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海の底から

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3部分:第三章


第三章

「そんなのな」
「信じないのならいいさ」
 白髪の船員も喧嘩言葉になっていた。
「しかしそれでもな」
「ソナーにはっていうのか」
「ああ、間違いない。それにだ」
「今度は何だよ」
「目って言ったよな」
 彼は年配の船員のその言葉を指摘してきたのだ。今度はだ。
「今確かに言ったな」
「ああ、言ったさ」
 年配の船員もそれを否定しない。
「しっかりとな。言ったさ」
「よし、わかった」
 それに頷く彼だった。そうしてだった。
「目で見るのなら信じろ。出て来たらな」
「出たら信じてやるさ」
 年配の船員も喧嘩を買う形で述べた、
「その時はな」
「よし、それならだ。その言葉忘れるなよ」
「ああ、絶対にな」
 二人がこう言い争っている間若い船員は今は海を見ていた。海は静かであった。だが先程のあの鯨と烏賊の格闘の時と同じくだ。それが出て来たのであった。
 慌しくではなかった。静かであった。だがそれが出て来たのだ。
 若い船員はそれを見てだ。船から転げ落ちんばかりに驚いて叫んだ。
「あ、あれは!」
「今度は何だ?」
「何が出たんだ?」
「あれ、あれを!」
 それを指差して二人に叫ぶ。
「あれってまさか」
「な、何っ!」
「あれは!」
「ええ、それですよね!」
 白髪の船員が持っているソナーを映し出した紙を指差しての言葉である。何と今海からでたそれとソナーに映っているそれがだ。同じものだったのだ。
「あれって」
「ああ、間違いない」
 白髪の船員も呆然としながら話す。
「あれだよ」
「おい、嘘だろ」 
 年配の船員もその目を点にさせていた。
「本当にいたのかよ」
「けれど今実際に見ていますよね」
「ああ」
 年配の船員は若い船員の言葉にこくりと頷く。
「見てるよ、確かにな」
「じゃあこれってやっぱり」
「ああ、シーサーペントだ」
 年配の船員はそれだと指摘した。
「間違いない」
「本当にいたんですね」
「流石にこれはないと思ったがな」
「俺も最初は驚いたよ」 
 白髪の船員もここで話す。
「噂には聞いていたけれどな」
「しかし出て来ましたし」
「本当にいたなんてな」
「世の中本当にわからないな」
 二人は首を傾げさせながら言った。
「いや、海の底ってのは」
「何がいるかわからないな」
「そうですね。本当に色々なのがいるんですね」
 若い船員は首を捻りながら話した。
「凄いですね、海ってのは」
「俺もあらためて知ったよ」
「俺もだ」
 二人は若い船員の言葉に頷く。
「いや、海ってのは」
「色々な生き物がいるな」
「全くですね」
 三人はその首の長い、いる筈のない生き物を見ながら話すのだった。その生き物は彼等のことも船のことも気にする様もなく悠然と泳いでだ。そのうえでまた海の中に戻った。後には静かな海が残っていた。それだけであった。


海の底から   完


                  2010・6・3
 
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