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26歳会社員をSAOにぶち込んで見た。

作者:憑唄
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第十一話 十二月

 
前書き
ソードアート・オンラインの二次創作、第十一話となります。 よろしくお願いします。
本当に遅くなって申し訳ないです。
リアルの方が残業早出だったり、バイクがぶっ壊れたりしてかなり忙しかったという言い訳をさせてください……。
今回かなりの大ボリュームになっていますが、前回から比べると、雰囲気はほのぼのです。
3時間ずっとタイピングし続けていたら肩が痛くなりました……。
今回、結構メタ発言多めです、申し訳ないです……。 西尾さんに影響されました……。
あ、それと十話の表紙をアップしておきたいと思います。
ニコニコの方→//www.nicovideo.jp/watch/sm19174284 後半もアップしました! 

 

 12月24日。
 クリスマスイヴの今日。
 俺はエロゲーやギャルゲーの主人公よろしくヒロインと甘い日々を過ごしているわけもなく。
「っしゃっせー!」
 何故か、酒場の店員をやっていた……。
 しかも周りはカップルが多い。
 通常、ここでラノベ脳の人間ならば、従業員の子とフラグが立つとか思ったりするだろうが。
 残念ながら、今この酒場の従業員は全て男である。
 どうでもいいが、俺はノンケだ。
 そういう趣味はないし、別に好んでこんな状況になってるわけじゃない。
 そもそもこうなった原因は、天乃にある。
 先日、まぁ23日の昼。
 唐突に、天乃に頼まれたのだ。


「ごめん、明日は店手伝って、ホント、人手足り無すぎてヤバいんだよ」
 そんな言葉に、俺は疑問を覚える。
「人手足りないって、桜花とかレイカがいるだろ」
 当然の如く俺がそう口にすると、天乃は肩を落としながら言葉を放つ。
「いやね……ウチの女性陣は、明日みんな予定あるみたいなんだよね……。
レイカとスユアは女子会とか言ってパーティ行くらしいし、玖渚は明日はサンタさんが来るから早く寝るとか言い出すし……」
 サンタさんが来るって……。
 ここゲーム内だぞ。
 まぁイベントでそういうのがあるかもしれないけどな。
 この頃NPCがそういうイベントの情報を言ってたし。
 情報屋と繋がってる玖渚ならもっと詳しい情報とか知ってるんだろう。
 どっちにしろ、今回のイベクエは俺はあんまり興味ない。
 クリスマスだからって盛り上がる歳でもないしな。
 そんなことより、だ。
「桜花はどうした? アイツなら嬉々としてやるんじゃねーの?」
 俺がそう口にすると、天乃は深いため息を吐いた。
「アイツは、この季節になると血が疼きだすとか言って、ここ数日は部屋に篭りきりだ。
なんか気持ち悪い本書いてる。 一回見せてもらったけど、理解の範囲を超えてた」
 ……なんとなくわかる自分が嫌になるな。
 少なくとも数日は桜花に近づくのは危険すぎる。
 ネタにされたらたまったもんじゃないからな。
「クーレイトとガンマさんは……いや、アイツらはやめておくか」
 そう、あの二人とは、どうもスラムの一件以来、距離を取ってしまっている。
 クーレイトもショックを受けていたようだし、ガンマさんも励まそうと必死だ。
 時間が経った今でさえこれだからな。
 暫くはそっとしておくのが得策だろう。
「まぁそんなこんなで、ウチのギルドで頼れるのはアルスだけなんだよ。
クリスマスくらい休業しようかとも思ったんだけど、ちょっと前から常連のお客さんから予約とかが入ってるんだよ……。
流石に断れない状況なんだよ」
 ……そう言われると、まぁ、そうなんだろうな、と思う。
「まぁ、わかった……。 俺の方からも応援を増やしておくか」
「悪いけど、頼んだ。 俺も出来る限りのことはするからさ」
 それだけ言って二人でため息を吐く。
 正直、この時から、俺は嫌な予感しかしなかった。


 そして今に至るというわけだ。
 因みに今の従業員は……。
「はいこちら生3つと樽ハイになりまーす! 追加でご注文は?」
 せっせと働いているのは、ギルマスこと天乃。
 手馴れてるな、と思う。
 学生時代にバイトで飲食店やったことあるらしい。
 ぶっちゃけ俺は学生時代のことなんか、最近断片的にしか思い出せねぇや。
「えー、お会計は合計で25k600コルですね」
 そして会計をやっているのはシャム。
 本当は本日、ギルドでイベントに参加予定だったらしいが、無理言って連れて来た。
 一応バイト代として、本日働いたら売り上げの4分の1を支払うという条件だ。
 それにアイツは、中世的な外見のお陰で、人からのウケはいい。
 因みに女装させてみてるが、全く気づかれてないようだ。
 ありがたい、本当にありがたいぞ……シャム!
 それ以外にも、俺のフレやら天乃のツテからの人手で三人が集まっているが……。
 まぁ、全員男だ。
 こんな男ばっかのムサい酒場ってのもどうかとも思うが……。
 というかウチの看板娘が全員いないってのもある意味詐欺だ。
 その分シャムに頑張ってもらわないと、だな。
 そんなことを思いながら、俺は仕事に励むのだった。


 店ももう閉店の時間に近づいてきた時。
 紺色の髪の、見たところ二十台前半から十代後半の女性が、一人で店内に入ってきた。
 ただの女性なら、俺達はスルーしていただろうが。
 その女性は、オレンジポインターだった。
 ……通常なら、オレンジポインターは街に入れないハズだが。
 まぁ来ている以上、何らかの手段を使って入ってきたのだろう。
 事実このエリアでNPCによって追い出されるということは無い。
 それに来ている以上は客だ。
 あくまでも、そこを変に突っ込まず、丁重な対応を取るべきだろう。
 そこで、従業員全員に目配せすると。
 全員、関わりたくないという視線を俺を見る。
 ……こりゃあ、俺が貧乏クジ引くしかないみたいだな。
 ここは諦めて俺が対応取ることにしよう。
「いらっしゃいませ、ご注文は?」
 俺は淡々とした口調で、その女性にそう声をかけると。
 女性は俺を少しだけ見た後。
「とりあえずカルーアミルクでいい。 そんなことより、お前」
 そこで一度区切られた後。
「業務が終わったら教えろ。 話がある」
 そんなことを、口に出した。
 ……なんだ、この嬉しくないお誘いは……。
 女性に誘われたことについては嬉しい。
 しかし、相手はオレンジポインター。
 少なくとも俺が知っているオレンジポインター及び、元オレンジはどいつもこいつも際物揃いだ。
 玖渚も緑になったとは言っても、未だに行動がよくわからない所が多い。
 この前なんか狩場に横殴りしてきたヤツに対してデュエルを申し込み、身包みを全て引き剥がそうとしていた。
 桜花はそれを見てゲラゲラ笑ってはいたが、俺と天乃が必死で抑えたお陰でなんとかはなったものの……。
 あのままだと結構ヤバかった。
 まぁそんなこんなで、オレンジにはあまり関わりたくない、というのが本音だ。
 しかし、下手に断ったら断ったで、PKされそうで怖い。
「……まぁ、自分でよければ話を聞きますよ」
 とりあえずそれだけ言って、その場を離れる。
 注文を伝えるべく天乃へと近づくと。
 天乃どころか、従業員の全員が俺の周りに集まってきた。
「おい、どうだった? PKの誘いとかか?」
「アルス、もしかして死んじゃうの?」
「君のことは忘れない! さようなら!」
 口々に俺が死ぬ前提で喋り出す従業員共。
 コイツら……!
「待て待て! 俺が死ぬって決まったわけじゃねぇって! とりあえず、注文はカルーアミルク!
話は俺が業務終わったら話あるってよ!」
 そんな俺の言葉に。
 その場にいた全員が一度黙ったかと思うと。
 天乃は神妙な顔をしながら俺を見つめた後、左腕で俺の肩をポン、と叩くと。
「……アルス。 君の今日の業務はもう終わりでいい。 カルーアミルク代はいらないから持っていけ。
本当にありがとう……君のことは、忘れない……ギルドのみんなにも言うよ。 君は、PKと戦って、勇敢に死んだって……」
 そう口にして、わざとらしく嗚咽を漏らし始めた。
 それに感化されたかのように、その場にいた俺以外の全員が、嗚咽を漏らす動作をし出した。
「ふ、ふざけんな! 大体、アイツがPKって決まったわけじゃ……!」
 俺も口ではこんな強がりを言ってはいるが。
 なんとなくわかる。
 あれはマトモなやつじゃない。 十中八九PKだ。
 そんなPK様から呼び出しが来てる以上、俺の運命は……。
 くそ……! そんなに簡単に死んでたまるかよ!
 俺はすぐにロビー装備からガチ装備に変更し、スキルスロットを入れ替える。
 アイテムの残数を確認し、天乃からカルーアミルクを分捕った。
「見てろよお前ら。 俺は死なないからな!」
 俺はそんな死亡フラグがビンビンに立っている台詞を吐き捨て、女性に向かって歩き出す。
 女性の前につくと、俺はカルーアミルクを音を立てないように置き。
 女性と対面になるように、椅子に座った。
「さて、業務は終わりました。 まずは貴方がソイツを飲んでから話でも聞くことにしますよ」
 あくまでも敬語で、そんなことを言うと。
 女性はこちらを少し見た後。
 冷ややかな笑みを浮かべ、カルーアミルクを口にした。
「成る程。 実に凡庸だ。 私がオレンジポインターだから、PKと思ったか。
PKと話す以上、殺されないように、こんな街中で本気で私と対面したか」
 冷ややかな笑みを浮かべながらそんな挑発をする女性に。
 俺はあくまでも、冷静を装い続ける。
「……ああそうだ。 否定はしない。 知り合いにいる元オレンジのやつもどっかおかしいやつだったからな。
こうして対面する以上は警戒させてもらうぜ」
 そんな言葉を口に出すと、女性はカルーアミルクを全て飲み干し、その場から立ち上がる。
「いいだろう。 ならばさらに警戒してもらおうか。 一度街から出てフィールドに行こう。
ここでは人目につく。 お前もここでいざこざを起こしたくないだろう」
「……そいつは同意だな。 まぁいい。 ついてってやるよ。 オレンジ」
 俺は相手が差し出してきたカルーアミルク代だけ受け取り、ソイツの指定するフィールドへと移動する。
 ……この御代は別にもらう必要はなかったんだが。
 まぁ、出されたからもらっておいた。
 これからPKされると考えれば、地獄への切符代にもなるんだろうけどな。


 案内され、ついた先は、明らかに人気の無い、夜の湖畔。
 月明かりだけが、俺とオレンジの女性を照らしている。
「……さて、それで俺に何の話がある」
 俺はいつでも戦闘に移れるように警戒しながら、そう口にした。
 しかし、女性の方は淡々とした態度で、俺を見ながら笑った後。
「ははっ、こちらが緊張するほどの警戒心だな。 まぁいい。本題に移ろう」
 そこで女性は一度区切った後、アイテムストレージを開き、なんらかのアイテムを取り出した。
 一枚の紙に見えるが……。
「私自信、お前に非常に興味がある。 攻略組、ギルド、ディラックの副ギルドマスター、アルス」
 そう言って、女性がその紙を裏返す。
 そこには、戦闘中の俺の写真があった。
「……何処から俺なんかの情報を取ったんだよ。 俺はただの一般的で、優良で、何処にでも居るような、普通の大剣使いだぜ」
「そうだ、お前は正直に言えば、ただの、一般的なプレイヤーに過ぎない。 それは、私が持っている情報にも載っている」
 そこで、女性は区切り、冷ややかな笑みを浮かべた後。
「だがな、注目すべきは、お前の周りの人間の死亡数だ。 お前のフレンド、または関わった人物。
それに関しての死亡率が非常に高い。 偶然かもしれないがな」
 ……痛いところをついてくるな。
 確かに、俺はフレンドをしているやつの死亡率がやや高い。
 数えるだけでも、サニー、ホイミ、黒猫団、スラム。
 それ以外にも、死んでいるやつらはそれなりに存在している。
 実を言えば、フレンドリストで生存しているのは6割で、4割は何らかの理由で死んでいる。
「死亡率が高いのは否定しないが、そんなもんは、ただの偶然だ。
俺が別に何かしたわけじゃない。 たまたま、偶然、死んでるやつが多いだけだ」
 サラッとそんなことを口にすると、女性はクスクスと笑みを浮かべ。
「まだ、それだけの理由じゃない。 こうやって私のようなオレンジの誘いを簡単に受けたり……。 過去、オレンジプレイヤーと交流を持っていたことがあったな。 確か、玖渚とかいう」
「……それがどうした?」
 俺が警戒しながらそう言うと、女性は再びクスクスと笑い。
「普通、オレンジと関わろうなんてプレイヤーは早々いない。 まして、こんな風について来るなど、正気の沙汰じゃない。 だが、お前はついてきて、その上、攻略組だというのにまだ生き残っている。
これは何か面白い考えがあるんじゃないかと思ってな」
 そんなコトを口にする目の前の女性に。
「別に面白い考えがあるわけじゃねぇよ。 俺はただオレンジだろうと人だから、イヤイヤながらも関わってるだけだ」
 そんな本心を伝えた。
 すると、女性はハハ、と軽く笑った後、口を開いた。
「まぁこの場はそういうことにしておいてやろう。 私の素性は詳しくは伏せさせてもらうが、とある事情でお前の情報を多数持っていてね。
調べれば調べるほど、お前という人間に合って、話をしてみたくなった。 ファンと言えば聞こえはいいのかな?」
「……勝手にストーカーされるのはいい気分じゃねぇな。 ファンってのも、間違ってるだろ。
大体、俺みたいなヤツのファンなんかしても意味ないだろ。 イケメンなら攻略組に幾らでもいるし、強いやつも幾らでもいる。
自分で言うのもなんだが、俺には魅力なんてないからな」
「随分と必死で否定してくるな、お前は。 いやしかし、話をすることは間違いじゃなかったようだ」
 女性はそう口にした瞬間。
 懐から、銀色に光る何かを取り出したかと思うと。
 その場から、文字通り、消えた。
 同時に俺は間髪入れず、剣を抜き、背後を振り向きながら剣を振るった。
 すると、その場に、激しい金属音が木霊し。
 俺の視界が認識した先には。
 ナイフで大剣と打ち合う、その女性の姿があった。
 ……コイツは、ヤバい。
 心の芯から来る寒気と共に女性と眼を合わせると、女性は口を三日月に曲げて笑う。
「中々どうして、素晴らしい。 経験から来るものか。 いや、この程度なら、攻略組なら誰でも出来るか。
益々気に入った。 その凡庸さ、その偏った異常さ。 もう少し観察させてもらおう」
「オイオイ、俺なんかを観察したところで得るものなんか何も無いぜ」
 あくまでも、表面上は冷静を装うが。
 心の中は、半分混乱していた。
 PKだという覚悟はしていたが、まさか本当にこうなるとは……!
 しっかりした装備で来て正解だった。
 さて……次はどう来る……?
 すぐに次の相手の攻撃を予測していたその瞬間。
 女性は、武器を仕舞った。
「……なんだ、もう攻撃しなくていいのか? PK?」
 俺が警戒しながらそう口にすると、女性は冷笑を浮かべた後、口を開く。
「ああ、別にいい。 しかし、PKと呼ばれるのは不愉快だな」
「なんだ、PKじゃないのか?」
「そこは秘密だ。 しかし、今後私を呼ぶ時は」
 そこで女性は区切った後。
 メニューを開き、なんらかの動作をした後。
 こちらにフレンド登録を要請してきた。
 名称……Heavens Door。
「天国の扉、もしくは、ヘヴンと呼べ」
 そんなことを、言ってきた。
 天国の扉……。
「……ドア」
「……なんだと?」
「いや、ヘヴンズドアだから、ドアって」
「……殺されたいか?」
 ちょっと場の空気を和ませようとした矢先にこれだ。
 結構マジに殺されかねないのでふざけるのはやめたほうがよさそうだ。
「いや、悪かった。 俺が悪かった! ちょっとしたジョークだ!
いや、ほら、俺結構フレンドにはフレンドリーに接する方だから」
「殺されないとわかった瞬間。 笑えるくらいラフになってくれるな。
いや、そういう凡庸さ、油断も興味深いところではある」
 そんなことを言いながら女性、いや、ドア、あ、いや、ヘヴンはこちらを見た。
 あんまり見ないでほしい、結構今でも怖いから。
 しかし視線を逸らした瞬間に殺されそうでもあるので視線を離すことは出来ない。
 とりあえず、ここは逃げることを考えたほうがよさそうだ。
 俺はフレンド登録を認証し、一歩だけ後ずさる。
「よし、話は終わりだな? 俺は業務あるから……」
 そう言って逃げようとした矢先。
 ヘヴンの体が一瞬ブレたかと思うと、一気に距離を詰め、俺の肩を掴んできた。
「まぁ待て。 業務は終わったと言っただろう。
それに今夜はクリスマスイヴ。 あまりフィールドに出ているやつもいない」
「だ、だからなんだ? あ、もしかして俺今、色んなフラグ立ってる?」
「主に死亡フラグは立っているな。 しかし回避はさせてやろう。
別に恋愛的な話でもない。 友情的な話でもない」
 俺が言おうとしていることを先に言われ、それなりに恐怖を感じる。
 リアルなら俺は喜んでるだろうな、聖夜に、湖畔で女の子と二人きり。
 しかもまだ帰さない宣言をされてる。
 だが、恋愛的も友情的もないと先に言われると……。
「俺を一体どうするつもりなんだよ……」
「言っただろう。 観察する、と。 今夜は少し付き合ってもらう。
まずは狩りからだ。 私は一般的なPT狩りというやつをしたことがないからな。 それを体験してみたい」
 まぁ、オレンジじゃ近寄るやつもPT組むやつもいないだろうな……。
「まぁ、わかった……。 しかし二人じゃ役割は限られているぞ」
 俺がそう口にすると、ヘヴンはふむ、と言って何か考えたような仕草をした後。
「ならば仲間を呼べばいいだろう。 そうだ、お前のフレンドに玖渚というやつがいたな。 あれなら来るだろ」
「あいつたぶん今の時間じゃ寝てると思うぞ。 サンタさんを待つとか言ってたから」
「何、サンタ……?」
 ヘヴンは暫く唖然とした表情をした後。
 その場で、笑い出した。
「はははッ! まさか、サンタとはな。 成る程、ならばしょうがない。私の知り合いを……」
「待った、タンマ! お前の知り合いはオレンジな気しかしないからやめてくれ。 俺が誰か呼ぶから勘弁してくれ」
 マジで、二対一になったら殺される気しかしない。
 大体俺一人でもコイツに勝てるかどうか怪しすぎるってのに……。
 俺は兎に角、死に物狂いでフレンド達にPTと狩りの申請を送る。
 もちろん、天乃や酒場にいるやつらは俺が今ヘヴンといることを知っているから、除くが……。
 クリスマスイヴなのに、何やってんだ、俺は……。
 まぁ、来る確率はあまり高くない。
 しかし、祈らざるにはいられない。
 来ないと本気で俺の命に関わる。
 そう祈りながら待っていると。
 一人から、PT可能のメッセージが帰ってきた。
「よし、大丈夫だ! 一人いる! じゃあ早速合流しよう」
「ふむ。 楽しみだな。 どんなやつが来るのか……」
 俺は送り元のやつを確認しないまま、合流場所を指定し、ヘヴンと共にその場へと向かうのだった。



「うわ、アルスが知らない女の人と一緒にいる。 しかも聖夜に。 これなんてエロゲ?」
 来たのは、桜花だった……。
 なんだ、この、何?
 あんまり知られたくないやつが来たこの感覚。
「いや、エロゲじゃねーよ。 ネトゲだ。 しかもどっちかっていうとFPSで敵が横にいるような感じだ」
「まぁ私はオレンジだからな」
「うわ、オレンジだ。 昔の玖渚と一緒じゃん」
 そんな、どうでもいいようなやり取りをした後、桜花、ヘヴンとPTを組む。
 すると、桜花がヘヴンの名前に反応した。
「へヴんずどあ? これ扉さんって言えばいいの?」
 ……俺と同じようなこと言ってやがる。
 なんか桜花と同レベルだったと考えると、少し凹むぞ……。
「お前ら……PKされたいか?」
「あ、ヤバかった? ごめんごめん、冗談冗談、アメリカンジョーク。 天さんって言うから許して」
 なんだか三つ目で名前が津飯みたいな呼び方だな……。
 流石にこれは……。
「ドラゴンボールみたいな呼び方をするな……。 まぁいい、お前限定で許してやろう」
 あ、許された。
 怖いヤツだと思ってたが、意外に柔軟なんだな、ヘヴン。
「じゃあ天さんとアルス、何処に狩りに行くの? イベクエでもやる?」
「いや、イベクエはもう時間切れだろ。 たぶん先にクリアしたやつらがいるだろうしな。
適当に1時間くらい、最新層の迷宮区に遊びに行くか。 今ならイベクエに躍起になってるやつらが迷宮区から消えてるハズだから。
たぶん狩場は空いてると思う」
 俺がそんな提案をすると、ヘヴンは興味深そうな顔でこちらを見た後。
「成る程。 実に凡庸な考え方だ。 しかしそれで十分なのだろうな。 やはり、中々興味深い」
 そんなことを、ブツブツ呟き出した。
 ……あんまり凡庸って言われても凹むんだがな。
 しょうがないだろ、一般人なんだから……。
 兎に角、そんなこんなで、俺達は最前線の迷宮区に向かい、適当に空いている狩場を見つけて、狩ることにしたのだった。



「そこだ、スイッチ!」
「任せろ」
 狩りを初めて早二時間。
 あと一時間程度で日付も変わりそうな時間になった頃。
 俺達とヘヴンは、かなり息が合って狩りが出来るようになっていた。
 始めたばかりの時はまともに狩りすら出来なかったが、まさかのこれだ。
 いや、真に驚くべきことはそこじゃない。
 ヘヴンの強さだ……。
 俺はそれなりに長いこと攻略組をやっているし、色んな強いやつらを見てきた。
 盾無しの直剣使いや高速で攻撃する細剣使い。
 ユニークスキル持ちのどこぞの団長やモンスターを操るビーストテイマー。
 エクストラスキルに特化しているやつらだっていた。
 だが、ヘヴンは、その誰とも違う。
 俊敏性、超特化型だ。
 昔、リアルで読んだことのある漫画で、そういう動きは確かにあった。
 縮地と呼ばれる、目にも止まらぬ、いや、目に写らない速さ。
 当時それを読んで凄まじいと思ったし、同時に実現不可能だとも思った。
 だが、ゲームの中で、このアインクラッドで、まさか見ることになるとは思わなかった……。
 ヘヴンのその速さは、既に縮地の域に達している……!
 通常、人の動きはゲーム中でも、点と点を結ぶ線の動きだ。
 しかしヘヴンはどうだ……。
 まるで点と点をワープするかのように移動する。
 瞬間移動に限りなく近い速さ。
 当然、それだけ俊敏を上げていれば筋力は振っていない。
 故に、火力の低さが浮き彫りになるハズなのだが……。
 コイツは違う。
 その火力の低さを補うために、連続投擲による手数の多さで、それを補っている。
 武器そもそもの火力を底上げし、それを一度に数本単位で相手に投げつける。
 例え一本のダメージが50でも、10本投げれば500だ。
 それに加えて貫通属性によるダメージ蓄積……。
 しかし、どうやってその装備を入手しているかも気になる……。
 あれだけ投げてるんだ、武器の効率は恐ろしく悪いハズ。
 それを切らさずに、投げるグレードも落とさないとなると……。
 余程の金持ちか……PKで得たものなのか、いや、怖いから考えたくはないな……。
 下手に突っ込んだら俺も殺されかねない。
 兎に角、あまりにも特殊すぎるステータス振り。
 しかし、その結果、誰も寄せ付けない突出した強さを持っている。
 本当に驚いた……、まさか、攻略組以外でここまでのやつがいるとは……。
「……今日はここまでにしようぜ。 そろそろ日付も変わるし」
 動揺する気持ちを抑えながら、ここで打ち止め宣言。
「ふむ。 まぁそちらも事情があるだろうし、今回は了承してやろう。 大方PT狩りというのもどういうものかわかったしな」
 すると、ヘヴンはあっさりと了承してくれた。
 正直、これだけでもかなり嬉しい。
 これ以上コイツと一緒に狩るのは気が気じゃない。
 あれだけ速くて強いコイツを敵に回すのはあまりにも危険。
 本当にPKされかねない……。
「ねぇねぇ、天さん、面白かった?」
 すると、桜花が軽口を叩き始める。
 ……まぁ、コイツだから大丈夫なのだろうが。
 俺はあれを見て圏外でコイツに軽口を叩きたくないと思っているからな……。
「まぁそうだな。 想像していたよりは面白かった。 ソロと比べて実入りも中々いい。
何より、ソロの時と安心感が段違いだ。 長時間の狩りでも精神的に非常に楽だからな。
実際、この二時間があっという間に終わった気がする」
 冷静に、かつ淡々と感想を口にしながら、ヘヴンはそのまま少しだけ歩いた後。
 薄い笑みを浮かべながらこちらを見た。
「非常に勉強になった。 礼を言う。 またPT狩りがしたくなったらメッセージを送ってやる。
それまでに死ぬんじゃないぞ。 わかったな」
 一方的にそれだけ口にすると。
 ヘヴンはPTを抜け、何処かへと消えていってしまう。
 ……複雑な気分だ。
 またアイツに呼ばれることがあるのか……俺は。
 少しだけため息をつくと、隣にいた桜花が声をあげる。
「あ、そうだ。 ヤバい。 プレゼント忘れた」
「……? プレゼントってなんだよ」
「今日はクリスマスじゃん? 玖渚がプレゼント待ってるじゃん?
だから、年配としてプレゼントあげようと思って」
 ……コイツ、意外にそういう気配りできるやつなんだな。
 正直、意外だった。
「しょうがないな。 俺がどうにかアイテムの中からレアアイテム見繕ってアイツに渡しておいてやるよ。
それでいいだろ」
 ここは俺もある程度太っ腹なところを見せるため、そう口に出すと。
 桜花は暫く黙った後。
「いや……そうじゃなくてさ。 本当はウチが描いてる途中のBL本を渡して、あっちの世界への布教を……」
「やめろォ!」
 やっぱコイツはロクでもないやつだった。
 そんなこんなで、クリスマスイヴは終わっていく。
 一年に一度の聖夜はこうして、恋愛も何もあるはずもなく、終わっていくのだった。




――――――





「やぁやぁ。 いやまさか。 君があんな行動に出るとは思ってなかったよ」
 0の酒場で、ザサーダがオーバーリアクションでそう口にする。
 その横で、ユイツーはアルス達が写るウィンドウを開きながら、含んだ笑みを浮かべた。
「私としても驚きです。 あんな一般プレイヤーに、突出する要素が特にないあんな二人と、単なる何の変哲もないPT狩りをするなんて。
ああ、でもアルスさんは別ですね。 私達を認知した数少ないプレイヤーです。 ま、特殊な要素はその程度ですけど」
 そんな彼女達の反応に。
 天国の扉は、黙ってカルーアミルクを口にした。
 今、この場にはたった三人しかいない。
 ザサーダ、ユイツー、天国の扉だ。
 その中でザサーダとユイツーだけが一方的に喋っている。
「クリスマスイヴ。 一年に一度のイベントにそんなことをするとは、まぁある意味、ロマンチストなのかもしれないね。 君は。
ウチの男共はこんな日でも懲りずに仕事に励んでいるよ」
「全く。 品がありませんよね。 私は止めたんですけどね。 ウスラ君がどうしてもって聞かないから……。
こんなに可愛い私達を前にして、『リア充爆発しろ、俺が爆発させてやる』なんて言って出て行ったんですよ?
今夜は10人PKするまで帰ってこないそうです」
 そんなことを、愉快そうに語るユイツーに、天国の扉は、ようやく顔を上げた後。
「……なるほどな。 意欲的で非常に結構なことではあるのだが……」
 そこで一度区切った後。
「普通というのは、案外悪くなかったな。 アルスというやつも、実際に触れ合ってみて、印象が非常に変わった」
 そんなことを、ポツリと口にした。
「……へぇ。 これは中々どうして面白いじゃないか。 そう思うだろう? ユイツー?」
「ええ。 これはこれは、非常に面白いシナリオが描けそうですね。 先生」
 ザサーダとユイツーは互いにそう言葉を交わして、クスクスと笑い出す。
 それを不快に思ったのか、天国の扉はザサーダとユイツーに対して目を細める。
「おっと。 いやいや、悪く思わないでくれ。 まぁ君のやり方に文句をつけるつもりはないさ。
その結果を見せてくれれば結構だ」
「そうですよ、ヘヴンズドアさん。 天国に最も近い貴方を、私達は最も信用していますから」
 二人はそれだけを言い残し、その場から消えていく。
 残された天国の扉は、ただ、無言で、残ったカルーアミルクを全て飲み干すと。
「……明日もメッセージを、飛ばしておくか……」
 思ったことを口にして、自室へと戻っていった。
 そんな彼女の言動は、普段から考えらず、ありえないと言えるほど、彼女らしからぬ、異常な言動だった。



 同時刻。
 聖夜の街中、宿屋に。
 一人の影があった。
 街中であるにも関わらず、その物騒な大剣を手に持ち。
 狙ったように、宿屋の一室の扉をガンガンと叩き始める。
「な、なんだよ! 誰だ! うっさいぞ!」
 部屋の中から現れた、装備をパージした男性を見るなり、その影は男性の腕を掴み。
「ようリア充。 俺は今からテメェにデュエルを申し込む」
「は、ハァ!?」
 相手が唖然としている間に、デュエル画面を押し付けたかと思うと。
 握っている腕を無理やり動かし、デュエルを認証させた。
「お、オイ! ふざけるなよ! しかもこれ、HPが0になるまで終わらないデュエルじゃ……」
 男性がそういい終わる前に、影は男性を蹴り飛ばすと。
 部屋の中へと入り、その姿を露にした。
「ああ、そうだ。 デスデュエル。 しらねぇのか? ラフィンコフィンっていうギルドの連中でもやってるぜ。
まぁ相手が寝てる間に勝手に指動かして了承させるってやり方だが。 俺はほら、相手が起きてる間にやってるから。 良心的じゃね?」
 ダークブラックとスパーリングシルバーの二色の服装に包まれ、グリュンヒルを持つ彼こそ。
 デスデュエルと狩場荒らしを専門とする、ウスラだった。
「ば、馬鹿野郎! 良心的もクソもあるか! 兎に角、俺はこんなふざけたデュエルなんか……」
 そう言いながら、大人しく降参をしようとした矢先。
 ウスラの持った大剣が、ベッドに向けられる。
 否……正確にはベッドではない。
 その上にいる、恐怖によって無言で震える、半裸の女性に、向けられていた。
「オイオイ。 いいのかよ? テメェが拒否ったら俺の大剣はコイツに向けられるだけだぜ?
回避する方法は唯一つ。 この俺様に勝つことだ」
 挑発的にそう言葉を発するウスラに、男性はしばし女性とウスラを見比べた後。
「……上等だ! 殺すのは気が引けるが、倒させてもらう!」
 そう口にして、装備ウィンドウを開く。
 だが。
「バーカ。 何やってんの?」
 その瞬間、ウスラの手に持ったグリュンヒルが、男性の両手首を叩き斬る。
「なぁっ……!?」
 失った手首を視界に写しながら、男性は唖然とした。
 まさか、装備しようとしたその瞬間に、攻撃されるとは思ってなかったからだ。
 しかし、それは完全に、唯の油断だった。
「お前さぁ。 ここがアニメとか漫画とか特撮の世界だと思ったの?」
 再び、ウスラからの攻撃。
 装備をパージしている男性にとっては、かなりの致命傷だ。
「仮面ライダーが変身するまで一々待ってくれる敵はリアルにはいねぇんだよ?」
 グリュンヒルを輝かせての、スキルによる一撃。
 男性のHPバーは赤に突入する。
「あ、や、やめ、そこで、やめて!」
 男性はあまりにも哀れな声を出したかと思うと。
 最後に、ウスラの脳天からの一撃で、完全にHPが0になった。
「ここが、愛と勇気が勝つヒーローが主役の世界だと思ったら、大間違いだっつーの!」
 ウスラのその言葉と共に。
 男性の体は、完全にデータの海へと還元される。
「い、いや……!」
 それを見ていた女性は、そう叫び声をあげようとして。
「おおーっと! 待てよ待てよ姉ちゃんよー。 このネットビッチが喚くなよ騒ぐなよ叫ぶんじゃあねぇよ!?」
 ウスラに突きつけられた大剣を前にして、声を失う。
 それを確認した後、ウスラはニタ、と笑った後。
 事もあろうか、女性にデュエル申請を突きつけた。
「え……!?」
 女性は、まさかの申請に、しばし黙る。
 恐らく、別なことを想像していたのだろう。
 しかし、その沈黙が悪かった。
 ウスラは素早く女性の腕を掴むと、デュエルの申請の許可を押させた。
「はーい。 じゃあ次の相手はアンタねー。 まぁ彼氏が死んじゃったしね。 ほら、悲劇のヒロインは男の後を追うもんでしょ?
俺別に寝取ろうと思わないし、人のヒロイン寝取るやつは馬に蹴られて死んじまえばいいよ」
 そんなことを飄々と口にするウスラに、女性は一層強く、ガタガタと震え出すと。
「ま、待ってよ! 待って! なんでもする! なんでもするから! ほら、私今、倫理コード解除してるし!
なんでもシてあげる! 闇市に売り飛ばしてもいいから! お願い! だから!」
 そう、必死に悲願し始めた。
 だが、ウスラはそんな言葉に対して。
「ああー。 俺、倫理コードって解除わかんねぇんだよね。 先生に教えてもらったけど、やっぱわかんねぇわ。
まぁいいよ。 どうせ俺ゲームの中でそういうことやるつもりねぇし。
そういうのはエロゲーだけで十分じゃね? 住み分けって大事だよ、うん。 何でもごちゃ混ぜにしちゃいけんよ」
 そう言って、女性に対し、大剣を振るう。
 グリュンヒルは簡単に女性の手首を切り落とし、女性にメニューを開かせないようにした。
「あああああああ! 待って待って! やめてやめて! 殺さないで!」
 女性は半狂乱状態になりながら、出口へと逃げようとしたが。
 その首を後ろから掴まれる。
「まぁまぁ、人の話は最後まで聞けよ。 先生から習わなかった? 人が喋ってる時は静かにしなさーいって。
んで、そうそう、話だったな。 闇市も俺興味ねぇんだよね。 別に金には困ってないし」
「はなしてえええええええええええ!!!!」
 女性は悲鳴とも絶叫とも似つかぬそれを上げるが。
「君をはなさないーってね」
 ウスラは、そんなものどこ吹く風で聞き流した後。
 女性の体を、一度離し、素早く、スキルを発動させながら叩き斬った。
 同時に、女性のHPが0になる。
「あ、そうそう。 俺さ処女厨なんだよねー。 てことで、さいなら」
 ウスラのそんな言葉を聞いて、女性は。
「最悪……」
 そんな捨て台詞を残して、データの海へと消えていった。
 完全に獲物を消したウスラは、一息ついた後。
「よーし! これで8人目! あと2人でノルマ達成だ! 頑張るぞー!」
 そんなことを明るい表情でいいながら、その部屋を活き活きとしながら出て行った。




 【Dirac】[序列三位]
[DeathDuelist&SideAttacker]
   Usura[ウスラ]
    ―usurA―
 《ダークヒーロー》Lv67




――――――





 年末。
 つまり12月31日。
 こういう時にも持ちのロンにネットゲームでは恒例と言えるイベントクエストが出ていたのだが。
 もちろん俺はそういうのに大して興味はなかった。
 入手できるアイテムも俺が別にほしいものじゃないみたいだし。
 情報屋に金払って聞いて損したぜ。
 そして年末年始は、うちのギルドの酒場も休業だ。
 ついでに狩りも俺は休業。
 年末年始くらいゆっくりさせてもらいたいもんだ。
 だからこそ、俺はベッドに座ってアイテム整理なんかをしていたのだが。
 そんな俺の安眠と休息を邪魔するヤツらは、少なからず存在する。
 そのうちの一人が……。
「アルス。 狩りに行くぞ。 今なら狩場はそこまで混んでない」
 冷ややかな言葉で俺に声をかけるのは、ヘヴンだ。
 何故かあの日以降、緑ポインターに戻り、勝手にギルドの俺の部屋に侵入してくる。
 ていうかこれが毎日だぞ。
 どうかしてる。
 俺の精神もあんまり持たねぇって……。
「年末年始くらいはゆっくりさせてくれよ。 最近、折角桜花や玖渚も大人しいんだ。
ウチのギルマスの天乃だってゆっくりしてるぜ? 聖龍連合のシャムだって休暇取ってるんだ。
俺も休みたいんだけど……」
「そんな凡庸な言い訳が通るわけないだろ。 なんなら今この場でデスデュエルを申し込んでもいいんだぞ」
「おい待て。 あんまり暴力に頼るなよ。 どこぞのラノベのヒロインかよお前は」
「ラノベのヒロインはみんな暴力的なのか?」
「そういう意味じゃないが……。 ああー。 もう、わかったわかった。 俺もラノベの主人公みたいに振り回されてやるよ」
「おい、気持ち悪い言い方をするなよ。 それじゃあ私とお前が主人公とヒロインみたいだろ」
 いや、ごもっともだ。
 ラノベのテンプレっていうのは恐ろしいもんだな。
 しかしああいうのがウケてるんだから世も末だぜ。
 リアルにああいうのになったらたぶんラノベの愛読者の8割はヒロインに耐えられないだろうな。
 実際、今の俺がそうだ。
 個人の時間を削られすぎるのはそれなりに苦行だ。
 いや、こんなんだから彼女も出来ないんだろうけどな。
 大体考えてみろよ。 1人の時はそれなりに自由気ままに動けてたのが、この束縛感。
 愛は束縛じゃないというけど、別に俺コイツと付き合ってるわけじゃないからな。
 はっきり言えば友情すらも怪しいところだ。
「まぁラノベの話は置いておくか。 どうせこの世界にラノベはねぇし。
何処の狩場をご所望だ? それと、PTメンバーは?」
「最前層の迷宮区のダンジョン内。 玖渚とシャムには連絡しておいてやった。 感謝しろ」
「マジかよ。 俺感謝しないからな。 絶対感謝しない」
「何故だ。 私は最善で最良の行動を取っただけだ。 大体、こんなゲームの中で年末年始もないだろう。
紅白歌合戦もゆく年くる年もダウンタウンもないぞ。 それなら狩りをした方が有意義じゃないのか」
 いや、2022年までダウンタウンの笑ってはいけないシリーズがあるのかどうかは謎ではあるが。
「違うんだよインドア派。 こう、なんていうんだろうな。 年末は年末でワクワク感があるんだよ。
俺が20台前半の頃は飲み屋で仲間と飲みながら年越えたぜ? で、その後初詣行った」
「私は初詣はかならず家族と共に昼くらいからだからな。 まぁ去年と今年は流石に無理だが」
 このあたりにジェネレーションギャップというか、ギャップを感じるな……。
 まぁ、生き方も異なれば、そういうのの基準も違うのだろう。
「リアルの話はこのあたりにしておくか。 虚しくなるだけだぜ。 ていうかネトゲの中でリアルの話はあんまよくないしな」
「流石に1年以上もこの中に押し込めれられればゲームもリアルもあんまり関係ないがな」
 まぁ、それも最もではあるのだが……。
 一応決まりは決まりだ。
 そんなことを思いながら、俺は装備を整え、立ち上がった。
「さて、狩りに行くか。 集合場所は決めてあるんだよな?」
「時間と場所は既に指定してある。 あと20分後に最前層の移動ポータルだ」
「あいよ。 了解だ」
 そんなやり取りをして、俺達は部屋を出る。
 年末年始。 このゲームに休息はない。
 いつ死ぬかわからない状況で、戦いぬかなきゃいけない。
 このゲームをとっととクリアして現実に戻るために、だ。





 全員で狩場に着き、狩りを開始して早3時間。
 狩りのペースは至って順調だ。
 しかし、年末だからこそ。
 トラブルというのはやってきやすいものである。
 俺達が狩っている最中、突如、その影は現れた。
「おー。 頑張っちゃってるじゃん。 何、年末なのによく狩るね。 つかれねぇの?」
 突如として現れたその影を見て。
 俺は、暫く、唖然とした。
 その服装、その手に持つ大剣。
 あまりにも、装備が俺そっくりだったからだ。
 確かに、ネットゲームである以上、装備が被ることは珍しくない。
 しかし、ここまで俺と同じ状態のやつは、見たことがなかった。
 確かに髪型や髪色等、細かいところを見れば全然違うのだが。
 服装もミッドナイトブルー&ゴールドの俺に対して、コイツはダークブラック&スパーリングシルバーだ。
「……何だ。 お前」
 俺がその人物に、そう尋ねると。
 ソイツは、ヒヒヒと笑いながら、口を開いた。
「そうだな。 自己紹介はしておいてやるよ。 俺はウスラ。 ちょっとアンタに用があってな」
 そう言って、俺を見た後。
 何かに気づいたように俺の背後にいた玖渚に視線を移した。
「っと、その前に。 なんだ。 玖渚じゃん、超久しぶりー!」
 そんなウスラの言葉に、玖渚は凄まじくイヤそうな顔をした後。
「うわ……デスデュエリストのウスラじゃん……最悪。 アンタ、デュエリスト達から評判最悪だよ?
やってることPKと殆ど変わらないじゃん。 それで緑ポインター維持してるって、どうかしてるよ」
 デスデュエル……?
 一瞬、その単語の理解が難しかったが、その後の言葉でなんとなく理解は出来た。
 デュエルの形式で、基本的にタブーとされている、完全決着型のデュエル。
 つまり、互いのどちらかが死ぬことで勝敗が決されるデュエルだ。
 それで決着がつけば、別に倒した方のポインターの色が変わることはない。
 あくまでも、『決闘』という名目だからな……。
 無差別な殺人であるPKとは根本が違う。
 しかし、それでも人を殺していることには違いない。
 そんなデスデュエルを専門としているから、デスデュエリストってことか……。
「オイオイ、デスデュエルをPKと一緒にしてくれるなよ。 あくまでも俺はシステムに則ってやってるだけだぜ。
無差別な殺人とは違う。 正攻法だ。 だから俺は別に悪くねぇんだよ」
 そうウスラがベラベラと調子よく喋ると。
 今度は、シャムが口を開いた。
「……君のことは知ってるよ。 ウスラ。 そこそこ有名な狩場荒らしとしてね。
人が狩ってる獲物を横殴りして、狩場を徹底的にめちゃくちゃにする。
正気の沙汰とは思えないな。 勝手に人の獲物を狩るなんて」
 そんなシャムの言葉に、ウスラは再びヒヒヒと笑った後。
「何言ってんだよ。 攻略組様よー。 俺の狩場荒らしは善意だぜ。
お前ら攻略組様達が『誰でも自由に狩れる』みんなの狩場を独占、占領とかを勝手にやるから、
中堅層のやつらが狩場探しで可愛そうなことになってんだろ。
勝手に整理券とか作って、順番作るとか、馬鹿じゃねーの。 自由だからこそのゲームだろ。
俺は全員平等に、自由に遊んでほしいっていう善意でやってんだぜ。 俺は別に悪くねぇな」
 ……なんだ、コイツ。
 まるで餓鬼みたいな理論を出して、自分を正当化している。
 コイツには、常識が通用しない……。
「……ウスラ。 俺に用があるんだろ。 とりあえず面倒なことは抜きにして、話を聞いてやるよ」
 俺がそう口にすると、ウスラはヒヒヒと、三度笑った後、手に持った大剣を俺へと向けた。
「ああ、そうだそうだ、そうだったぜ。 俺さー。 ずっとお前のこと気になってたんだよね。
ほら、俺って結構シャイだから、中々話しかけられなかったんだけど。
でも年末だし丁度いいから話してみたくなっちゃったんだよ。
いやまぁ、ぶっちゃけ、ちょっと、ちょろーっと、俺とデュエルしてみてほしいんだけど。
同じグリュンヒル使いとしてすっごく興味あるし?」
 ウスラはダラダラとそんなことを喋りながら、その手に持つグリュンヒルを振り回す。
 面倒なやつだな……。
「デュエルっていうと、お前の得意のデスデュエルか?」
「ん、あ、いやー? 当初はそうする予定だったけど。 やっぱヤメた。
お前殺すとグリュンヒル使いが減るじゃん。 俺これでも同族には凄く優しいから。
だから、HPが黄色ゲージになったら終わりのヤツでいいや。 あれならスタンダートでしょ?」
「まぁな……それならいい」
 俺が了承すると、ウスラは満足そうにヒヒヒと笑うと、早速、俺にデュエルの申請をした。
 だが、俺は、それをすぐに了承せず。
「一つ質問だ。 俺がもし負けたらどうなる? あと、勝った場合だ」
 そんな質問に、ウスラはさらに意地の悪い笑みを浮かべた後。
「ヒヒヒ! 負けた場合から聞くとは、どんだけ自信がねぇんだよ。
まぁ、いいや。 初めに教えたほうがフェアだからな、教えてやる。
テメェが負けた場合、今いるギルドを抜けてもらうぜ。 俺と組んでもらう」
「随分と熱烈なアプローチだな。 俺は同性には興味ないんだが」
「俺も別にガチホモってわけじゃねぇよ。 まぁ、二人の方が狩場荒らしやすいんだよ。
んでまぁ、そっちが勝った場合だ。 俺が持ってるこの指輪をくれてやる」
 そう言って、ウスラは手にはめている指輪をこちらに見せてきた。
 あれは、アクセサリータイプの装備品か……。
「コイツの効果は状態異常を一度だけ無効化する。 それなりのレアアイテムだぜ。 どうだ、悪くない話だろ?」
 ……なるほど、確かに、取引としては悪くはない。
 だが、俺の方がちとリスクが高いか。
「……オマケでその隣につけてる2個目の指輪ももらおうか」
 俺がそう口にすると、ウスラは俺が指定した指輪を見て。
「ああ、なんだ、まぁ別にいいぜ。 こっちは大してレアアイテムじゃねぇし。 てことで、一丁やろうぜ!」
 そんなことを、簡単に口にした。
 ……そこまで言われちゃ、やらない手はないな。
「よし、受けてやる」
 そう言いながら、了承を押そうとした瞬間。
「……アルス。 足元に気をつけておけ」
 背後から、ヘヴンが、小声でそんなことを言った。
 その意味が理解し終わる前に、俺は了承ボタンを押す。
 すると、俺とウスラの間に、デュエルスタートのエフェクトが出た。
「さぁて、行くぜ、アルス!」
 開始直後、ウスラはそう言い放ちながら、こちらへと向かってくる。
 その手に持つグリュンヒルにスキルエフェクトを輝かせながら……!
 いつもの俺なら、ここで一度ガードして、相手が隙が出来たところを一気に踏み込むところだが。
 敢えて、今回それはしない。
 来る攻撃は大体わかっている。
 同じグリュンヒル使いなんだから、相手のスキルも把握できる。
 もちろん、相手もそれをわかっているだろう。
 つまりこの勝負の真髄は……。
 武器の腕じゃなく、心理戦だ。
 飛んでくる攻撃は恐らくアバンラッシュ系統。
 あれらの攻撃は、基本的に当たり判定が上半身より上に来る。
 つまり、下へ潜り込めば攻撃は避けられるが……。
 そこで、ヘヴンの先ほどの言葉を思い出す。
 足元、か。
 よくはわからないが……。
 それに、注意させてもらうか。
 ウスラからの攻撃を、俺は……。
 横に飛んで、避ける。
「ハッ! かかったな!」
 しかし、そこで、ウスラはあろうことか、体勢を低くし、横に飛んだ俺に向けて、連続で横薙ぎの攻撃を仕掛けてきた。
 体勢を低くすることで、飛んでいる俺に対しての当たり判定は、丁度足元に来る。
 だが……その攻撃。
 俺も予測していなかったわけじゃない。
 寧ろ、ヘヴンのアドバイスのお陰で、それに対応できる。
 ここは迷宮区で、ダンジョン内なんだぜ。
 つまり俺の飛んだ方向には壁がある。
 俺はそこに飛んだまま、大剣をぶつけ、俺自身の座標をズラす。
「なぁッ!?」
「かかったのはお前だ、ウスラ」
 ウスラの攻撃をそれによって避け。
 一度着地してから、こちらを振り向こうとしているウスラに対して。
 あえて、グリュンヒルで攻撃せず。
 その服を掴む。
「人はどうしても手元に武器があると、それで攻撃しようとするが……。 別に、戦闘手段はそれだけじゃないんだぜ」
 俺はそのまま、ウスラを壁へと投げると。
 グリュンヒルで、その体を串刺しにした。
「やってくれるじゃねぇかァアアッ!!! アルス!?」
 だが、ウスラはそこで止まらず、突き刺されたまま、俺の胴体へと一撃を放つ!
 痛覚がないSAOならではの、ゴリ押しだな……。
 こいつは心理戦うんぬん言ってる場合じゃなさそうだな。
 だったら、しょうがない。
 俺は一度、その手からグリュンヒルを手放し。
 再び振るわれようとしているその一撃が放たれる前に。
 ウスラの右手首を右手で掴んだ。
「なんだと!?」
 そこで、ウスラの動きが止まり、俺への一撃は阻止される。
「歯ァかみ締めとけ!」
 同時に俺は空いた左手で、ウスラの顔に向けて、体術スキルを発動し、顔面を殴る。
「ぐっ!」
 一気に、ウスラの体力が削れた。
 さらに突き刺さっている俺のグリュンヒルの蓄積ダメージ。
 もう少しで黄色ゲージに突入だ。
 そう思っていた直後。
 ウスラは、突如、その手にもったグリュンヒルを手放し。
 俺の左腕から繰り出されるハズだった二撃目の体術スキルを、手で受け止めた。
「体術スキルを使ってるのは、お前だけじゃないんだぜ、アルス!」
 ウスラのその声と共に。
 俺の脇腹に、ウスラの体術スキルを使った強力な蹴りが入る。
 意外に威力のあるその一撃に、俺も、体力が危うい状況になった。
 足元ってのは……こういう意味もあったのか……!?
 あと一撃。
 同じものを食らえば、俺が負ける。
 これは……マズイ。
 俺は両手がふさがってるし、この体制で蹴りが出来ないが、あっちは剣に突き刺さってるが故に、多少体勢を崩せる……。
 負けたか……!?
 そう思った、その直後。
 ウスラのHPゲージが、グリュンヒルの蓄積ダメージにより、ついに黄色ゲージに突入した。
 その直後、ウスラの頭上にLOSEの文字が浮かび上がり、デュエルの勝敗が決した。
 ギリギリでの勝利。
 恐らく、ヘヴンの助言が無ければ、俺が負けていただろう。
 俺は、己の勝ちを確認した後、ウスラの体から、剣を引き抜く。
 すると、ウスラも、ため息を吐きながら、落とした己のグリュンヒルを拾い上げた。
「くそ、俺の負けだ、アルス。 持ってけ」
 ウスラは悔しそうにそう口にすると、その手についた指輪を二つ、俺へと投げた。
「ああ、もらっておく」
 俺がそれを受け取ると同時に。
 ウスラは俺に背を向けて、歩き出した。
「とりあえず、満足したぜ。 またその内リベンジするわ」
 そんな捨て台詞だけ残して、ウスラはその場から去っていく。
 その後姿を眺めながら。
 俺は、幾つかの疑問を頭に浮かべていた。
 一つは、何故、アイツが俺の居場所を知っていたのか。
 俺はアイツをフレンド登録していないし、ギルドも違う。
 なのに、あいつは最初から、俺がここにいることを知っているようだった。
 二つ目は、何故、ヘヴンが、あそこまで俺に的確なアドバイスを与えてくれたのかということ。
 こうなることをわかっていたのか?
 いや、それ以前に、なんでアイツの攻撃の仕方まで予測できたんだ?
 そして三つ目。
 あいつの目的だ。
 単純に俺にデュエルを申し込んで戦いに来ただけとは、どうも思えない。
 今回は俺が勝ったものの……。
 何か裏があって、俺にデュエルを仕掛け、仲間に引き入れようとしていたように見える。
 もちろん、それが何故かは、今となっては知る余地も、興味もあんまりないが……。
 そう思っていると、玖渚とシャムが俺へと近づいてきた。
「やったじゃん、アルス! 危なかったけど、あんな無茶なやつによく勝てたね!」
 そう言って、玖渚は喜びを体全体で表した。
「お疲れ様。 とりあえず体力を回復しておいた方がいいよ。 ここはまだダンジョン内だからね」
 そう言って、シャムは俺に回復アイテムを差し出してくる。
 俺はそれを素直に受け取り、そのまま使い、HPを全快にしておいた。
「おう、ありがとう。 それじゃあ、狩りを続けるか」
 俺はそう言って、再び、狩りに戻ることにする。
 それと同時に。
 ヘヴンの元へと行き、素直に。
「ヘヴン。 ありがとうな。 助かったよ」
 感謝を口にした。
 すると、ヘヴンは無言でこちらを見た後。
「なんだ、らしくないことを言うな。 これでは私がラノベのヒロインよろしくデレろと言ってるようなものだろ」
 そんなことを、冷静な口調で言った。
「いや、もうラノベの話はいいだろ……。 というかお前ヒロインになりたいのか?」
 呆れながらそう口にすると。
「自意識過剰もいいところだなアルス。 お前は主人公にでもなったつもりか」
 そんな、可愛げの全くないことを言ってくれた。
 ホント、コイツは、コイツから言ってきた癖に……。
「冗談キツいな。 俺は主人公じゃねぇよ。 俺はたぶんこの世界がラノベかなんかだったら――――」
 そこで一度区切った後。
「多分、物語に名前すら出ない。 モブ以下の、二次創作の登場人物みてーな存在だぜ」
 そんなことを、言ってやった。
 それを聞いて、ヘヴンは嫌味な笑みを浮かべながら。
「そうだな。 我々にはそれがお似合いだ。 1にも、-1にもならない。 1からも、-1からも認識できない0の存在。
お前の入っているギルドの名の通り、『ディラック』なのだろうからな」
 それだけを口にして、狩りへと戻る。
 ……まぁ、きっとそうなんだろう。
 俺達は、きっと表に出ることはない。
 俺達がやっていることはただの一般プレイヤーの遊戯で、喋ったことは戯言だ。
 年末の今。
 一年経過をし、新しい年を俺達は迎える。
 認知されないまま。 表舞台に立てないまま。
 今年という一年が、終わる。 
 

 
後書き
本当は年始まで書く予定だったのですが、途中で力尽きました……。
十二話で書きます。 
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