| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

野獣

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

15部分:第十五章


第十五章

 しかし多勢に無勢だった。やがて息切れし捕まることだろう。
 それよりもムングワだった。こいつを倒さないと話は終わらない。僕達は奴に銃を向けた。
 奴が身を屈めた。力をためている。次の動きはわかった。
 跳んできた。予想通りだった。それも僕のところに来た。
 これまでだったらかわすしかなかった。だが今はその動きがあきらかに鈍っていた。
「いける」
 僕は咄嗟にそう思った。そして奴の開いた口に散弾銃を入れた。
 そしてトリガーを引いた。不思議と力は入らなかった。
 すぐに衝撃が全身を襲った。僕はその衝撃に身をのけぞらせた。
 銃身から炎が吹く。それは奴の口の中を襲った。
 無数の銃弾が奴の体内を荒れ狂った。流石にその中を守るものはなかった。
 全身がまるで爆発したように膨張した。そして銃弾が皮を突き破らんと暴れ回る。
 だがそれも止まった。ムングワはそのまま前に落ちていった。
「終わったか!?」
 僕はそれを見て呟いた。ムングワは前に倒れた。
 そのまま動かなかった。さしもの化け物も体内を破壊されてはどうしようもなかった。
「お祖父様!」
 女がムングワの死を見て叫んだ。だがそこに警官達が襲い掛かる。
「クッ!」
 だが彼女はここで信じられない力を発揮した。そして警官達を退けた。
 そのままムングワへ駆け寄る。今までとは信じられない程小さくなったように見えたその亡骸を抱えた。
「これで我等の報復は・・・・・・」
 さしもの血の報復もムングワがいなくてはどうにもならないようだ。彼女の顔が絶望したものになった。
 しかしそれは一瞬であった。彼女はキッと顔を上げた。
「こうなったら」
 壁に飛び移り松明の一つを手にとった。そして祭壇に投げ入れた。
「何っ!」
 祭壇は忽ち炎に包まれた。それはすぐに地下室全部に行き渡った。
「死してこの身を捧げるのみ。報復がならなければ生きている意味もない」
「何と・・・・・・」
 最早そこには一欠の雑念もなかった。最早それは絶対であった。
「ならば死してこの身を神に捧げるのみ!」
 信じられない速さであった。彼女は炎の中に飛び込んだ。そしてその中に消えていった。
「何という女だ・・・・・・」
 僕は突然目の前で起こったこの光景に我を失った。暫し呆然とした。
「逃げましょう!」
 その僕を引き戻したのはガイドの声だった。
「急いで下さい。火がすぐそこまで来ていますよ!」
「えっ」
 気付いた時には部屋もう炎の海の中であった。警官達も皆逃げ出していた。
「行きましょう、このままだと丸焼けになりますよ!」
「は、はい!」
 ガイドに手を引かれるようにして僕はその部屋をあとにした。扉を潜り抜けた時炎がそこから出ようとした。
 何かが落ちる音がした。あの巨大なムングワの像が落ちたのであろうか。
 炎は僕達を追うように上に登ってきた。僕達はそれから逃れるようにして家を脱出した。
 最後に家を出たのは僕だった。そのすぐ後ろで炎が燃え盛る音がした。
「終わったな」
 僕は振り返った。見れば家は全て紅蓮の焔に包まれている。
 炎は全てを焼き尽くさんとしていた。家は瞬く間に焼け落ちすぐに炭の山となった。
「これでムングワも死にましたね」
 僕はその炭の山を見ながらガイドや医者に言った。見れば炭にはまだ火がついている。
「ええ。意外な事実でしたけれどね」
 医者はその焼け落ちた家を見ながら呟くようにして言った。
「まさか人が変身していたなんて」
「アフリカにもあったんですね、人が獣に変身するのは」
 この時僕の念頭にはヨーロッパの狼男があった。
「アフリカにもこうした話はありますよ」
 館員はそんな僕に対して言った。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧