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真田十勇士

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巻ノ二十 三河入りその一

                巻ノ二十  三河入り
 三河に入った幸村達はそののどかな姿を見てだった、心地よいものを感じそのうえでだった。
 村に町を歩いてだ、その細かいところを見た。民の顔ものどかでありとても戦国の中にあるとは思えないものだった。
 その三河の中を見つつだ、猿飛が唸って言った。
「ううむ、上方よりもな」
「ずっと落ち着いておるな」
 穴山が猿飛に応えた。
「のどかでな」
「そうじゃな、上方も落ち着いておったが」
「ここはまた違う」
 一行が巡ってきたこれまでの国とは、というのだ。
「安心している感じがするのう」
「これが徳川殿の国か」
 霧隠は目を瞠っていた。
「上方程豊かではないがな」
「それでも落ち着きが違います」
 伊佐も言う。
「徳川殿を信頼しておるからこそかと」
「ふむ。徳川殿のお人柄を知ってか」
 根津はその目を鋭くさせつつもそののどかさを見ていた。
「それでか」
「ううむ、確かにまとまっておるがな」
 海野がここで言うこととは。
「豊かではないな」
「上方よりはな」
 望月も言う。
「美濃よりもさらにじゃ」
「しかし皆の顔はさらによいぞ」
 清海は微笑む彼等の顔を見ている。
「何も困ったことはない様な、何かあっても大丈夫という様な」
「それだけ徳川殿が信頼されておるのか」
 由利は首を傾げさえしていた。
「民達に」
「そうであろう、それも徳川殿の政がよくな」
 筧も言う。
「徳があるということじゃ」
「徳川家康殿は戦上手で知られておるが」
 最後に言ったのは幸村だった、彼が言うことはというと。
「政もよくそしてな」
「徳、ですか」
「徳をお持ちですか」
「民に信じられ頼られる様な」
「そうした方ですか」
「そうじゃな、温厚で公平な方とも聞いておる」
 家康のそうしたところもまた知られているのだ、その心を以て政にあたることも。
「それが民達にもわかっていてな」
「この様にですな」
「民達の顔を穏やかにしている」
「そしてよき国にしている」
「そうなのですな」
「そうじゃ」
 まさにその通りだとだ、幸村は家臣達に答えた。
「天下にこれだけの徳を持った方はな」
「おられぬ」
「そう言われますか」
「うむ」
 その通りというのだ。
「羽柴殿とはまた違う」
「羽柴殿は確かに人を惹きつけられるそうですな」
「それも相当に」
「何でも天下の人たらしとか」
「そこまで言われているとか」
「うむ、その様じゃな」
 秀吉の人たらしについてだ、幸村も言う。
「あの方はな」
「しかしですな」
「あの方はですな」
「徳がおありかというと」
「徳川殿の様なものとは違いますな」
「徳川殿の徳は落ち着く徳じゃな」 
 人のそれはというのだ。
「三河に入ってわかった」
「ですな。天下人になれる様な」
「そうしたものですな」
「若しや」
 幸村はこうも言った。 
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