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英雄は誰がために立つ

作者:昼猫
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Life21 蠢く者達

 ――――数年前。

 これは、とある国の民家での悲劇である。
 その民家に住んでいたのはこの国とは別の国から来た4人家族だったが、村の住民は親切で優しく直に馴染めたようだった。
 異国の地での生活だったが、2年間もの間の中で本当に楽しそうだった。
 しかし、ある日の深夜にそれは起きた。
 皆が寝静まった頃に外から何か大きな音が聞こえたのだ。
 その音に家族全員起きたので家の大黒柱たる父親が様子を探ると、黒ヤギの頭で二足歩行に黒い翼を生やした異形の化け物が暴れていたのだ。
 そんな空想じみた光景ではあったが、異形の化け物の左手が掴んでいるのは村長の頭のみで、下からは血が少しづつ垂れ流し状態になっていた。
 そんな光景に驚きつつ恐怖していると、異形の化け物は背中に目でもついているのかと疑いたくなるように振り向くと同時に窓から様子を見ていた父親と目を合わせて来たのだ。
 その非情な現実にパニックになるのではなく、瞬時に家族を逃がそうと判断する父親。
 彼らの家は表口と裏口の2つの入り口があり、裏口から逃がそうと1階に降りたところで鉱石で出来たドアが激しい衝撃により歪んだ。
 恐らく、異形の化け物がドアを破壊して中へ侵入しようとしているのだろう。
 破られるのは時間の問題と感じた父親が、切っ先が鉄製のスコップを持って、家族を逃がすために此処で食い止めると言いだしたのだ。
 それに対して子供たちは泣きながら父親の服の袖を掴んで引っ張ろうとするが、夫の覚悟を無駄にさせまいと無理矢理子供たちを引き剥がして裏口へと向かい家を出た。
 家を出た3人は川を伝って村からひいては山を下りて行き、一番近い都市に逃げようとしたのだが、村の出口付近の川沿いに先ほど見た異形の化け物と違う黒い牛の頭をしている怪物に遭遇してしまったのだった。
 黒い牛の化け物は、一番前にいた母親目掛けて棍棒を振り降ろすが、それを後ろから見ていた長男が母親を押すように庇い、棍棒の餌食に成ってしまったのだ。
 そして今度は、長女が狙われてしまい今度は庇った母親が棍棒で殴り殺されてしまった。
 押し倒された衝撃で川近くまで飛ばされた長女だったが、起き上がって最初に見た光景は黒い牛の化け物の棍棒が、自分目掛けて振り下ろされそうな光景だった。
 数時間後、村から何とか脱出していた別の家の家族の通報により、教会の戦士たちが到着するも、残っていたのは誰かに殺されたか解らない異形の化け物たちと、その異形の化け物たちに殺された村の住人達の亡骸だけだった。
 その後に、村長の家で住民票を見つけた戦士たちの臨時の隊長の指揮の下、村人の死者を弔い亡骸を埋葬するべく集めるが、脱出した家族以外で、ある民家の長女の遺体だけが見つけられなかった。
 痕跡すらも。
 その後、親類縁者には家族全員が死亡したと伝えられたそうだ。
 

 -Interlude-


 此処は禍の団(カオス・ブリゲード)の隠れ家の一室の屋根裏部屋。
 そこにはアサシンこと、百の貌のハサンがいた。
 顔には白い髑髏の仮面を付けているが口元から察するに、屈辱に震えていた。
 Mr.TEAの技術力により大破なら兎も角、破損程度なら宝具を修復できるようになったので、ハサン自身の宝具も完全に修復してもらったのだ。
 そしてこれにより、中枢である本体が無事なら何度でも修復可能と言う事も判明した。
 しかしだからと言って、捨て駒扱いにされるなどと言うのはプライドに障るモノだ。
 しかも百の貌のハサンは、歴代の暗殺教団教主の中で唯一、肉体改造もせずに山の翁になった異例の存在である。
 多重人格を用いて、様々な状況における任務を完全に熟して来た万能の暗殺者が生前の彼だった。
 それが今では作戦のためとはいえ、一種の奇跡ともいえる宝具をいくらでも修復できるからと言って、使い捨てにされるのだから堪ったモノでは無かった。
 近いうちにマスターからの梃入れが無ければ、契約関係が破綻する事は想像に難くなかった。
 キャスターとの契約のペナルティーに焦っているレヴェルに、その事を考えている余裕があればの話だったが。


 -Interlude-


 百の貌のハサンが居る屋敷とは別の屋敷の廊下を、緑色の外套を揺らすアーチャーことロビンフッドが歩いていた時の事だった。

 「ちょっとお話聞かせてくれないかしら?そこの色男さん」

 廊下の壁を背にして凭れ掛かっていた黒歌が、組んでいた腕を解いてから怪しげな瞳でロビンフッドを止めた。

 「何だいお嬢さん?俺以上の男なんてそこら中に居るだろう?帰った、帰った」
 「別に喰う気なんて無いわよ。ただ、聞きたい事があるだけニャン」

 語尾に♪が付きそうな声音だが、目が笑っていない事は一目瞭然だった。

 「話にもよるな。これでも雇われの身なんでね」

 しかし、ロビンフッドは肩を竦める様に動作をするように、自分のペースを崩さずに対応する。
 如何やら黒歌の反応に合わせる気は無いようだ。

 「幻想殺しを如何して狙うのかしら?」
 「オイオイ、本音で言えよ?『御主人様を狙うとは如何いうつもりよ!?』じゃねぇのかい?」
 「ニャ!!?にゃんでそれを!」

 黒歌は、思わぬカウンターパンチに怯む。

 「おたくらの行動は何かと無駄も置い以上に目立ち過ぎだ。なら、それなりに情報先も多いだろうさ」
 「クッ!」

 ロビンフッドの皮肉に黒歌は、下唇を噛んで少し悔しそうにする。

 「それと先の質問の答えだが、守秘義務なんでな。悪いが答えられんよ」

 門答はこれで終わりだと言わんばかりに廊下の奥へ消えて行こうとする。

 「ま、待ちなさ――――」
 「聞きたいならそっちの白龍皇(リーダーさん)通してライダー(旦那)に聞いてくれよ。テロリストと見做されてる俺らの間にそんなもんが残ってるか知らないが、それが筋だろ?」

 自分に答えられることはそれまでと、今度こそ奥に消えて行った。

 「むぅ・・・」

 拒絶こそされたが、士郎の事を今も気にかけている黒歌は、単なる興味心でもなんでもいいから状況を知りたかったのだ。
 とは言えこのままじっとしても始まらないので、ヴァ―リたちがいる部屋に戻る事にした。


 -Interlude-


 『――――遅いっっ!!』
 「う゛」

 冥界に戻ってから、一直線にレーティングゲームに出場した者達の治療を行った医療施設に着いた士郎への第一声がそれであった。
 士郎も、自分が遅れ過ぎた事への後ろめたさもあったので、言い訳せずにリアス達やソーナたちの責めの言葉を聞いていた。

 「――――ふぅ。この辺にしておきましょう、リアス。士郎君も悪気があって居なかった訳では無いのでしょうから」
 「・・・・・・・・・分かったわ。でも士郎、一つだけ教えてくれない?本当に日程は変えられなかったの?」

 ソーナの言葉に一応の理解を示したリアスは、翻って士郎に尋ねる。

 「今回の事はすまなかったと思っているが、日程の変更は無理だった」
 「如何してなのですか?」
 「数年前から交渉に交渉を重ねた結果、やっとの思いで会談の席を用意してもらった――――つまり、頭を下げてる立場だ。幾らが懐が広く温暖な方だからと言って、立場もあるだろうから予定変更など出来る筈も無かったんだ。だが、重ねて謝罪させてもらう。本当に今回は、すまなかった」

 改めて頭を下げる士郎に、リアス達は仕方が無かったんだと何とか憤りを押さえて、自分を無理矢理納得させる。
 そんな士郎達を見てアザゼルは興味を覚える。

 「その交渉相手って言うのは誰なんだ?」
 「・・・・・・・・・ゼウス様ですよ」
 「ゼウスの親父だと!?」

 まさか士郎の口からそんな超大物の名前が出るとは夢にも思っていなかったアザゼルは、大いに驚いた。

 「あれ?ゼウスって、何所かで聞いたような・・・」
 「何所かってイッセー君、本気で言ってる?」
 「まさか有名人?」
 「有名も有名ですわ。ギリシャ神話の主神におわす御方です」

 一誠の知識不足に朱乃と祐斗の2人がかりの説明によって、漸く理解して思い出して来た。

 「あーー、松田が昔やってたゲームに出てきた気がするな」

 などと気の抜けた返事をする一誠をよそに、興味心から残っていた北欧神話の主神がズイッと前に出て来た。

 「お前さん、ゼウスによく会えたのう?」
 「こ、これはオーディン様!私は――――」

 初対面に加えてトンデモナイVIPな人物に士郎は、仰々しく挨拶しようとする。
 しかし、それを掌をはためかせる様にして止める。

 「あー、あー、堅苦しい挨拶何ぞええわい。お前さんの噂は儂の耳にも届いておったんでな、人の身で白龍皇を撃退した現代の英雄に興味を持っただけじゃよ」
 「きょ、恐縮です。ですが、白龍皇を撃退したのは一誠の力ですよ。私はその前にほんの少しの間だけ戦っていただけです。一誠の頑張りがあってこそ、あの日、白龍皇を退けることが出来たんです」

 それを朱乃や祐斗と共に聞いていた一誠は、嬉しさと苛立ちの両方を感じた。
 悪魔に転生した自分とは違い、人の身のまま自分の遥か先を行く士郎に憧れている自分がいる事に気付いていた。
 それ故、先程オーディンが評したように“英雄”と呼んでも過言ではないとすら思っていた。
 そんな歳1つ違いの英雄からの称賛は、僅かな気恥ずかしさと、嬉しさが込み上げて来るモノだ。
 同時に、そんな英雄が過剰過ぎる謙遜な態度と腰の低さに、苛立ちと僅かな失望もあるのだった。
 しかしそんな事は士郎の勝手だと理解位はしているので、納得は出来なくとも何も言わないのだ。

 「――――腰が低いのう。白龍皇を撃退したんじゃ、少しくらい図に乗ってもいいと思うぞい?」
 「い――――」
 「無駄だぜ爺さん。そいつの腰の低さは筋金入りだろう、よ、とと」

 勝手に本人の代わりに答えるアザゼルだったが、脇に抱えていた書類の中から数枚落としてしまう。
 それを、風の北欧魔術を使って書類の下から木枯らしを起こして舞い上がらせて、自分の掌に導く。

 「ほれ、アザ坊――――」
 「サンキュー・・・・・って、如何した?」

 オーディンが見ているのは、アザゼルが落とした書類の中の一枚に乗っている、ある人物の写真だった。

 「こ奴は・・・Kraじゃないか」
 『!!?』
 「爺さん、Kraの事知ってるのか!?」

 オーディンの思わぬ言葉に、堕天使領襲撃を聞いていた或いは報告などで知り得ていた者達は、全員大いに驚いた。

 「何じゃアザゼル、お前Kraの奴の事を知らんのかい。確かお前たちのとこの三すくみの戦争前は、聖書の神もその側近のミカエルも知っておったはずじゃぞ?まぁ、Kraから聞いていた話なんじゃがな」
 「初耳だぞ!というか、ならどうしてミカエルから連絡が来ない!Kraと言うキーワードは送っておいたはずだ!!」
 「それを儂に言われてものう・・・。ん~じゃが確か、あ奴は色々な名があったはずじゃ。もしかすれば、別の名で名乗っておったのかもしれんな。写真を送れば返事をよこすんじゃないか?」

 オーディンの助言と提案に感謝したアザゼルは、そうしとくと返事をした後に、ミカエルに写真を送る様に携帯機器を操作し始めた。

 「・・・・・・一応聞いとくけどよ、他に何か知ってることあるか?」
 「知ってることと言われてものう・・・。後他には――――」

 その2人をよそに、士郎達は士郎達で会話をしていた。

 「一気に話が広がりましたわね」
 「ええ。しかも謎の敵の情報が、ここにきていきなり入るとは・・・。そこまで幸先は悪くないわね」
 「確かにな。だが――――って、何してるんだ?ゼノヴィア」

 ゼノヴィアは何故か、士郎の匂いを嗅ぐような行動をしていた。
 そして――――。

 「士郎さん・・・」
 「な、何だ?」

 まだ何も言われていないのに、今迄の経験から脳内で警鐘が鳴りだしたのか、思わずたじろぐ。

 「士郎さんは日程を変えられないほどの大切な用事があって、私たちのレーティングゲームを観戦出来なかったんですよね?」
 「あ、ああ・・・」

 ニゲロニゲロと警鐘がさらに強く鳴り響くが、此処で何の理由も何に逃げるわけにはいかなかった。
 何より来たばかりだし。

 「だったら如何して士郎さんの体から、女性ものの香水の匂いが纏わり付くように匂うんですか?」
 「え?」
 『・・・・・・・・・え?』

 ゼノヴィアの思わぬ疑惑に、士郎も含めた皆が虚を突かれたように固まる。
 因みに士郎の脳内の警鐘だけは、激しく鳴り響き続けていた。
 そして疑惑の眼差しで士郎を見るゼノヴィアの目は、据わっていた。
 まだ半年も経過していない間だが、ある程度士郎の事は理解出来ていた。
 少なくとも身だしなみとしてなら兎も角、オシャレ感覚で香水をつける人では無いと言う確信を持っていた。女性が好んで使う系の香水なら直の事。
 固まっていたメンバーの中でいち早く起動した小猫が、ゼノヴィアと同様に士郎の周りの匂いを嗅ぎだした。

 「・・・・・・・・・・・・ホントです。士郎先輩から香水の匂いがします」
 「小猫、それホント?」
 「はい」
 「どういうことですか?士郎君」

 小猫の確認の返事に、士郎の周りのメンバー――――特に女性陣の語尾が強く、ゼノヴィア同様に目が据わっていた。
 この事に士郎はハッとして思い出したのだ。
 冥界に戻ってくる直前までライネスのデート(買い物)をしていた際は、士郎に甘えるようにかなり密着――――具体的には腕を絡めるのは当然の事で、時には自分の胸を押し付けるようにもしていた。
 士郎は鈍感なので、それが異性への好意からの積極的なアプローチだと気づけなかった。
 兎に角、その時のライネスが士郎に纏わり続けた結果、ライネスが付けていた香水が士郎にも纏わり付いたのだった。
 そして正確に事情を把握できた時にはもう遅かった。

 「如何いう事か」
 「説明して」
 「貰いますよ」

 『士郎(君・先輩・さん)♡』

 周りを完全にふさがれた状態、所為四面楚歌で逃げ道が消えていた。
 そこから士郎は地獄だったらしい


 -Interlude-


 テロ対策のための会談前に、医療施設から堕天使領の研究施設に一度帰還していたアザゼルは、ミカエルと通信越しで話し合っていた。

 「アナザー・・・・・・ねぇ。お前や聖書の神の前では、本当にそう名乗ってたのか?」
 『ええ、そうです。まさかアナザー殿がテロに加担しているなど、信じ難いですが・・・』
 「・・・・・・・・・」

 ミカエルの口調と声音から、今は亡き聖書の神も含めてかなりの信をKraに置いていた事をアザゼルは察した。

 「事実は事実だ。それで奴の居所とかは知ってるか?」
 『申し訳ありませんが・・・』
 「知らねぇか・・・。いや、ワリィ。駄目元で聞いたようなもんだから気にすんな」
 『いえ』

 アザゼルの気遣いをミカエルは、素直に受け入れる。

 「それにしても俺らの神は、よく仮面を被っている様な怪しい奴を信じたな?」
 『同意します。確かに当時の私は、我らが神の前で素顔を曝さないなど疚しい事があるのではないか?と思いましたが、我らが神の態度でそれは杞憂であったことが解りました。さらに、その疑心により堕天しかかっていた私を、翼に触れるだけで発作を鎮めてくれたのです』

 自分たちの元主と肩を並べていたKraにアザゼルは、ますます疑心と興味を惹かれて行った。

 『これ以上で私の知り得ている情報はありません。後はテロ対策で、オーディン殿以外の方々が何か知っていることに期待するしかありませんね?』
 「・・・・・・だな。取りあえず通信切るぜ?」
 『ええ。ではまた』

 そう言って2人の通信は終わった。


 -Interlude-


 此処はアジア最大神話勢力の主神がいる聖地、須弥山。
 そこにはいつもとは違い白いフードを着ているKraと戦の神、阿修羅に勝った武神、帝釈天ことインドラが向かい合っていた。

 「HAHAHA!冥界じゃあ大いに暴れたそうじゃねぇか、Kra(アナザー)!」
 「その噂は私の耳にも届いているが、誤解だ。私の名を騙る(・・)輩のせいで迷惑している」

 インドラの聞いた噂を、即座にしれっと否定するアナザーことKra――――など、彼を知る存在達からは知られている呼ばれる名だが、どれもこれもが偽名でしかなかった。
 まぁ、彼からすれば些細な事でしかないのも確かだが。

 「割りには迷惑そうには見えねぇけどよ?まぁ、建前何ざ今更どうでもいいんだよ!それよか、ビジネスの話にしようぜ?俺が依頼していたのはどの程度まで進んだ?」
 「インドラのは40%でハデスは60%だ」
 「俺の《・・》って、聞いたんだぜ?ハデスの爺さんの方は聞いてねぇぞ?つか、何で俺の方の進捗率よりハデスの爺さんの方が上なんだよ?」
 「勿論、進捗率の速度を上げるための追加の等価を払ったからだ。同じにして欲しいなら、お前も払えばいい」

 これでもインドラの態度は、見る者が見ればそれだけで昇天して仕舞いそうなほどの殺気とプレッシャーを放ちながら話しているが、当のKraは相変わらず淡々とした様子だ。
 まるで恐怖と言う“感情”がない様だ。

 「HAHAHA!俺を前にしてのそのマイペースぶりは、相変わらずすぎて称賛に値済んぜ?」
 「称賛している余裕があるのか?禍の団(カオス・ブリゲード)の内の一派を率いているのは曹孟徳の子孫、お前のとこの奴だったはずだ。他から白眼視されるぞ?」

 皮肉に対しても淡々と受け流すKra。

 「その時はその時だ。――――んじゃ、追加発注すっから頼んだぜ?俺はこれから表向きのテロ対策へ向けて、ゼウスのクソ親父やオーディンのクソ爺に聖書の鳥類や哺乳類どもとの会談だ。メンドクセェ」

 そう言い残してその場から歩いて去ってしまった。
 Kraも何時までも残る理由など無いので、帰還のためにまた音も転移魔法陣も無く、その場からいつの間にか消えていた。
 残ったのは、最初にインドラの付き人が出したお茶と茶請けだけだった。


 -Interlude-


 既に夏休みの後半を切っていた日、士郎や一誠達はグレモリー家本邸前の駅にて夏と冥界との別れをしていた。 
 士郎は今だに心なしか、疲れが溜まっているようだったが。
 そんな士郎に、一誠達との別れを忍んでいたグレモリー公爵とヴェネラナ夫人が来た。

 「疲れている所すまないが、少しいいかい?」
 「あっ、はい」

 グレモリー公爵に話しかけられた士郎は、慌てて即座に立ち上がった。

 「今回の帰郷(こと)で、リアス達の特訓とテロリストたちの撃退の協力も本当に有り難う。士郎君やご友人の方々が居なければ、如何なっていたか分からなかったよ」
 「当然の事をしただけなのでお気になさらず。それにあのモードとレウス(2人)はどちらかと言えば好戦的な方なので、不謹慎な話ですがそれなりに楽しめた筈ですから礼には及ばないかと」
 「相変わらず謙遜過ぎますわ。ですけど、その様に言ってもらえると安心ですわね」

 士郎の建前では無い本心からの気遣いに、2人とも安堵する。

 「しかし、何所までいっても君は人間で私たちは悪魔だ」
 「貴方、何を?」

 お礼から一転、不躾すぎる夫の言葉にヴェネラナは怪訝さに眉を歪ませる。

 「いや、違うのさ。私が言いたいのは種族や価値観の違いもあれど、これからも如何かリアス達をお願いしてもいいかい?と言う我儘なのだよ」
 「切り出し方が紛らわしいわよ?」
 「そうかい?」
 「これは調きょ――――お仕置が必要ですわね・・・」
 「ま、待ってくれ!?そんな気は微塵も無かったんだ!だから如何か話を――――」
 「ごめんなさい、士郎さん。私たち《・・》、少々これからすぐに用事(・・)が出来――――作ったので、これにて失礼しますわね。それと如何か不束な娘ですけど、今後ともリアスと言い友人関係をお願いしますわね」

 士郎の返事も聞かずに夫は引きずりながら城に戻っていく夫人。
 引きずられながら言い訳をする公爵は、視線が重なった士郎に助けを請う。

 (士郎君、如何か助けてほしい!私に出来る事なら何でもするから!!!)

 切実な公爵のアイコンタクトに、士郎の返事はと言うと――――。

 (強く、強く心を持って生きて下さい)
 (そんなーーーーーーーーーー!!!?)

 公爵の一縷の望みを迷いなく断った士郎は、十字を切ってから祈りながら考えていた。

 (折檻の執行に処される時に、母さんに引きずられていく父さんと同じだ。あーー、だから授業参観の日の夜にあんなに父さんと意気投合していたのか、グレモリー公爵は・・・)

 公爵が城の中にまで引きずられて行き、扉が閉まるまで士郎は公爵の生きざまを見続けていた。
 そこに、サーゼクスとの挨拶を終えたリアスが来た。

 「あら?士郎。御母様と御父様は?」
 「急遽やることが出来たと、お帰りになったよ」
 「こんな時に?何かあったかしら・・・」
 「詮索しないであげてくれ、公爵閣下の名誉のためにも」
 「?」

 リアスは士郎に言葉の真意が判らずに、ただ首を傾げていくだけだった。
 その後に、グレイフィアとミリキャスには直接挨拶をしてから、列車に乗り込んで冥界を後にする士郎だった。


 -Interlude-


 「さぁ、士郎!親友である私との別れの抱擁をしようでは無いか!!」
 「父様、士郎さんならリアスお姉様と一緒に列車に乗って行かれましたよ」
 「・・・・・・・・・」

 残酷な現実に、真実を告げた自身の息子ミリキャスを、無表情で見下ろした。

 「私とミリキャスには直接の挨拶をして行かれましたわ。魔王様には私の方からよろしく伝えてほしいと伝言を賜りました」
 「・・・・・・・・・・・・」

 残酷なる仕打ちに、グレイフィアを一度見てからワナワナと、手を震わせる。

 「次こそは、次こそはッッ!!」
 「母様?父様は如何したんでしょうか?」
 「見ちゃいけないわよ、ミリキャス」

 去って行った列車目掛けて叫びサーゼクスに、不思議そうな顔をするミリキャスとため息をつくグレイフィアは、夫を残して給仕達と執事達を連れて城に戻っていった。


 -Interlude-


 人間界に戻る列車の中で、皆思い思いに過ごしていた。
 1人一誠は、手つかずだった夏休みの宿題をリアスのアドバイスに時折頼りながら熟していく。
 そして士郎は、何故かゼノヴィアに腕を絡められながら横からくっ付かれていた。

 「ゼノヴィア、近いんだが・・・」
 「駄目です。これはマーキングの上書き行為なんですから!」
 「マーキング?何の話だ?」
 「鈍感な士郎さんには期待してません!いいから大人しく私のこの行為を受け入れてればいいんです!!」
 「・・・・・・」

 言いたい事はあったが、どうせ何時もの暴走の類だろうからそのうち収まるだろうと、為すがままに体を任せるように諦めた。
 結局、人間界に着くまでゼノヴィアは士郎から離れる事は無かった。


 -Interlude-


 人間界側の地下ホームに到着してから、忘れ物が無いかなどチェックしてから最後に降りた士郎だったが、最初に目にしたのはアーシアを庇う様に彼女の前に立つ一誠に、傷の入った自身の胸元を彼女に見せつけている悪魔の貴族と思われる変態がいると言う、いきなり残念な光景だった。

 「なんでさ」

 思わず何時ものセリフを士郎は零した。
 もうすぐ夏が終え、秋に移り変わりそうになるこの時期にも、彼らの周りは騒ぎに事欠かなかった。
 士郎と一誠の波乱な日々はまだまだ続く――――いや、今だ前章とも呼べぬような陰りを思わせる一幕だった。 
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