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廃水

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3部分:第三章


第三章

「今度は方状君がか」
「はい、またです」
「探していて何時の間にか」
「三人目か」 
 工場長はそれを聞いて深刻な顔にならざるを得なかった。
「これで。しかも探している人間がか」
「当然溶接炉には落ちていません」
「というよりですよ」
 工員達は焦り狼狽した顔で工場長に話す。その言葉が今の状況を何よりも雄弁に物語っていた。
「一緒に探している人間が方状から目を離したらですよ」
「俺です」
 その一緒にいた工員が言ってきたのだった。
「俺が振り向いたらもうです」
「いなくなったのか」
「はい、本当に気付いたらです」
「何なんだ」
 工場長は今度は溜息だけでは済まなかった。
「三人か。しかも急に消えた」
「何かあるんですか?若しかして」
「この工場に」
「それはわからないが」
 工場長もここまではわからない。わかる訳もなかった。
「しかしだ。おかし過ぎる」
「そうですよね、僅か二日で三人ですよ」
「行方不明なんて」
「それだ。そうだな」
 ここで工場長は真面目な顔になり。そうして工員達に言うのだった。
「ここはだ。一人での行動は慎むことだ」
「一人ではですか」
「さっきのは振り向いたらもういなくなっていたんだな」
「そうです」
 語るのはその時の相方だった。彼は言う。
「本当に一瞬だったんですよ、一瞬に」
「一瞬か」
 工場長はそれを聞いてまた考える顔になった。コンクリートと鉄筋で造られた工場の中で不気味な緊張が漂い続けていた。
「一瞬で消えたんだったな」
「そうなんですよ。ただ」
「ただ?」
「何か匂いが残ってました」
 ここで彼はこうも言うのだった。
「何か強烈な酸味臭が」
「酸味臭がか」
 工場長はその言葉を聞いてまた考える顔になった。
「この工場にそんな薬品は置いてないんだがな」
「ですよね、硫酸とか塩酸は」
「そんなのはちょっと」
「そうだ。それでその臭いか」
 不審に思わずにはいられなかった。そんなものが工場にないのはわかっているからだ。それでその臭いがしたということがわからないのだ。
「おかしいな」
「ですよね、やっぱり」
「何なんでしょうか」
「とりあえず一人での行動は駄目だ」
 工場長はまたこのことを皆に告げた。
「いいな、常に何人かで行動することだ」
「わかりました、それじゃあ」
「そういうことで」
 とりあえずはこういうことになった。工員達だけでなく工場長もまた数人で行動することになった。そうして何人かで行動していたがそれでも。次の日にはまた行方不明者が出てしまったのである。
「今度は木村君がか」
「はい、トイレに行ったらその中で」
「消えていました」
「今度はトイレか」
 工場長はそれを聞いて再び苦い顔になった。
「トイレは一人になる。とはいってもだ」
「はい、俺達がいました」
「ちゃんと」
 その木村という男と一緒にいた工員達が工場長に話す。
「それでもです。大の部屋に入ったら」
「もうそれですぐに」
「トイレでまでか」
 工場長はここでまたわからなくなってしまった。
 
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