左道の末
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3部分:第三章
第三章
「して魔道を使えばじゃ」
「どうなるというのですか?」
「それは」
「先にも言ったな。もうすぐわかることじゃ」
またこう言ってみせた信長であった。
「それだけじゃ。今は」
「では今は」
「我等は」
「見ておくのじゃ。よいな」
「はい、では」
「そうさせてもらいます」
「また寝る」
信長の今度の言葉は造作もないものであった。
「よいな」
「はい、それでは」
「お休みなさいませ」
「次だな」
信長は寝る前に静かに話した。
「次で終わる」
「次で、ですか」
「といいますと」
「それもおいおいわかる」
信長は至って穏やかな顔であった。次第に眠りに戻っていっているのもわかる顔であった。
「それではな」
「畏まりました」
小姓達にとっては信長はまさに絶対者である。実際に彼は口応えなぞしようものなら即座に手打ちをするような人間である。何も言える筈がなかった。
そのまま眠る信長であった。その次の日。近江をさらに進み休憩で簡単な陣を敷きそこで家臣達とこれからのことを話し合っているとだった。ここで。
「むっ!?」
「何故狼がここに」
「まさか」
「そうであろうな」
何と陣中に狼が出て来た。その黒い不気味な狼を見て驚く家臣達に対して信長は冷静に言うのだった。
「兵達が守りを固めているのにここまで大きな狼が入られる筈がない」
「それではやはり」
「殿、お下がり下さい」
「ここは我等が」
家臣達は一斉に立ち上がりその刀に手をかけた。そのうえで彼の前を固めようとする。だが信長はここでその彼等に告げるのだった。
「よい」
「よいとは!?」
「まさかここで」
「わしに向かわせるのだ」
そうしろというのである。
「よいな」
「それではここは」
「そうされるのですか」
「見ておるのだ。よくな」
信長は己の上座から動こうとはしない。椅子に座ったままである。ただその狼を凝視したままだ。やはり動こうとはしないのであった。
そうしてだ。その姿勢で狼を己の前に進ませた。狼は禍々しい赤い目で彼を見据えながら来た。そうしてそのうえで彼に襲い掛かって来たのだった。
だが彼の手前で消えた。烏や蛇と同じであった。
「消えた!?」
「また」
「結界ですか」
「左様、それじゃ」
まさにその結界によってだというのだ。
「また守られたのじゃ。そして」
「そして?」
「もうじゃな」
また言う彼だった。
「もうわかってくることがある」
「といいますと」
「それは」
「越前に入る頃に早馬が届く」
信長は何でもないといった口調で話し続ける。
「さて、ではまた兵を進めるぞ」
「はい、それでは」
「これよりまた」
家臣達も頷く。まずは浅井勢の篭る小谷城を完全に取り囲んだうえで信長が自ら先陣となり越前に攻め入る。その時に彼が言った早馬が来た。
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