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野獣

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9部分:第九章


第九章

 僕は昨日行った店に入った。装飾品がやけに気に入ったからだ。今度はガイドも一緒である。
「へえ、なかなかいい店ですね」
 ガイドは店に入るとそう言った。
「そうでしょう、昨日入って気に入ったんですよ」
 僕は答えた。そして彼に昨日買った品を見せた。
「これはいい」
 彼はそのネックレスを見て目を細めた。
「実は恋人の誕生祝いを買わなければいけなくて」
「じゃあこのネックレスなんてどうですか?」
「彼女はネックレスはあまり好きじゃなくて」
「難しいですね」
 本当だ。人の好み程わかりにくものはない。
「ではブレスレットなんかどうですか?」
 僕は青いブレスレットを見せた。サファイアかと思ったが違うようだ。
「青いのより赤いのが好きなんですよ。情熱的だ、とか言って」
「そうですか。じゃあこれがいいですね」
 僕はそう言うと赤いブレスレットを見せた。
「あ、これはいいですね」
「じゃあこれで決まりですね」
「はい、他にも色々見ましょう」
 彼はそう言うと店の中の品物を色々と見回りはじめた。そこへ昨日の老人が出て来た。
「おお、今日も来てくれとるのか」
 彼は僕達を見ると嬉しそうな顔でそう言った。
「ええ、いいものが揃っていますので」
「それは有り難い」
 お世辞も込めたのだがそれでも嬉しいらしい。やはり彼も商いをする者らしくそうしたことを褒められると悪い気はしないようだ。
「ではこれなどはどうですかな」
 彼はそう言うと僕達のところに歩いてきた。そして品物を次々と見せはじめた。
「これはいいですね」
「これも」
 僕達はそれを見ながら口々に言った。そして気に入ったものを次々と手にとった。
「有り難うございます。こんなに買ってくれるお客さんは珍しいですよ」
「いえ、そんな」
 今度は僕達が逆に謙遜した。その時ふ老人の後頭部が目に入った。
「!?」
 見れば傷があった。あまり深くはなさそうだが新しい。昨日か今日についたものであろうか。
(こんな場所にか。何かあったのかな)
 僕はそう思った。見れば何かが擦ったような細長い傷である。
(お歳だし用心して欲しいな)
 僕はそう思った。だが口には出さなかった。
 僕達は買いたいものを全て買うと店をあとにした。そして店をあとにした。
 礼を言って店を出た。その時店の奥にチラリと人影が見えた。
「他にも誰かいるのか」
 それは若い女性のようだった。だが詳しいことはわからなかった。
 僕達は今度は博物館に向かった。そしてそこでも昨日のムングワのことを話した。
「熊みたいに巨大なネコ科の生物ですか」
 館員はそれを聞き顔を顰めた。
「はい、何かご存知でしょうか」
 僕は尋ねた。
「ううん・・・・・・」
 彼は考え込みだした。
「アフリカにはそんな巨大なネコ科の生物はいませんがねえ」
「ライオンも虎よりは小さいですしね」
「はい、虎にしろ一番大きいのはシベリアの虎ですよ。動物というのは寒い場所の方が大きくなるのです」
「それはそうですが」
 ゾウアザラシにしてもキタゾウアザラシのほうがミナミゾウアザラシより大きい。人も南方の人より北方の人の方が背が高い。欧州においてイタリア人とノルウェー人では背丈がまるで違う。
「アフリカには熊もいないと言われていますし」
 これははっきりしない。いるのではないかという説もある。
「ましてやそこまで大きなネコ科となりますとねえ」
「心当たりはありませんか」
「残念ながら。本当にそこまで大きかったのですか?」
 逆に尋ねられた。
「はい、それはもう」
「嘘を言っていると思われるのですか?」
 僕達はそれを否定した。
「いえ」
 彼もそれはわかってくれたようである。
「どうやら本当のようですね」
「そうなんです。僕達もこの目で見てまだ信じられませんから」
「本当に驚く程大きかったですよ」
 僕達は口々に言った。
「それにしても熊のような大きさですか。かなり厄介ですね」
 彼は顔を再び顰めさせた。
 
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