赤い靴
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3部分:第三章
第三章
「そろそろですよ」
「今度は何だ?」
「熟が終わる時間です」
金田はそれもチェックしていたのだ。
「公園の側のあの学習塾が終わる時間ですよ」
「そうか、もうか」
「動くとすれば間近いですね」
そして松本にまた言った。
「動くとすればですが」
「動いた場合はわかってるな」
松本の言葉が鋭いものになった。まるで獣のそれの様に。
「すぐに出るぞ」
「ええ。わかってます」
金田の声も松本のそれと同じ響きになっていた。身体もそれに合わせて身構えたものになっていた。
「その時はね」
「それがもうすぐかどうかはわからないが」
「若し子供に襲い掛かろうともなら」
金田の声がさらに鋭いものになった。
「その時は容赦しませんよ」
「本気だな」
「勿論」
答えるこの言葉にこそそれが実によく表われていた。
「本気じゃないとこの仕事はできませんからね」
「その通りだ。その時はな」
「やりますよ」
二人の言葉が重なった。それは言葉だけではなかった。二人はさらに男を見据えていた。やがて公園の前に一人の女の子がやって来たのであった。
「おい」
おさげの小さな女の子だ。その娘を見た松本の目が光った。
「あの娘、見ろ」
「ええ、あれは」
赤い靴を履いていた。その赤い靴をだ。
「若しかしてここで」
「有り得るぞ」
小声だが確かな言葉を交えさせた。
「下手をすればな。ここで」
「ええ。動きますね」
二人はまるで豹が獲物を狙う様に茂みの中で身をこらした。そうして男が何かをすればすぐに飛び出るように身構えた。そして。男が動いた。
「!!」
男は何も言わず女の子に飛び掛る。そのまま抱き締め公園に引き込もうとした。
「やだ、離して!」
「待て!」
それを見た二人は一斉に飛び出す。まさに豹の様に。
「その娘を離せ!」
「止まれ!」
不審者を抑える。ところが。
「ひひひひひひひひひ!」
腕から何かを出してきた。それを振り回してきた。
「!?松本さん!」
「ああ、気をつけろ!」
金田も松本も咄嗟に間合いを離す。凶器を持っているのが明らかだったからだ。
「こいつは多分」
「けれど子供は」
「逃げさせろ!」
慌てて声をやる。
「いいな、すぐにだ!」
「は、はい!」
「その間は俺がこいつを止める」
捨て身の覚悟であった。金田と彼が庇う少女の後ろに立って不審者に向かう。そうして向かうが不審者の動きは止まることはない。それどころか台風の様に荒れ狂っていた。
「死ね!死ねっ!」
「こいつ、まさか」
「松本さん、子供は」
「どうした?」
必死に不審者の前に立ちはだかりその攻撃をかわしながら金田に対して問い返す。
「何とか向こうに逃がしました」
「そうか。ならいい」
それを聞いてまずは安心した。しかしであった。
不審者は暴れ続けている。気付けば松本の服もかなり切られていた。闇夜の中で鋭利な何かが剣呑な輝きを見せていたのである。二人に対して。
その輝きが何であるかはおおよそはわかる。しかしそれが何かまではわからない。
「何ですかね、これ」
「さあな」
二人はその攻撃を右に左に後ろにかわしながら話をする。
「だがかなりリーチはあるな」
「ええ。包丁よりもずっと」
「何かまではわからねえ。しかしだ」
松本は突き刺してきたそれを右に身体を捻ってかわした。
「どうする?こいつ」
「どうするですか」
今度は金田に対してきた。身を下に屈めて紙一重でかわした。
「銃はありますけれど」
「馬鹿、使えるか」
松本はそれは否定した。ここでも不審者の攻撃をかわす。
「あれ使ったらマスコミが五月蝿いぞ」
「それはそうですが」
「それにだ。今は」
「今は?」
「そんなヒマあるか」
こう言うのだった。ここでまた光をかわす。その危険な光を。
「銃を抜くヒマがな」
「確かに。それは」
「おい金田」
松本はここまで話したうえで金田に声をかけた。
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