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真田十勇士

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巻ノ二十 三河入りその十

「あの国は」
「うむ、何かとな」
 幸村もだ、寂しさと悲しさを感じさせる顔になっていた。
「拙者には思うところの多いな」
「ですな、やはり」
「あの国に父上と共に詰めたこともある」
「武田家の下に」
「兄上も一緒じゃった」
 彼もというのだ。
「三人でな、懐かしい場所じゃが」
「しかしですな」
「もう武田家はない」
 仕え忠義を尽くしていたその家のことも言うのだった。
「よき家であったがな」
「ですか、やはり」
「その御心は頂いたつもりだがな」
「あの赤ですな」
「赤備えですな」
 家臣達は武田家の心と聞いてすぐに言った。
「武田家の心はあの中にある」
「武田家のそれはですな」
「それを真田家は受け継いでいる」
「そうなのですな」
「そこにさらにあるがな」
 その『さらに』あるものはというと。
「真田家の心がな」
「しかしですな」
「あの赤備えには武田家の御心があり」
「真田家はそれを受け継いでいる」
「そう仰るのですな」
「最近井伊家もその様にしているというが」
 徳川家の家臣のだ、その中でも家康に取り立てられていっている家だという。
「しかしな」
「赤は武田家の御心」
「それを第一に受け継いでいるのは真田家」
「左様ですな」
「そう考えておる、拙者はな」
 まさにというのだ。
「当家こそがな」
「武田家の御心を受け継いでいる家」
「まさに」
「その様にな、孫子の旗はない」
 武田家のそれはというのだ。
「あるのはじゃ」
「はい、六文銭ですな」
「あれですな」
「地獄に落ちてもじゃ」
 死してだ、そうなろうともというのだ。
「やるべきことをやる」
「それの意思表示ですか」
「地獄の沙汰も銭次第という」
 俗に言われている言葉もだ、幸村は出した。
「だからな」
「地獄でもですか」
「真田家は働くのじゃ」
 こう家臣達に言うのだった。
「無論拙者もな」
「そういうことですか」
「殿は地獄でも殿ですか」
「そうじゃ、閻魔大王の前に出ても無様な姿は見せたくない」
 その閻魔にもというのだ。 
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