真田十勇士
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巻ノ十九 尾張その十
「世の中はわからぬな」
「ですな、一介の足軽がです」
「最早天下人ですか」
「戦国の世では百姓ものし上がるものですが」
「それでもですな」
「あの御仁は格別じゃ。しかし羽柴殿と戦になろうとも」
徳川家がだ、今は何もないが先はわからないというのだ。
「我等は。わかっておるな」
「はい、お仕えするべきは」
「殿だけ」
「我等伊賀者は」
「左様ですな」
「そうじゃ、殿以外にはおられぬ」
まさにというのだ。
「そのことは忘れるでないぞ」
「承知しております」
「我等伊賀者は全てです」
「徳川家に終生お仕えします」
「それも代々」
「影の者達をここまで用いて下さるのじゃ」
武士としてだ、実際に服部は徳川家の重臣の一人に取り立てられており彼の下の伊賀者も篤く遇されている。家康がそうしているのだ。
そのことを恩に思いだ、服部は実際に今彼等に言うのだ。
「ならばな」
「はい、それでは」
「我等はですな」
「徳川家に忠義を尽くし」
「働いていきまする」
「頼むぞ。では幸村殿を見つつ」
服部は周りに瞑目する様な顔でまた告げた。
「殿のお言葉があればな」
「その通りに動く」
「そうさせてもらいます」
影の者達も頷く、そしてだった。
服部は今は静かに過ごしていた、幸村達が三河に入ろうともだ。見てはいるがそれでも動くことはなかった。少なくとも今は。
巻ノ十九 完
2015・8・12
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