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MÄR - メルヘヴン - 竜殺しの騎士

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034話

「勝って来たわよ!」
「本当に凄かったよドロシー!」
「修練の門であんな凄いの身につけてたんだな!!」

勝利を引き下げて戻ってきたドロシーを皆は祝福していた。単身でガーディアンARMなどを一切使わずにガーディアンに深手を負わせる事が出来る人物など数少ない。それ程の実力になった彼女は非常に頼もしい。

「ったく近接戦が出来る魔女とは恐ろしくなったもんだぜ……」
「むふぅ~ん、ドロシーちゃんは更に強く可愛くなっちゃったのだ!」
「唯ゴツくおっかなくなっただけじゃねぇか」
「よぉ~しそこに直れ糞親父!私の一撃味合わせてやる!!ジーくん手伝って……ジーくん?」

何時もなら直ぐにでも反応してくれる自分の声に全く返ってこない愛する彼の声と姿。全員が振り向きフィールドの方を向くとそこに居たのは―――騎士だった。たった一人の騎士として、剣士としてこれから剣を交え戦う男。一直線に見据えられた視線の先に居るのはカルナ。これより始まろうとしているのは戦争の真似事では利かない―――神話の戦いである。

「―――さあ来い。竜殺しの騎士(ジークフリード)よ」
「ああ。今行くさ施しの英雄(カルナ)

一度言葉を交える。冷気を絡ませたような冷え冷えとした声がフィールド全てに木霊する。

「じゃあ行って来る」
「―――うん、いってらっしゃい」

ドロシーともう一度抱擁を交わし至極冷静な意思を持ちながら跳躍、巨大なキノコを踏みしめ降り立った戦いの場。

「待たせたな英雄(サーヴァント)。俺は、この時を待っていたのかもしれない」
「奇遇だな騎士よ。俺もこの時を待っていた」

自然と口角が上がり笑みを浮かべる。これより演じるは死闘の極地、戦士として行われる究極の一の一つ。

「メル ジーク! チェスの駒 カルナ!!試合開始!!」

試合開始を告げると何処かへ逃げていくポズン。彼も理解しているのだ、これから行われようとしている戦いの規模が今までの比ではない事に。

「このまま一気に戦いをするのも悪くは無い。俺の主からの命はお前を死なない程度に蹂躙し我が元に連れて来いという物だが正直それは難しいだろう。お前の圧倒的な力の前に俺も全力を出さずには居られないだろう」
「圧倒的な力という寧ろ貴殿の方だ、マハーバーラタの不死身の英雄。お前の力に比べれば俺の竜殺しなど取るに足らぬ事柄に過ぎぬ」
「我が身は太陽神と人間の間によって産み出されたものだ。神という天上の力がある。だがお前は人間の身で幻想の頂点の竜を滅ぼした男だ、誇るがいい」
「お前からしては褒めているのかも知れんが俺からしたら嫌味だがな、まあ受け取っておこう」

不思議な会話が続く。だが

「―――命令とあらば従うとしよう我が主たる女王よ。我が槍の猛威を持って竜殺しの英雄をお連れしよう」

主たるマスターから念話が飛んできたのだろう、催促の声が。その手に具現化するは槍、魔力の火炎を纏い振るう度に更に強く燃え上がる槍。対するは竜殺しの大剣、空気さえも両断するその切れ味が炎を断つ。

「我が主の欲望が世界を覆いつくすまで消えぬというのならば俺は世界へ続く扉になるだけ」
「さあ―――始めよう」

雄たけびも裂帛の気合も無く戦いは始まった。されど二騎の闘志は灼熱よりも熱く深い。ここに―――サーヴァント対サーヴァントの戦いが始まった。

静かに切り結ばれた剣と槍は爆風を巻き起こし両陣営の待機メンバーを戦慄させた。未だ互いが振るった攻撃はたった一撃、それだけでこれほどまでの衝撃波を発生させる両名の実力に。撓る弓のように惹かれた腕が一気に伸ばされ槍が迫ると同時に身体を捻り槍の軸線場から身体を動かす。

「伏せろォ!!」

アランの怒声が響く、同時にその身体全員の体を強引に伏せさせた。そして彼らの頭部あった同じ高さの壁に深々と風穴が4つ開いた。

「な、何が起きたんだ!?」
「仕込み武器でもあったのあの槍!?」
「否あれは突きだよ!突きが飛ぶなんてどんな筋力してんのよ!?」

飛ぶ突き。カルナの筋力から放たれた一撃はその槍が届く範囲を飛躍的に伸ばしている。遠くに居ようがその槍に捉えられない物などない。切り合いを再開するかと思いきや両者、一歩後ろへと下がる。

「指し分けだな」
「だな」

互いの武勇を称えての笑みが出る。同時にチェスの駒の陣営近くの壁が吹き飛ばされ光が注ぐ。斬撃を飛ばすという事はジークにとっても得意な事。既に両者にリーチの問題などない。

「「―――ッ!!」」

再度風が駆ける。常人では目で追えない程の速度で大地を駆け、間合いを詰め切り払いを捌き切り上げるジーク。相手の長い槍を戻すという僅かな時間のロスを付き一閃。通常ならこのタイミングで対応する事など出来る訳が無い、出来る訳が無いはずなのに。手首で槍を回転させ一閃を弾き一気に槍で攻勢をかける。上段からの突きを受け止めそこから派生する薙ぎ払いを身体を反らし回避。最低限の動きを心掛けて大剣を操作し前へと進み、その腹部に剣で斬り付けた―――と同時にジークの首筋を槍が這った。

僅か10秒と言う短すぎる時間の中で優に100合を超える果し合いを果たしていた二騎。他のメンバーにはまったくその戦いの全貌を把握する事が出来なかった。互いに光の線が無数に向かい襲い掛かっているとして映りこんでいなかった。

「傷が浅いな。その身体に刻み込んだ槍は既に50を超えたと思っていたが」

50を超える槍をその身に刻み込んで尚向かい続けてくる圧倒的な力。竜殺しの英雄が竜を討ち取った事で得た呪い 悪竜の血鎧(アーマー・オブ・ファヴニール)。その力によりランクAに匹敵するカルナの一撃は軽症で済まされている。

「それは此方の台詞だカルナ。その鎧、貴殿の真の宝具ではないにしろ中々の業物だ」
「ふむ、看破していたか。すまない、鎧が無いのはお前を侮辱している訳ではない」

斬り合いながら身体に傷を刻み理解した。あの黄金の鎧はカルナの宝具ではない物だと。あの鎧が宝具であるならばあの一撃程度で亀裂など走らない。

「鎧はマスターに捧げた。やはりあれは極上の一品のようだ、我が身を褒められるように嬉しく思う」
「そうか。だがそれでも俺に勝てるとでも」
「確かに最高の防御は剥がれた。ならばこの世界の流儀に従うとしよう。ガーディアンARM ガルーダ」

手首に装着していたARMを発動したカルナ。それは人の姿でありながら異形の守護者、鋭利なナイフに勝る爪を持ち背中には複数の翼を持った異人。

「マスターより賜った物だ、遠慮無く使わせて貰う」
「なら俺も全力で行かせて貰う!ガーディアンARM ファヴニール!!」

刹那、ジークの背後の空間が罅割れていく。罅から赤黒い光が漏れ出しそれは憎悪、殺意、怒り。様々な負の感情を凝縮した物のような邪悪さ。だが同時に懐かしささえ思い出させるような光が満ちてくる。

「くぅ……いきなり、持って行くわねぇ……でもまだ余裕よ」

いきなりごっそりと減っていく自分とジークの魔力に苦言するドロシー、だがまだ余裕の範疇内。これからが厳しくなる、必死に魔力を生産し供給しなければ。

「―――ほう。これがかの悪竜か」

初めて目にする竜種にカルナも思わず感嘆の言葉を漏らす。その巨大さと満ちている力と邪悪すぎる魔力、そしてこれを討ち取ったというジークフリート(オリジナル)に。だがそれは目の前に居るジークに対する侮辱ではなくこうして従えていると言う今の彼を称えているつもりでいる。

『ほう………此度は楽しめそうだな』
「好きに暴れろ。魔力は足りているか」
『………女の魔力を感じるな、成程……。これならやれそうだ』
「来るか悪竜」 
 

 
後書き
すいません前後編に分けます 
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