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大切な一つのもの

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13部分:第十三章


第十三章

「どうしてこちらに」
「こちらの姫様が裁判にかけられようとしているのですね」
「はい」
 兵士達は彼の言葉に答えて頷きます。
「その通りです。弟君である公爵様が」
「それは私も聞きました」
 鳥の岸は兵士達にそう述べます。
「今ケルンの司教様がこちらに来られて裁判をされるそうで」
「その通りです」
「それはもう間も無くで」
「それではですね」
 騎士はそこまで聞いたうえでまた兵士達に言いました。
「私をその裁判の場まで案内して下さい」
「騎士殿をですか」
「ええ。御願いします」
 そう兵士達に頼みます。
「宜しければ」
「わかりました。では」
 兵士の一人が前に出て述べます。
「こちらへ。宜しいですね」
「はい。それでは」
 彼はここで後ろにいる民達の方を向きます。そうして彼等に礼を述べるのです。
「ここまでどうも」
「いえ、それはまあ」
「私等も公爵様とお姫様の為ですから」
「そうなのですか」
「はい、そうなんですよ」
 彼等は照れ臭そうに述べました。
「何か頼み込んで申し訳ないですけれど」
「やっぱり」
「いえ、お気遣いは無用です」
 しかし騎士はそうして申し訳なさそうな彼等にまた笑って述べるのでした。
「頼まれた仕事を笑顔で引き受けるのが騎士ですから」
「では宜しいのですね」
「無論です」
 また笑顔で答えます。
「ですから。ここは心配なぞなさらずに」
「わかりました」
「それでは」
 こうして彼はお城の中に入りました。重厚な石の壁で囲まれたお城の中は華麗な宮殿でした。白と銀色に輝く大層美麗な宮殿であります。
 鳥の騎士はその中を兵士に案内されて進みます。左右には鎧が置かれ下には赤絨毯が敷かれています。その奥にはとても広い部屋が見えていました。
「あそこに姫がおられるのですね」
「そうです」
 兵士は騎士に答えます。
「司教様も御一緒です」
「ケルンの司教様ですか。確か」
「非常に厳格な方です」
 兵士はそう騎士に答えました。
「そうですね。かなり真面目な方で」
「それで今回の捜査もかなり厳しく進められています」
「姫様への尋問は」
「そちらもかなり」
 答えるその顔が沈痛なものになっていました。動きも微かに鈍くなったようです。
「非常に厳しい方なので」
「そうですか。お気の毒に」
「無論拷問等はありません」
 それは保障されました。
「ですが。それでも」
「わかります。姫様の御心が」
「貴方ならそれを救って頂けると信じています」
 兵士は騎士の顔をじっと見て述べました。
「貴方ならば」
「私ならばですか」
「そう、帝国で屈指の騎士である貴方ならば」
 念を押すようにして述べます。
「きっと果たせると思います」
「姫様を救えると」
「そのつもりで来られたのですよね」
 またあらためて彼に尋ねます。
「だからこそこちらに」
「はい、その通りです」
 騎士もまっすぐな顔と声で言葉を返しました。
「必ずや公爵様を見つけ出してみせます」
「御願いします」
 兵士はその言葉に希望を見出しました。声が明るくなります。
「必ずや。そして姫様を」
「はい。ですが」
 ここで鳥の騎士はあることに思い至ったのです。
 
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