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戦国異伝

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第二百三十話 本能寺へその十四

「それがです」
「昨日からか」
「出仕されていまして」
 城の中にだ。
「是非にと申されています」
「身体は大丈夫なのか」
 怪訝な顔のままだ、明智は小姓に問うた。
「それで」
「大丈夫になったからとです」
「城にか」
「出仕されているとのことですが」
「ならよいが」
「そしてその中谷殿が」
 その彼がというのだ。
「どうしてもと仰っています」
「左様か」
「それでどうされますか」
「昨日ようやく出仕してか」
 明智は考える顔で述べた。
「無理があるのではないか」
「しかし」
「それでもか」
「どうしてもと仰っています」
「殿、どうされますか」 
 斎藤は明智に怪訝な顔でその断を問うた。
「どうしてもということの様ですが」
「そうじゃな、大丈夫とは思うが」
 その茶人自体の身体がだ。
「どうしてもいうのならな」
「嫌だとは言えませぬな」
「その意を汲まねばな」
「悪いですな」
「うむ、だからな」 
 それでというのだ。
「中谷堂順の申し出を受けよう」
「さすれば」
「まさかと思いますが」
 秀満がここでこう言った。
「別に毒が入ってもおりませぬな」
「それは先に我等が確かめまする」
 小姓がこう秀満に答えた。
「ですから」
「その心配はないな」
「ご安心下さい」
 秀満に確かな声で告げた。
「このことにつきましては」
「では頼むぞ」
「さすれば」
「ではその者の茶を飲もう」
 明智は中谷の健康を気にかけつつも斎藤と秀満に言った。
「これよりな」
「はい、では」
「共に茶を飲みましょう」
「その中谷の茶を」
「今から」
「ではな」
 こうしてだった、明智は自身ではなくその茶人に茶を淹れさせてだった。そのうえで。 
 茶室に向かった、この時彼等は夢にも思わなかった、それが大きなことになることに。


第二百三十話   完


                       2015・6・5 
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