかったよな。……うん。リュウキをシードにして、決着をつけるか? ほら、あの決闘スタイルみたいに。どうかな? 2人とも」

 ため息を吐いているリュウキを見て、キリトが提案をしていた。

 シノンは始めは 2人ともと戦いたいと言っていたのだ。リュウキとは 予選の時に戦っているし、バトルロイヤル形式で戦ってもいいけれど、狙撃手(スナイパー)であるシノンとフェアで、となれば 1対1の決闘スタイルが理想的だろう。
 また、弾かれるかもしれないが、同じ過ちは犯さない自信もシノンにはあった。……だが。

「………強さ、は決して結果じゃない。……そこを目指す過程の中に、こそ……」
「ん?」
「どうした? 何て言った??」
「ううん、なんでもない。……でもね。あなた達、自分の身体 見てみなさいよ」

 シノンに言われて、自分自身の身体を確かめた。

 キリトは、殆ど全身が赤い穴だらけ。そして、リュウキも例外ではなく、キリト同様だった。キリトは、切創であり、リュウキは銃創がある。その元は 刺剣(エストック)短機関銃(サブマシンガン)
 2つとも、2人のHPを削るのには十分すぎる程の威力を秘めているモノだ。だから、身体のダメージ・エフェクトにも判る様に、相応のダメージを被っている。
 方やシノンは 電磁スタン弾の一撃以外攻撃を受けていないから当然ながら、殆ど無傷である。

「ほら、全身ボロボロじゃないの。そんな人に勝っても全然自慢にならないわ。……次のBoB大会まで、勝負は預けておいてあげるわ。2人とも」

 シノンは、吹っ切れた様な笑顔でそう言っていた。

 ここで、リュウキが 『別に この状態(HP)でも、負けるつもりは毛頭ないが?』とか言えば、かなりの地雷だろう事は、直感的に判ったから、リュウキは 口から出かけた言葉を飲み込んだ。
 キリトも、リュウキが言いそうだった事を察し、そして 飲み込んだ事も察したから、軽くホッとしていたのだった。

「ん? どうしたの?」
「ああ……なんでもない」
「同じく」
「?」

 悟られそうになったが 杞憂だったと安心した2人。
 兎も角、シノンは次の大会にリベンジマッチを申し込む手筈となった。

「……ん。 だがシノン。それは、次回大会。第4回大会があるまで、元のゲームに戻るな、と言う事なのか?」
「あ……、それはちょっと困るかも……。直ぐに戻る、って言ってあるし」
「バカね。別に再々コンバートでも構わないわよ。でも、そんなんで次も勝てるとは思わないでよね」

 シノンは、不敵に笑っていた。

 確かに、同じスタイルで 更に同じステータスで再び同じ大会に来た所で 1度勝ったとして、もう1度勝てるか? と問われれば、そんな甘い世界ではない、と答えるだろう。
 これだけ、大々的に放送された大会であった事もそうだ。
 ベテラン勢が新参者に負けた、となれば 次戦では雪辱に燃えるだろう。十分な対策を練るとも思える。様々な要素が絡み合うからこそ、バトルロイヤルの連覇と言うのは難しいのだ。

「なら、どうするか……っと! シノンがそれで良いならいいけど、オレは まだ提案があるぞ!」
「ん? どう言う事だ?」

 キリトが何やら言い出したので、リュウキは首をかしげた。シノンも視線をキリトへと向ける。

「忘れた、とは言わせないぜ、リュウキ。オレは、BoBの予選決勝で お前に負けてるんだからな。ここで、リベンジしたいのはオレも同じ、って事だ」

 ビシッ! と指を差してそう言った。

 確かに、《リュウキvsキリト》は実現をしている。
 2人の いや シノンも含めた3人組の誕生の一役を担った一戦だ。あの時は僅差でリュウキが勝利し、キリトは惜敗したのだ。

「ふむ……。確かにそうだったな」
「大分判ってきたつもりだ。……これでも、今でもまだ、早いっていうか? リュウキ……」

 キリトは、ニヤリと笑ってそういった。
 キリトも、銃の世界の最高峰であるBoBと言う大会をくぐり抜けて来たのだ。そして、この場に立っているのだ。

「バカ。言う訳無いだろ。と言うか、1度、キリトと戦った時点で、次はもう無いと思ってるよ。……あの時の様な言葉は、もう言わない。いや、言えないさ」

 リュウキは、そう言うと銃とナイフをゆっくりと取り出した。

「はは……。なら ここで最終決戦、オレにとってはリベンジマッチ。って事で、どうだ?」
「ああ、……勿論OKだ。そうと決まれば、話も終わりだ。……戦るか?」
「おう!」

 キリトも光剣を取り出すと、構えた。


 両雄(どう見ても外見は違うが)が、いざ、最終決戦、と間合いを取ろうとしたその時だ。


「はいちょっとストップ」


 中々の緊迫感が生まれたその間に、躊躇わずに、そしてため息を吐きながら割り込んできたのはシノンだ。

「あんた達、忘れてる訳ないわよね? 今回の事件の事」
「ん? それは 勿論」
「覚えてるぞ。どうかしたのか?」

 普通にシノンにそう返す2人。それを訊いて更にため息を吐くのはシノンだ。

「……それで、あんた達は また 予選みたいに、1時間を軽く超える様な戦いを繰り広げるつもりかしら? タイマンでの戦いで前代未聞って言われてたアレを再現するの?」
「「あ……」」

 シノンがそう言うと同時に、漸く2人は理解した様だった。

 そう、予選の戦いは 2人が女のコと思われていた事、そして片方が銃ではなく剣を使っていた事で盛り上がったが、それ以上に有り得ない結果を残しているのだ。

 それは、勿論、シノンが先ほど言った対戦時間のこと。

 BoB大会の所要時間か? と思える程の者であり、1対1の戦いにおいて1時間を超える事など前代未聞だった。隠れていたりして、時間をかけた訳じゃないのに、正面から堂々と撃ち合い、或いは斬り合い、限りある筈のHPが下がるのが遅い。それに最終的には、キリトの『降参(リザイン)』での決着だった事もそうだろう。

「全く……。そんな 時間かけてたら 警察も何も無いじゃない。……頭良いのに、時折抜けてるとこ、あるのね。リュウキって」
「ぐむっ……」
「あ、あれ? オレは??」
「あんたは ただのバカ。女のコのフリするのが好きな」
「オレだけ扱いひどっっ!!」

 まさかのシノンの一言に多大なるダメージを受けてしまう2人だったが、それが本気なのか、ふざけているのか、それは当然判る。……顔を見たらよく判る。ずっと クールな表情だったシノンの顔はもう息を潜めているのだから。笑顔が似合う少女のそれに変わっているのだから。

「じゃ、じゃあ、どうするんだよ……。バトルロイヤルなんだから、最後の1人にならないと、勝者は決まらないだろ?」

 キリトはバツが悪そうにそう言う。リュウキはそれを訊くと軽く首を振った。

「勝者にはならない。引き分け、と言う意味では方法はあるだろ」
「あー、リュウキ。半分は間違ってるよ」
「ん? そうなのか?」
「? どう言う事なんだ? リュウキも、シノンも」

 キリトは、判らなかった様だ。決着(・・)の着け方が 戦って勝つ、しか浮かばない様子だ。

「リュウキは ちゃんと判ってるみたいよね。ほーら、この辺の差ってヤツじゃない?」

 くすくす、と口元に手を当てて、笑うシノン。
 当然ながら、キリトの表情がこわばっていく。

「こ、これ以上いじめないでくれよ……。オレ、あんま打たれ強くないんだから……」

 そう言って肩を竦めた。いじめて、いじめられて喜ぶ者は、この場にはいないだろう。斯く言うリュウキも同じくだ。打たれ強くはないから。
 ……だが、件の彼女(・・)はちょっぴり微妙だけど、やっぱりヤリ過ぎると可哀想だろう。

「仕様がないわね……。じゃあ、1つのケースを説明してあげる。……でもこれはレアケースだからね。北米サーバーの第1回BoBは、2人同時優勝だったんだって」

 シノンは、人差し指をたてながら、説明をする。
 そのさわり部分を訊いただけで、リュウキは理解した。シノンが言っていた『半分は間違ってる』と言う意味を。

「理由は優勝するはずだった人が油断して、《お土産グレネード》なんていうケチ臭い手に引っかかったの」
「……ま、最後に華々しく散るのも悪くない、か。これを観てる連中にがっかり。肩透かしを させてやりたい気分でもあるし」
「え? え? 何、オミヤゲグレネード?? いったい何の話をしてるんだ?? 2人とも」

 シノンは、まだ判ってないキリトを尻目に、腰のポーチから取り出した。

 それは、黒い球体だ。
 
 それをキリトは反射的に差し出していた右の掌に乗せた。丁度突起物の部分を人差し指でぽちっと押し込む。それと同時に電子音が静寂に包まれた周囲に響き渡った。

「へぁっ!?」

 一体何を持たされたのか理解したキリト。まるで、熱々に熱されたボールを持たされたのか? と思える様に 慌てながらお手玉を繰り返していた。どうやら、放り捨てようとしているのだが、中々上手くいかない様だ。

「……ほら。観念しろって」

 未練がましく、放ろうとする黒い球体、プラズマ・グレネードを掴むと、頭から抑えてキリトの手に自分の右手を乗せた。

「ひ、ひぇぇぇっ!!??」
「ふふふ。どーんっ!」

 キリトは、まだおびえている様子であり、覚悟が決まってない様子。随分と対照的に今日一番の笑顔を見せながら、キリトとリュウキの間に飛び込んだ。左右の腕を取ると、ぎゅっと抱き寄せた。

 ぴぴぴ、と電子音が聞こえなくなるその瞬間に、この場は白い閃光に包まれる。

「ひっ………」
「ふふん………」
「ん……」

 目も眩む程の強烈な閃光は、キリトの、シノンの、そして リュウキの表情の全てをスクリーンに溶かした。


――試合時間:2時間41分22秒 第3回バレット・オブ・バレッツ本大会バトルロイヤル終了――

――リザルト 《Sinon》《kirito》《RYUKI》



―― 史上初 3人同時優勝 ――

 
 






























 BoB本大会の戦場となった孤島《ISLラグナロク》から転送され、一度待機空間に戻されるのは、全プレイヤー共通だ。……戻されないのは、この世界からも、現実世界からも退場してしまったプレイヤー達だけだ。

「………」

 待機空間に戻されたリュウキは、その空間に表示された今回の戦績一覧を確認していた。
 当然だが、45人の殆どのプレイヤーの表示は【DEAD】となっており、そして、その次に多いのが【ALIVE】ではなく、【DISCONNECTION】だった。
 プレイ中に、回線が切断された事を意味する単語。……《逃げ落ち》を防止する為に 配慮しているBoB大会だ。本戦に出場している者達も猛者ばかりであり、そんな卑怯な真似をする者などは1人もいないだろう。

 ……故に、このタグ表示されているプレイヤーがどうなったのかは、最早疑うまでもなかった。

「《ジーン》《ペイルライダー》《ギャレット》《Brian》……4人、か」

 戦いの最中、命を散らした顔も知ならないプレイヤー達。
 やはり、慣れる物ではない。この感じは あの第1層で見た感じと似ているのだから。

 あの黒鉄宮に刻まれたプレイヤー達の名に二重斜線が刻まれているのを見たあの時と。
 
 ……死と言うものは。それが自分達の闇。記憶の闇の部分が現れたのなら、尚更だった。

「………」

 でも、リュウキは何処か安堵も覚えていた。この中に、彼女の名が、シノンの名が無かった事にだった。彼女の名に表示されているのは【ALIVE】だから。
 
 まだ、安心しきるのは 早すぎる事も理解している。だからこそ、安堵を覚えつつも表情だけは強ばっている。

「死銃。もう1人の死銃が、アイツ(・・・)なのは 間違いない、か」
 
 脳裏に描くのは 現実世界での死銃の事。
 シノンを狙う者。……誌乃を狙う者。アバターでしか その顔を知らない。そして、もう絶対に狙わない、と言う保証などは何処にもないのだ。誌乃を狙う理由も、まだはっきりとは判らないのだから。

――……死銃の名を轟かせる為に、GGO世界で 名の通った彼女を狙った。

 その程度しか、思いつかないのだ。

「……限りなく早く、早くいかないと」

 得体の知れない何かが、身体の中で蠢く。

――……まだ、終わっていない。何か胸騒ぎがする。

 焦る気持ち。その影響で、待機空間から、現実世界へと還るまでの時間が果てしなく長く感じるのも仕方が無い事だった。
 








 待機空間で、胸騒ぎがしているのはもう1人の優勝者、キリトも同じだった。

「4人も……」

 この世界だけじゃなく、現実世界からも目を覚まさなくなってしまった人達。嫌でも、あの世界での事を思い返してしまうのだ。
 目の前で、いつ訊いても不快感しか抱く事の出来ない砕ける音、そして青い硝子片。忘れられない記憶の1つだ。

「現実世界と仮想世界。2つの世界を利用した殺人。……間違いないだろうな。だけど、4人もの人間を……となると、一体何人の共犯者がいるんだ……?」

 ラフコフの生き残りのメンバーのことを考えれば、確かに十分過ぎる程の人数はいるだろう。そして、その狂気とも言える精神がそのまま、現実世界へと戻ってきているとすれば、躊躇ったりはしないだろう。……悦んで、今回の計画に加担するとも思える。

「……確か、リュウキの策は」

 キリトは、以前リュウキと話をしていたことを思い出していた。


――そう、以前リュウキは GGOの情報を主に扱っている掲示板《死銃情報まとめサイト》にて、篩にをかけた。

 情報サイトをハッキングし、自由自在に操った。様々なIDから発言投稿をしている、と思わせておき、全て1人で行った。文字化けを使い、意図してメッセージを送ったのだ。ある程度、間隔を開けて 何度か。

――それは、死銃に向けてのメッセージ。いや 挑発だ。

 そして、その後はGGOの世界に入り、目星をつけていた候補に声をかけ続けたのだ。……もし、死銃を名乗るプレイヤーがあのメッセージを見たのであれば、様々な反応を見せるだろう。

『はは、あのサイト見たのか?』
『それ、結構痛いと思うよな?』

 何人かから帰ってきた返事がそれだった。
 リュウキの話を遠巻きにだが訊いて、笑う者が殆どだ。リュウキの容姿から考えたら、呆れたり 嘲笑したり、とは無かった。噂話が好きなのか? と思われた程度だった。

 リュウキの話では、明らかに強く反応した者がいた様なのだ。……明らかに怒りの表情をさせていたのも判った。殺気、とも呼べる雰囲気も同時に感じ取れたとのことだった。
 その人物は、BoB参加者じゃない。……()での実行犯の可能性が高かった。

「……何にせよ、オレも急がないと。安岐さんにも事情を話して、すぐに出してもらう様にしないと」

 逸る気持ち。焦る気持ちがキリトの身体を駆け巡る。杞憂であって欲しい。

 シノン、誌乃の家で合流した。……やや遅刻をしてしまったキリトは、シノンに色々と憎まれ口を叩かれ、リュウキにもため息をつかれ、それでも微笑が絶えない打ち上げが行われた。

 これから向かう先にあるのは、そんな展開であって欲しい。

 キリトはそう願いつつ、いつもよりも長く感じる時の流れ。大きく表示されたカウントダウンの数字を見続けるのだった。














 そして、勿論 彼女も不安は隠せられないのは事実だった。
 仮想世界では、強くなれていた《シノン》だった。……だけど、今から向かう先 いや 戻る先は《シノン》ではなく 《朝田誌乃》。

 このBoB大会で、彼らから本当の強さの意味を教えてもらったんだけれど、どうしても 不安は尽きない。だからこそ、懸命に思考をクールダウンしようとしていた。

 現実世界の誌乃の周辺には、まだ死銃の共犯者が残っている可能性がある。……あの時、キリトとリュウキの戦いを見ていれば、或いは時間がかかり過ぎて、流石にいなくなるのでは? と今更ながら思ってしまっていた。
 でも、やはり 警察が駆けつけてくれる方が安心するといえばそうだ。リュウキやキリトが手配をしてくれると約束もしてくれたから。

 でも、ログアウトをするのは 当然だが同時。如何に距離が近いとは言っても 同じ時間に目を覚まし、そこから 手配をするとなれば、やはり10分以上はかかるだろう。その間は、自分の身は自分で守らなければならない。

 本来であれば、ログアウトし 目を覚ましたら まずは部屋の安全を確認した後に、新川恭司に連絡をして、家まで来てもらうつもりだった。彼が自分の身の回りで唯一信頼出来る人だったから。……リュウキの言葉を聞くまでは、そうするつもりだったんだ。

 あの時、自分自身が信用できる人がいる。と言った時だ。

『オレとキリト、若しくは警察。その どれかが行くまで、誰もシノンの家に上げないでくれ。……施錠も改めてしっかりとかけていてくれないか? ……頼む』

 真剣な表情で、リュウキはそう言っていたのだ。その表情はシノンは何度も見ている。……死銃と戦っていたあの時に、何度も。

「……遅かれ早かれ、新川君が来るとは思うんだけど」

 シノンは、そうも考える。
 この大会が終わったら……返事を聞かせてくれ、と言われているのだから。真剣な彼の表情。……翌日に改めて と言う感じはしなかった。だから、彼は きっと 大会が終わったと同時に、家に向かっているんじゃないか? と思えてしまうのだ。

「――電話で、伝えた方が良いような気がするんだけど……。道中気をつけた方が良いって……。でも……、りゅう、はや、とが……言ったから……」

 理由は説明出来ないけれど、その辺は適当な事を言って誤魔化しつつ言えばいいだろう。だけど、リュウキの願いは 誰も家に入れない事だった。
 
 つまり、電話をすれば自宅に在宅状態だと言う事を言っているも同然だ。そうでなくとも、BoB大会が終了した直後、心身が疲れ切っているといってもいい状態で出かける。それも夜遅くに、となれば 今までの自分の状況を考えたら有り得ないだろう。夜遅くに外へと出る等今までを考えたら間違いなく。

――……もしも、リュウキやキリトが来るよりも早くに、新川恭司が来たらどうすれば良いかな?

 シノンは、思考を張り巡らせた後 最後にもう一度、リザルト画面を眺めた。

 再上部に、3人同時と言うこれまで どのサーバーでも無かった結果が大きく、そして煌々と輝いている。3人の名前の1つ1つがだ。
 この場所に、名前を載せる事、それがGGOをプレイする上での究極の目標だったわけだが、残念ながら今回の戦いはノーコンテスト、ノーカウントにしなければならないだろう。
 状況がイレギュラー過ぎたのだから。目標は、第4回大会まで持ちこしだ。

 3人が優勝と言う事もあって、準優勝も3位もなく、その下に連なっている名は、《赤羊》、そして《Sterben》だ。そして 6位の位置に《闇風》がいる。優勝候補筆頭だった彼に賭けていたプレイヤーは多いはずで、一応大穴だったリュウキやキリトが優勝したことで、今回の公式トトカルチョは大荒れだろうと思える。

 そして、プレイヤー達の名がどんどん下へとながれていき、最終的には回線切断者の名前も表示される。その数は4人。……今回の死銃事件の被害者と言う事になるだろう。

 つまり、共犯者が正確に何人いるか判らない状況だ。最低でもゲーム内にいた2人を除いて、2人、いや3人はいるかもしれない。

――いったいVRMMOの中で、どのような集団に属し、どのような経験をすれば、こんな恐ろしい犯罪を企むようになるのか………。

 正直、判りたくもない相手の心情を考えていた時に、カウントダウンがゼロになった。

 その瞬間に、訪れたのは 形とは言え 優勝したと言う勝利からくる高揚感ではなく、深く、そして冷たい戦慄だった。

 

 それは一瞬の浮遊感覚。それが消えた時にはもう、シノンは誌乃となり、現実世界の自室のベッドにひとり横たわっていた。

――いや、ひとり、とはまだ限らない。すぐに眼を開けちゃダメ。動くのもダメ。

 誌乃は、そう自分に言い聞かせた。身動き一つせず、瞼をしっかりと閉じたまま、誌乃はそっと周囲の気配を探った。
 耳には、微かにいくつかの音が届いてくる。まずは自分自身の音。呼吸音や早いペースを刻む心臓の鼓動。天井の近くで低く唸っている暖房運転中のエアコンの作動音。これは、大体の終了時刻を考え、やや早いタイミングで起動する様にセットしたモノだ。それと同時に、セットしていた加湿器の音、薄く吐き出されるミストが流れる僅かで、微かな音。

 全神経を耳に集中させ、ここまで聞き取る事が出来た事に誌乃は少なからず驚きつつも、安堵をしていた。
 《それだけ》だからだ。それ以外の異質な音を立てるものは何も無いのだ。それは、音だけではない。ゆっくりと鼻で呼吸をする。妙な匂いの類も無い。芳香剤の代わりにチェストの上に置いたハーブ石鹸の穏やかな香りだけであり、奇妙な気配と同じく、奇妙な異質な匂いも無かった。

 だからこそ、自分以外には誰もいない事を把握したのだ。

「………っ」

 誌乃は、ゆっくりと眼を開けた。

 まだ、それでも 音で匂いで、五感で感じられない亡霊に似た《何か》がこの部屋にいるかもしれない、と言う恐怖があった。
 だけど、不思議な事に 誌乃の手には僅かだが温もりがあったのだ。……それは、とても暖かく、勇気をくれるもの、だった。

『幾らでも握ってやる』

 それと同時に、誌乃はあの言葉が頭の中を巡る。

 そう、ずっと怖がって、怯えたままでは、前に進めない。 
 ……戦うか、戦わないか。差し出された手を握るか、拒むか。自分はもう 決めた筈だから。
 誌乃は 現実世界に戻っても、その精神の強さをシノンから。……皆から貰った強さをこの世界の誌乃の力に変えて、ゆっくりと起き上がった。

「……(誰も、いない。わよね。でも……)」

 そう例え、部屋の中にいなくても、キッチン、あるいはユニットバス、ベランダ、狭い1Kのアパートでも、その気にあれば、姿を隠せる場所は沢山有るのだ。そう、今自分がいるベッドの下にだって……。


――怖い。怖いよ……。


 貰った、とは言え、実際に受け取ったのはシノンであり、誌乃ではない。その僅かにある隔たりが 押し寄せる恐怖に負けそうになってしまうのだ。

――で、でも……負けない。負けない、よ。

 手に灯る僅かな温もりを必死に身体の芯へと込めると、視線をゆっくりと移動させる。
 180度の範囲内を確実に見渡した次に、今度はゆっくりと首を振る。部屋の全体、見える範囲を見た後、今度は 足を動かす番だった。
 竦み上がりそうな細く、華奢な両脚を懸命に動かし、力を込め、立ち上がる。それと同時に、頭に取り付けられたアミュスフィアも外して、枕の横に置いた。深く、深く深呼吸をした後に、立ち上がってもう一度部屋全体を見渡した。

――何もかも、数時間前にフルダイブしたときのまま。

 テーブルの上もそうだ。ダイブ前の体調を万全にしようと、ある程度のカロリーを取り、水分も含み、その残骸が残されている。数時間前の記憶を揺り起こすと、間違いない。誰かが入ってきた様な形跡は、とりあえずは無かった。……勿論、判る範囲での事だが。

 その後も、キッチンやユニットバス、それらを足音を立てない様に意識しながら移動、気配を探ったが、やはり妙な音がする様子も、気配も何もなかった。神経が張り詰めている状況で、見逃すとも思えないし、実際に見てみても、そこには何もいなかった。

 そして、いよいよキッチンの向こう側にある玄関口にまで移動した。

 眼を凝らすと、ドアのロックノブも水平に寝たままなのが見えた。……が、ドアチェーンは あの時に思い出した通り、掛けられていない。誌乃は 限りなく音を絶てず、息をも殺し、玄関へと移動すると、僅かに震える手を必死に動かし、しっかりとチェーンを掛けた。以前の事件があってから、チェーン自体も厳重なモノにしている為、例え 旧式電子錠を突破出来たとしても、簡単な工具等では 切断は出来ない。よしんば チェーンカット専用の治具を使ったとしても、音を立てずにするのは無理があるし、完全に意識が覚醒した今なら、なんとか逃げる事は出来るのだ。

「………ふぅ」

 完全にかけ終えたのを確認すると、にじみ出た冷や汗を拭った。

「……警戒してたのが、馬鹿だった、って思える様な……」

 誌乃は、思わずそう呟いていた。確かに拍子抜け、とは違うが 本当に何もかもが 数時間前と同じなのだ。あの恐ろしい事件。あの世界の戦いが無ければ、いつもの様に身体を起こして行動をするだろう。それでも、感じる事はあった。
 現在の時刻を確認した時にだ。

 この数時間。なんて長かったんだろう。と感じた。

 ダイブ前の事、ヨーグルトを食べた事や、ミネラルウォーターを飲んだ事が、遥か昔の出来事のようだ。

――自分は、何か変われた、のかな? 

 そして、誌乃は自問自答をしていた。長く、恐ろしい程までの濃密された時間の中、戦った。……蹲り、動けなくなったけれど、それでも 光を欲し、温もりを欲し、最後まで戦う事が出来た。それでも、何も変わってない様にも思えるのだ。

 だけど、少なくとも、誌乃の心の中に長いこと居座っていた焦燥感を今は遠くに感じる。

 そして、多分だけど……最後のピースを埋めるのは、変われるトリガーを引く事が出来るのは、()と再会した時だと言う事。無意識に誌乃はそう思っていた。

 その時、だった。



―――は、―――通――止め――。――通――い。



 静寂な世界の中で、声が、聞えて来た。それは、部屋の中ではなく外。

「ッ!!?」

 突然だった。……いや、違う。気付かなかったのかもしれない。自分の内面と向き合っていたから。

 ただ、判る事はある。……多少なりとも、重く感じた足だが、起き上がる時から、この1Kの部屋の全てを確認する為に動き回る事が出来た。
 それなのに、まるで 足に鉄球付きの足枷を取り付けられたかの様に、重く 動く事が出来なかったのだ。

 
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