魔界転生(幕末編)
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第27話 三途の川での死闘
四朗が龍馬を発見したとき、すでに龍馬はこと切れていた。
(ちっ、遅かったか)
四朗の顔が苦渋に歪んだ。何故なら、龍馬の生きたいという意志がなければ転生は叶わない。たとえ、龍馬が薬を飲んでいたとしても、その意志がなければ転生はできない。
人の生きたい。もっと、別の人生があったのではないかという強い思いは死を感じた時こそ、強く出るものなのだ。
それを利用した忍法こそ「魔界転生」なのだ。
四朗は島原の乱で死に、ともに戦った軍師・森宋意軒の魔界転生で蘇った。そして、その術を伝承されたのだ。
(この術は私の身にも危険が及ぶが、致し方なしか)
四朗は懐から黒い鞭のようなものを取り出し、龍馬の首へ絡ませた。そして、その先端を割られた額の傷口へと突っ込んだ。
龍馬の脳しょうの感じが手にかんじる。
「これでよい」
四朗はふっとため息をついた。
「今、この四朗めが、迎えにいきましょう。坂本龍馬殿」
四朗はゆっくりと目を閉じた。
「忍法・髪切り丸奥義、魔界通鎖縛」
四朗はカッと目を見開き、気合を込めた。
四朗の目の前には草木も生えていない河原であり、灰色の世界が広がっていた。
(どうやら、うまく行ったようだ)
四朗は頷き、その河原を歩きだした。
魔界通鎖縛とは、どうやら自らの魂を魔界と繋げるものだった。
しばらく、歩いていると川をみつけた。そこには、一槽の船が浮かんでいた。
そして、その前には大勢の人間はたまた動物、いろいろな魂と化したものどもが
言葉もなく吠えもなく、ただただ、長蛇の列をなしていた。
(これはことだな)
が、四朗をにやりと微笑むと、胸の前で逆十字を描いて、目を閉じた。それと同時に念を込めて呪文を唱えた。
「エロイムエッサイム、エロイムエッサイム・・・・・・・」
再び目を開くと赤く光っている人の形をしたものを発見した。
(あそこか)
四朗をそれに向かって走り出そうとした刹那。
「おい、お前、何をやっているのだ」
後ろから声がした。
(動かなければ、やられる)
四朗はとっさに横に飛び、身をひるがえした。そこには、巨大な鬼が棍棒を振りかざし、今まさに打ち下ろそうとしていた光景だった。
「ちっ!!」
四朗は黒い鞭のようなものを取り出すと、今後はその鞭のようなものを広げ、自らに繭玉のようにして閉じこもった。
鬼が撃ち込んだ棍棒の力が衝撃波となって襲ってきた。何人かも魂がその波によって消滅した。が、四朗は、その繭玉に包みこまれたがゆえに無事だった。
「馬鹿力めが!!髪切り丸奥義・旋回斬」
四朗は天高く飛び上がり、黒い鞭のような物の全身に纏わり付かせると一気に引いた。
鬼は悲鳴を上げ、まるで輪切りに切り裂かれた。
四朗はその有様をみることなく、龍馬の元へ走り出した。
四朗は龍馬の元に辿りつくまでに、様様な怪物や化け物たちに遭遇した。
最初の鬼、そして餓鬼共。百鬼夜行に魑魅魍魎達。
様々な奥義を尽くし息も絶え絶えにようやく龍馬の元に辿りついた。
必殺の髪切り丸もすでにぼろぼろになっていた。
「坂本龍馬殿ですね?」
四朗は龍馬に尋ねたが、龍馬の反応はなくただただ前を見据えているだけだった。
「いっしょにきてもらおう」
四朗は龍馬の手を引いたが微動だにしなかった。
龍馬の足もとをみると何本もの手が龍馬の足を押さえつけていた。
四朗はぼろぼろの髪切り丸でその手を打ち据えたが、次々を現れ消え現れ消えとイタチゴッコだった。
「龍馬殿、あなたはまだ死ぬにおしい人だ。我らに手を貸してほしい」
四朗は叫んだ。
「あなたの願いはなんですか?こんなことで終わってよろしいのか?龍馬殿!!」
四朗は無反応の龍馬の肩を必死に揺さぶった。
「わしの願い?」
龍馬はぼそりとつぶやいた。
「その通りです。生きたいと思いませぬか?今までとは違う生き方をしたいと思いませぬか?」
四朗は畳み掛けた。龍馬の意志が生きたいと願うなら転生は可能だからだ。
「今までと違う生き方・・・・・・・・・」
まっすぐにしか見ていなかった龍馬が四朗を見つめた。
「わしゃ、生きたいぜよ。自由に生きてみたいぜよ」
そう言い終わると龍馬の魂の元に光がさした。
(いまだ!!)
四朗は逆十字を切ろうとした刹那、船を漕ぐかいが四朗の頬をかすめた。
「そこまでだ。霊界を狂わす者よ」
船頭の姿をした一つ目の化け物がゆっくりと四朗の元へとちかづてきていた。
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