大切な一つのもの
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
11部分:第十一章
第十一章
白い鎧とマントに身を包んだ白鳥の騎士は帝国の端にあるアントワープに向かっていました。そこに向かったのには理由がありました。
実は彼は最初は他の場所に向かおうと考えていました。ところがウィーンを出てすぐに協会で神父様に祈りを捧げているとこう言われたのです。
「アントワープに向かうのです」
「アントワープにですか」
鳥の騎士は最初それを聞いて思わず声をあげました。
「そこに私が探しているものがあるのですね」
「その通りです」
神父は厳かに答えます。彼は帝国の中でもとりわけ信仰心が篤く心豊かな神父として知られています。つまり信頼できる言葉なのです。
「そこに行けばあるのです」
「アントワープに大切なものが」
騎士はそれを聞いてあらためて俯きます。
「あの辺りは帝国でもとりわけ豊かな地域です」
「はい」
騎士のその言葉に神父も頷きます。それはもう誰も知っていることです。
「ではそこにあるのは財宝でしょうか」
「いえ」
ところが神父はその言葉には首を横に振りました。そのうえで騎士に述べます。
「私はそういったものは感じません」
「では一体」
彼は神父に問いました。
「何なのでしょうか、それは」
「神は仰っています」
神父はただこう言うばかりです。
「自ら行きそれも確かめるがいいと」
「それもですか」
「そうです、自分の目で」
また騎士に言います。つまり自分で確かめろと。そう言うのでした。
「それを見つけよと。わかりましたでしょうか」
「はい」
騎士はその言葉に毅然として頷きました。そうしてすくっと立ち上がりました。
「わかりました。それでは」
「迷われることはありません、怖れることもありません」
神父は立ち上がった騎士に告げます。まるでそれもまた神の言葉であるように。
「全ては神の導かれるままです」
「はい。では神に導かれ」
「アントワープへ」
こうした経緯があったのです。白鳥の騎士はステンドガラスで荘厳に飾られた教会を後にしてアントワープへ向かいました。かなり馬を進めてようやくそこに辿り着きました。ところが辿り着くとアントワープ自体が異様な雰囲気です。騎士はその様子を見てすぐに民に尋ねました。
ページ上へ戻る