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リリなのinボクらの太陽サーガ

作者:海底
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地雷

 
前書き
原作って、一歩間違えればこうなると思って書きました。

とあるキャラに、あ~やっちまったなぁ。と言いたくなる回 

 
~~Side of はやて~~

前方から紫色の凄まじい落雷が発生してしばらく後、私とゼスト隊長もようやくミッドチルダ首都クラナガン湾岸地区に到着した。しかしそこで繰り広げられていた戦闘は、私達の常識を覆す光景やった。

「これは……どういう事だ? 水の防護が無くなっている上、再生したはずの右腕がまた斬り落とされ、巨大な質量兵器がファーヴニルの進攻を正面から抑え、左腕の方では見た事の無い魔導師が交戦している。一体どこの勢力がやった?」

「サバタ兄ちゃんや……! あの子達の正体はさておき、サバタ兄ちゃんに関わる人達が来てくれたんや!」

私にとって最も心強い援軍に私達の気持ちが一気に昂ぶる。サバタ兄ちゃんが来とるという事は、どこかにマキナちゃんもおるって事になる。彼女とは話せる内に話しておきたいけど……今はこの戦いに集中しよう。

と思った次の瞬間、私の目の数ミリ前を黒いオーラで形作られた腕が貫く。前髪数本が触れて揺れたが、あまりに突然の事だったため思わず全身が冷水を浴びたかのように寒気が走って硬直してしまう。だがその腕が現れたのには、真っ当な理由が存在していた。

「何をボサッとしている! はやて! そんな所に居たらラタトスクの針に当たるぞ!」

「さ、サバタ兄ちゃん!?」

どうやら当たると動けない状態でラタトスクに一定時間引き寄せられる針が私の方に流れて来ていたようで、それを防ぐためにギリギリの位置に黒いオーラの腕を置いてくれたらしい。しかしサバタ兄ちゃんは私が声をかけようとする前に暗黒転移で別の場所に行ってしまう。

サバタ兄ちゃんとラタトスク、二人の戦いは暗黒転移と異次元転移の無限発動によって、超高速を上回るバトルになっていた。一方の攻撃が当たろうとした瞬間、もう一方が転移で回避して反撃、それをまたもう一方が転移して反撃、もしくは防御する。反射と思考、先読みに反応速度、その全てを限界以上に駆使。人間とイモータル、引き出せる力の限界をぶつけ合い、生存権を獲得せんとしている。

私の前からファーヴニルの背部に現れた一瞬では、ここに来る前に私達に……正確にはリンディさんに対して使った影分身をラタトスクが呼び出していた。その影分身はクロノ君だけでなく私やなのはちゃんの姿まで模して生み出し、動揺を誘うべく盾として利用されていたが、性質を本能的に察したのかサバタ兄ちゃんは攻撃せず影分身の合間をゼロシフトで駆け抜け、本体のラタトスクに斬り込む。その斬撃は異次元転移でかわされてしまうが、サバタ兄ちゃんもほぼ同時に暗黒転移して戦域を他の場所に移した。
次に現れたのは市街地の方で、ラタトスクは異次元から呼び出した無数の剣や斧を壁やビルの上、地面に物陰という至る所から縦横無尽に飛ばしてきた。そのほとんどはサバタ兄ちゃんを狙って、結果空振りに終わるものの、さっきの針のように一部の流れ弾がまだ体勢が立ち直っていない局員達にも飛来する。わざと射線上に行くよう仕向けている辺り、ラタトスクの嫌味な性格が滲み出ているが、サバタ兄ちゃんは狙われた局員が攻撃に気付く前に暗黒剣や銃で撃ち落として事無きを得た。そして暗黒転移を交えながらビルの合間を駆け下りたり、黒いオーラの腕を使って跳躍して動き回るサバタ兄ちゃんは、異次元転移を繰り返すラタトスクの転移先を推理し、現れた瞬間に暗黒剣の一撃を届かせた!

「ぐぁっ!!?」

「ちっ、浅い!」

「まさか今のわたしに攻撃を当てるとは……見事ですねぇ!」

「貴様の余裕もここまでだ、俺の力で噛み砕く!」

言葉を交わしたのもつかの間、またしても魔導師の転移魔法では明らかに間に合わない超高速転移合戦が再開する。私達では彼らの正確な位置を把握する事すら困難な……次元世界はおろか、世紀末世界でも類を見ない激戦。それを目の当たりにした私は、自分なんかではあの戦いに入る事すら許されないと思い知ってしまった。

「ふむ……あれほどの戦いでは、俺すらも足手まといにしかならない。なら彼の代わりにファーヴニルの方をどうにかするとしよう」

「どうにかって、どうするんですか? エナジー無しの魔法で攻撃し続けたら、さっきのようにまた自己再生されてしまいます。何か対策でも?」

「対策とは言い難いが、一応な。魔法は身体強化のみに用い、砲撃魔法や射撃魔法などを使わないで戦えば、ファーヴニルの自己再生を促す確率を可能な限り減らせる。ヤツの正面にいる質量兵器が他にもあれば話は簡単なのだが……管理局の質量兵器を嫌う性質が今回仇となった。魔法だけに頼る事の脆弱さを説いていたレジアスの理論は、ある意味正しかった訳だ」

「はぁ……」

「俺はレジアス達にこの話を伝えに行く。お前は別の指揮官にそれを伝えてくれ」

そう言い残し、ゼスト隊長は斬り落とされたファーヴニルの右腕の向こうで部隊を再展開しようとしている局員達の所へ飛んでいった。彼は……自分が今やるべき事をやろうとしていた。私も……動かないと!!

ゼスト隊長が向かったのと反対の位置である、謎の魔導師達が戦っているファーヴニルの左腕の方へ向かう。そこではさっきの雷で吹き飛ばされた局員や、サバタ兄ちゃんに見えない内に守られてここまでたどり着いた局員達が集まって、反撃の準備を進めていた。彼らにそうするよう指揮していたのは、私の知っている人やった。

「ゲンヤさん!!」

「ん? 八神じゃないか。お前さんがこっちに来たってこたぁ、まさか選抜部隊がやられたのか!?」

「はい……。ファーヴニルの手痛い反撃をまともに喰らって……ほとんどのメンバーが氷漬け、及び戦闘不能にされてしまいました」

「そうか……そいつぁあまり嬉しくないニュースだな。それと、こっちに来たばかりの時は傷だらけだったファーヴニルが、戻ってきた時に何故か傷が治っていた理由は何だ?」

「強力な魔法攻撃を受け続けた事による、自己再生です。それを知らずに私達は攻撃を繰り返し、まんまと再生が果たされたんです」

「なるほど……つまり魔法は使わねぇ方が良いって事か。じゃああそこにいる魔導師達にもどうにかして伝えないといけねぇ。ほっといたらまた再生されちまうぞ」

「わかりました。私が連絡してきます!!」

という訳で、ゲンヤさん達の代わりに私が謎の魔導師達にもこの事を伝えに行く。彼女達の実力は相当な練度を誇っており、厳しい訓練を乗り越えてきたのが目に見えてわかった。だからこそ彼女達の努力を無駄にしないように、伝令を務めようとしているけど、ある程度近付いて彼女達の姿がはっきり見えた時、私は正直驚いた。彼女達の正体が私とフェイトちゃん、なのはちゃんそっくりの少女達だったんやから。

「む、もしや貴様が小鴉か? 何故ここにやって来た?」

「うわぁ、見た目は私そっくりやのに、性格は全然違うなぁ……」

「当然だ、我は王ぞ! 姿こそ似通ってはおるが、我は貴様とは違うのだ!」

「はいはい、それはわかったからとりあえず話聞いてや。私達の二の舞を踏みとうなかったら、ファーヴニルに魔法攻撃はあまりせん方がええ。使い過ぎたら自己再生されてしまう!」

「ほう、自己再生とな? なるほど……我らが来た時に何故かダメージが見受けられなかった原因がそれか。筋は通るな」

「せやろ? だからこれ以上の魔法攻撃はあまりお勧め出来へん。エナジーが使えへん以上、何か別の手段で――――」

「エナジーだと? それなら我らは最初から使っておるぞ」

「たいさ……え!? き、君ら、エナジー使えるんか!?」

「その通りだ。……む!? 下がれ小鴉!!」

王様が急いでそう告げてきた刹那、ファーヴニルの左腕が私達のいる空間を薙ぎ払ってきた。その軌道上にゲンヤさんや局員達がいるため、咄嗟に私は夜天の書、王様は紫色の本を展開して防御、彼らに攻撃が及ばない様に受け止める。

「ぐッ!? ぬぐぐぅ……!! この程度で……我を御せると思うでないわ!!」

「うぎぎぎ……! な、なんちゅう重さや……! 身体ごとへし折れそうや……!!」

「ならば貴様は下がっておれ! これぐらい、我一人でどうにもなる!!」

「嫌や! 私は逃げへん、絶対逃げずに立ち向かう!! 例えエナジーが無くても、誰かを守れると証明するんや!!!」

「抜かせ! 小鴉程度の実力でそれが出来るとでも思っているのか!!」

「思ってるからやるんや! 出来るかどうか、きっちり見届けてもらうで!!」

私と王様は展開している本の向こうから来る力を、全力を以って受け止め続ける。一度跳ね返すまで耐え切ったのもつかの間、またしても薙ぎ払いが迫って来て、再び受け止める羽目になる。何度も何度も受け止めてその度に周囲に防御魔法の魔力が拡散していく中、それでも私と王様は耐え続ける。

「存外耐えるではないか。だが……そろそろ限界であろう?」

「まだまだ……! このぐらいで負けてられへんわ!!」

そうやってやせ我慢の雄叫びを上げる私やけど、どうしても限界というものは存在していて、私の身体中の骨という骨、筋肉という筋肉が悲鳴を上げ始めていた。対して王様は体力も負担も全然余力が残ってそうやったが、私の場合は特に足が不味かった。まだ強化無しでは一定距離を歩くだけで疲労が凄まじい私の足は、こういう長時間踏ん張って耐える状況下には厳しいものがある。そして……私の意思に反して、足の筋肉が限界を迎えてしまう。

ガクンッ……!

「しまっ!?」

体勢が崩れて夜天の書の展開が出来なくなる。バランスが崩壊した事でファーヴニルの左腕が一気に迫り、その反動で私の身体はとんでもない勢いで後方に吹き飛ばされてしまった。

「たわけ小鴉ぅううう!!」

ウィ~ン………チュドォォォン!!!

半分キレた様子で王様が怒鳴ったが、私自身正直すまないと思っている。吹き飛ばされていく状態で何とか見えたのは、さっきまで私がいた場所に電子音が響いてくる強力な質量兵器の一弾が直撃し、今のフォローのおかげもあって王様はすかさずてこの原理を利用し、ファーヴニルの左腕をすくい上げて上に逸らしていた。同時に金色に輝く人型のナニカが大量に左腕へ突っ込み、盛大な花火が発生してファーヴニルを大きくひるませていた。その結果、私のミスで王様やゲンヤさん達が薙ぎ倒されるのは何とか防がれたようだ。

そして私の身体はそのままの勢いで戦線からかなり後方にある市街地の展望台の柱に突っ込んで小さなクレーターを作り、柱が折れる程の衝撃を受けてしまった。あまりの威力で吐血してしまうものの、危うく飛びかけた意識を何とか堪えて取り戻す。
しかしアースラの甲板上から大量の砲撃魔法を使い、ファーヴニルの反撃から何とか生き残るために飛行魔法を総動員し、ゲンヤさん達を守るために防御魔法を繰り返すという、立て続けの連続使用で魔力をほとんど消費してしまっている。その上、今の痛恨の一撃を受けた事で私の身体はほぼ動けなくなるまでの大ダメージを負ってしまった。そのせいで為すすべなく、へし折れて崩壊した展望台と共に落下する。どうにか飛行魔法を使おうとしても身体の節々が異常に痛んで全然動かせず、頭からコンクリートの大地に直撃しようとしていた。そして……地上まで数センチの際どい所で、誰かが私の身体を抱えてくれた。

『全く……世話の焼ける。聖王教会の連中に敬礼しようと思った矢先に、ピンポイントでこんな所に降って来ないでよ……八神』

「……マ……キナ……、……ちゃん……?」

『話は後。せっかくの狙撃ポイントが今ので崩壊したから、別のポイントに移動する。レールガンの冷却時間もあるから、タイムロスは少ないけど……あそこ狙撃するには丁度良い場所だったんだけどなぁ』

「ご……ごめん……。ほんま……ごめん……」

『ま、シャロンが戻って来る前に危機が過ぎたと思えばマシかな』

しばらく見ない内に結構身体が成長していたマキナちゃんに私の身体が抱えられ、彼女は別に決めていた他の狙撃ポイントで近くにあるホテルのベランダに着地する。そこからは市民が避難している地下シェルターと、その傍にラプラスも鎮座しているのが眼下に見える。ここのホテルは避難を急いで戸締まりを忘れていたのか窓が開いていたため、部屋中ピンク色の室内のベッドに私の身体を横たえさせる。その際、彼女の急激に育ったやわらかい胸が当たってちょっと得した気分になったのは内緒や。

その後、マキナちゃんは改めて狙撃銃を構えて戦域からの流れ弾などに警戒する。ファーヴニルが襲ってきている以上、ここも絶対に安全とは言えないため、咄嗟に動けるようにサーチャーを飛ばして戦域の様子を逐一確認していた。

「つっ……いたた……!」

『あまり動かない方が良い。さっきの衝撃で身体のあらゆる関節が外れてる、今無理に動くとその部分の骨が歪むよ。ま、あれ喰らって折れなかったのはむしろ幸運だろうけど……しばらくは大人しくしてて』

何をするのかと思ったら、マキナちゃんはめんどくさそうな顔で治癒魔法“癒しの光”を発動、青白い光が私を優しく包み込んで傷を癒してくれた。こういった治癒魔法は私の場合、夜天の書に覚えさせても適性が無いせいで上手く使えないのだ。
ベルカ最高峰の治癒魔法の使い手であるシャマル曰く、魔力を繊細に扱える技術が無ければ、この系統の魔法は使う事すら出来ないらしい。フェイトちゃんのように魔力をそれなりにコントロールできる技術があれば、軽い治癒魔法を気休め程度に使えるらしいけど、それではあくまで痛みをごまかすぐらいにしかならない。本当の意味での治癒魔法が使えるようになるには、ちゃんとした知識と適性が必要になってくる。だからこそ治癒術師は私やなのはちゃんのような高ランク魔導師並みに貴重でどこでも重宝されるのだと教えられ、そしてマキナちゃんが治癒魔法に適性があり、それを覚えようとした事をシャマルはとても喜んで何度も……本当に何度も話してくれていた。

でも……マキナちゃんの故郷であるニダヴェリールが崩壊した経緯を知ってから、シャマルはぱたりとその事を一切話さなくなった。もうマキナちゃんが治癒術師の道を選ばなくなったと思って、将来有望な治癒術師の誕生と、それによって未来で救われたはずの命の事を考え、彼女が誰にも見られないように涙を流していたのを、偶然とはいえ見た事がある。
今回の件でミッドチルダに来る前、地球にいる間の時間を使ってシャマルは自筆で困難な治癒魔法の術式、使用時のコツや感覚などを書いた教本を地道に作ろうとしていた所から、その意気込みがうかがえる程だった。しかし、それが無駄となってしまった辛さと哀しみは、記憶が無いせいで実感しにくい闇の書の罪より、はるかに生々しく彼女を襲っていた。

その辛さが守護騎士のパスを通じて伝わってくるからこそ、主である私もマキナちゃんともう一度やり直したいと思っている。そして……マキナちゃんが復讐に走ったりするような事だけは防ぎたい。だから今二人きりとなっているこの機会は、ある意味好都合とも言える。皆が必死にファーヴニルと戦っている時に何を考えていると言われるかもしれへんけど、火種と確執を残したまま別れるのは嫌や。せめて戦いが終わった後も話せる間柄にまでは戻しておきたい。

そう思った私は痛みに耐えながら顔をマキナちゃんの方に向け―――――ようとした途端、ぐいっと顔を掴まれて元の位置に戻された。

「こぺっ!?」

『動かないで、余計な手間が増える』

「そ、それは悪いと思うけど、マキナちゃん……何かちょっと厳しくない? 今の結構、首痛かったわ……」

『……一番良かった狙撃ポイントを潰されたのに、見つかる危険を冒してまで八神が潰れたトマトになるのを防いで、その上ここまで運んできて治療もしてあげてる。皆が必死に戦ってる中、私も早く援護を再開したいから治療の時間を最小限にするべく大人しくしてと言ったのに、言いつけを破って動いたから戻した。怒られてもおかしくない事をやらかしていて、それでもこの程度で済ませてあげているのに八神は厳しいと言うの?』

「う……ご、ごめん。何も言い返せへんわ」

『そ、わかればいい。これから応急処置するけど、何回か痛くなるから話すならそれに耐えてからにして』

「痛くなる?」

『四肢のズレた関節を元の場所にはめ直す。そうしないと治癒魔法の効果も半減しちゃうし、何より手足を動かせないままになって危険だから。戻す瞬間はかなり痛むけど、我慢して』

「え? はめ直すって……まさか!?」

『時間が惜しい。早速右脚から始める……せぇ~の!!』

「ま、待っ――――!?」

グキリッ!

「アァーーーーー!!!?」

『次、左脚。迷ってる暇はないよ』

「あ、ちょっ!? 少しだけで良いからきゅうけ―――――!?」

グキリッ!

「アァーーーーーー!!!?」

『これで半分終わった。今度は右腕を戻す、行くよ』

「だから休憩って言ってるやん――――!!?」

ゴキリッ!

「アァーーーーーーー!!!?」

『ラスト左腕。これが最後だから、どうせなら一気に終わらせよう』

「話聞いてぇ――――!!?」

ゴキリッ!

「アァーーーーーーーー!!!?」

『あ、ミスった。もう一回』

「う、嘘!? マジでたんま――――!!?」

ゴキュベキバキグッキン!

「アァーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!?」

『よし、終わり。これで骨の位置が戻ったから、さっきの外れてた状態より痛みは引いてるはずだよ』

「うぅ……全身傷物にされてもうた……。……せめてねぎらいの言葉ぐらいかけてくれてもええやろ……」

『え? 別にいらないでしょ?』

「そんな真顔で……。もうめちゃくちゃ痛かったのに、疑問すら抱いてくれないのは予想外や……」

『次からは自分で治してよ。安全な場所に隠れて治療するんだ』

「全身ポッキリ逝ってた状態でどう治療せいってちゅうねん……」

連続で襲い掛かってきた内側からの痛みだけでなく、互いの認識がすれ違ってるせいで涙が出てきたけど、確かにさっきと違って手足が少しだけどちゃんと動けるようになっているから、応急処置は成功したのだろう。でも途中で一回ミスってるけど……話を蒸し返したら今度はせっかくはめ直した関節を逆に外されそう。
整体術みたいな処置を終えて一息ついたマキナちゃんは“癒しの光”をかけ続け、痛みや疲労を緩和させてくれる。何だかんだで面倒を見てくれる彼女の優しさにどこかサバタ兄ちゃんと似た雰囲気を感じたのはいいとして、今の内にさっき話そうと思った事を話しておこう。

「マキナちゃんは……この戦いが終わったらその後どうするん?」

『なんでそんな事聞くの?』

「ええやん、教えてくれたって。別に隠す事は無いやろ?」

『八神に教える理由が無い。私は闇の書の先代主の娘で、あなたは闇の書の最後の主という意味での関係はあるけど、別に親しい間柄でもないよ』

「ならこれから時間をかけて親しくなればええやん。戦いが終わればたくさん時間が出来る。サバタ兄ちゃんの指名手配の件も何とかして撤回させるってリンディさん達と約束してる。ニダヴェリールの事は……流石に許せないと思うけど、それなら私達で管理局を内側から変えていけばいい。あんな事をしでかした連中に、ちゃんとした法の裁きを与えるんや。なのはちゃんやフェイトちゃん、クロノ君にカリム達も皆きっと協力してくれる。だからマキナちゃんも私達と一緒に……」

『断る。私には私の道がある、管理局の……八神の駒になるつもりは毛頭ないよ。あの日……アクーナが管理局の手で燃やされたあの時、私はもう次元世界の人間は信用できないと心から理解した。八神が管理局でやっていくならやっていくで勝手にすればいい。でもその中に私を巻き込まないでくれる?』

「こ、駒って……私はそんなつもりで言ったんやない! 私はただ、故郷を失って辛いマキナちゃんの助けになりたいだけなんや!」

『余計なお世話だね。私達はサバタ様のおかげで他にやり直せる場所を用意してもらった。管理局や聖王教会、八神達が何を言おうと私はそこでやっていくと決めた。むしろ八神の方こそおかしいでしょ。管理局を内側から変えるとか言ってたけど、じゃあそれまでの間はどうなの? サバタ様を陥れ、私の故郷を滅ぼした連中の下に大人しく着くって事? ……冗談じゃない! そんな屈辱耐えられる訳が無いッ!!』

「マキナちゃん……でも、誰かが変えていかないと、いつまで経ってもこんな悲劇は終わらないやん! このままじゃ、またどこかで同じような事が繰り返されてしまう! だから私達が変えていこうとしているんや!」

『本当にそんな事が出来ると思ってるの? そもそもああ言った連中は厄介な人間には徹底的に邪魔をしたり、時として排除も企んでくる。八神が思う様に上に行って内側から変えるなんて、そんなの私腹を肥やす連中から見れば邪魔以外の何物でもない。きっと昇進なんてさせてくれないし、それどころか暗殺しに来る可能性だってあり得る。サバタ様の指名手配だっていい例だ。あの人に救われたのは私やシャロンだけじゃない、八神達だってそうだったでしょ? なのに魔力を消せる暗黒物質が使えるからだとか、ニダヴェリールが崩壊した真の理由を知ってるからだとか……そうやって都合が悪いことがあるから管理局はあの人を簡単に陥れてきた。そんな組織によく自分から入ろうと思えるね。はっきり言って自ら死地に乗り込むようなものだとわかってるの?』

「確かに管理局は今マキナちゃんが言ったようにドロドロした裏の面があるかもしれへん。でもちゃんと次元世界の平和を守るために必死に頑張ってる人達だっておる! 私達やクロノ君達が所属しているアースラクルー、エレンさんやサルタナ閣下の率いるラジエルクルー、ゼスト隊長にゲンヤさん、他にもたくさんおるやろ!? その人達の事も見ずに、私達の将来がどうなっているのか決めつけるのは早計なんとちゃうか!?」

『甘いね、次元世界の人間にとって私や八神に対する認識がどうだったのか忘れた? 私は闇の書の先代主の娘、そして八神は闇の書の最後の主。そして闇の書に関わる人間が次元世界ではどういった扱いを受けているのか、八神もよく知っているはず。私の母さんは何の罪もないのに罵詈雑言を四六時中浴びせられ、更に暴力も振るわれたせいで命を落とした。私だって11年間、人権をはく奪されて実験動物同然の扱いを受けてきた。別に今更恨んじゃいないけど、闇の書に関わったらそれは呪いのように私達の運命を縛り付ける。闇の書自体から呪いが無くなった所で、私達を取り巻く呪いまで無くなってはいないんだ。私が言いたいのは要するに、腹黒い連中や心無い連中だけじゃなくて、真っ当な人間からも中傷や不平等な扱いを受ける覚悟があるのかって話。次元世界や管理局にいる限り、時には四面楚歌な状況に放り出されたり、かつての私達のような目に遭う可能性もあり得る。運が悪ければ死ぬかもしれない妨害を立て続けに受けて、それでも八神はその意志を貫けると言い切れるのかって訊いてるんだよ』

「言い切れる! 絶対に貫いて見せる! 困難な道のりなのは百も承知、それでも私は諦めずに戦い抜いていく! もし道に迷っても、友達が支えてくれる! くじけそうな時も、ずっとサバタ兄ちゃんが傍にいてくれる! 皆一緒にいれば未来を変えることだってできる! だから――――」

大丈夫や。そう宣言しようとした瞬間、マキナちゃんから漂う雰囲気が一変した。さっきまでの私を案ずるが故の怒りとは違い、もっと根本的な部分からの……そう、憤怒とも言い表せる感情が発せられた。もしかして……地雷踏んだ?

『今……何て言った? ずっと? ずっとサバタ様が傍にいてくれる!? ふざけるな!何も知らないくせに……! 何もわかっていないくせに、これ以上サバタ様に甘えるなッ!!』

「え、ま、マキナちゃ……?」

『八神……あなたは闇の書の罪と向き合うって、自分達の力で乗り越えるってサバタ様に宣言したよね!? 困難な目に遭っても、自力で立ち向かうって覚悟を示したんだよね!? なのにまだサバタ様を頼る気!? あの人にまた負担をかけさせるつもり!? いい加減にして……もうサバタ様に心配をかけさせないで!!』

「そ、そんなつもりはあらへん! ただ私は……!?」

『うるさいッ!! これ以上私の前で……そんな甘ったれた言葉を口にするなぁあああああ!!』

「ッ!!?」

怒号らしき言葉を上げながら、少しでも怒りを晴らすべくマキナちゃんはレールガンを構える。なぜこうなったのか状況が読めない私は訳もわからずに見つめる事しか出来ないが、一つ見逃せないものがある。彼女のレールガンが見覚えのある淡い白色に輝いているのだ。この色の光は月の力が発光する時に見れるもの……もしかしてマキナちゃんは、怒りで月のエナジーを覚醒させたのかもしれない。彼女をそれほど怒らすなんて、私は一体何をしてしまったんや?

『トゥルードリーム!!』

直後、レールガンからエナジーが集束された青白いビームが窓の方に発射され、遠くで進攻を喰い止めていた巨大な質量兵器の合間を縫って、ファーヴニルの左腕のウィークポイントに直撃した。王様達がある程度損傷させていたのもあって、今の一撃は決定的なものとなり、左腕が根元から文字通り引き千切られた。結果的にファーヴニルは再び両腕を失い、脅威が半減した事になる。
今の攻撃……狙いがファーヴニルだったのは彼女の理性がちゃんと働いていたからだけど、もしもこの状況じゃなかったら……万が一敵対していたら、その銃口は私に向いていたかもしれない。あれほどの一撃は、カートリッジを使ったプロテクションでも防ぎ切れない威力を誇っている。なのはちゃんのSLB並みに喰らいたくないなぁ……。

「マキナちゃん……どうして……」

『少し黙ってて……!』

私の質問を封じたマキナちゃんはこれ以上怒りに身を任せないように精神を抑えながら、震える手でポケットから何かの錠剤を取り出して飲んでいた。錠剤のビンのラベルに“ジアゼパム”と書かれているのが見えたが、私にはそれが何の薬なのかわからなかった。

「えっと……だ、大丈夫……?」

『……八神に心配される程ヤワじゃない。でもね……たった今、私は八神の事が大嫌いになったよ』

「やっぱり……私、何か気に障ること言ってもうた?」

『盛大にね……。逆鱗を思いっ切り力任せに逆撫でされた気分だ。サバタ様から色々な事情も聞いてるから元々八神の事は嫌いじゃなかったんだけど、今の台詞で一気に嫌いなタイプだと認定した』

「そんな……私、一体何をやらかしたの? 一体何が……マキナちゃんの逆鱗に触れてしもうたの?」

『自分で考えて。八神が選んだのは周囲をイバラに囲まれた道……そこで生きていくためには、常に自分で進む道を考えていかなくちゃ駄目なんだよ。今の浅はかなままじゃ……いつか誰かに殺されるよ?』

「ッ……! それは……マキナちゃんも入っとるの?」

『サバタ様との約束もあるから余程の事情が無い限り、八神の命を狙うつもりはない。道を間違えたなら根性を叩き直すつもりではあるけど、基本的に関わらないスタンスで行く予定だ。私と八神の居る世界は、既に異なるのだから』

「もう……何を言っても駄目なんか? 私達と一緒にいてくれるように、考え直すのは無理なんか……?」

『しつこい、これ以上その話を繰り返すならまた怒るよ。……治療は一応済んだけど、戦えるまで回復した訳じゃないから、八神は大人しくここで寝ていて。私は別のポイントで、皆の援護を再開する。じゃあね、夜天の最後の主』

さっきまで呼ばれていた“八神”ではなく、“夜天の最後の主”と呼ばれた時、私はマキナちゃんとの間で決定的に大きな溝が出来たような……そんな感覚を味わった。窓からベランダに出て飛行魔法で飛んでいった彼女の後ろ姿を、痛みは引いたがぐったりして力が入らない身体で見つめ続けるしか出来なかった。手を伸ばそうとしても……彼女の背中に全く届かなかった。

「……いつかは……届くんかな……?」

いや、どれだけ時間をかけてでも届かせないとあかん。サバタ兄ちゃんやマキナちゃん、彼らがたどり着いた領域まで……いつの日か私も……。
やがて私は治療の痛みによる疲労が影響し、ベッドの心地よい感触が決め手となって意識を失った。
 
 

 
後書き
トゥルードリーム:ゼノギアス ビリーの技。”癒しの光”が元々彼の回復エーテルである所から察していると思いますが、マキナの技や魔法は彼のものが中心となっています。ちなみにビリーが撃つ前に取り出しているあの白い袋が何なのか、ちょっとした謎ですよね。

原作はやては正直に言ってかなり運が良かったと常々思っています。多分リンディやグレアム、カリム辺りが手を回していたからあそこまで昇進出来たのでしょうけど、もし後ろ盾が無かったらこの回でマキナが懸念していた事が十分あり得ると思います。


息抜きのネタ。

RAYの操縦訓練で、ユーリは密かに北方領域へ。そこでとある存在と出会う。真っ白な衣服に身を包み、小さくて黒いタコ焼きのような物体が傍で漂う少女。その子に出合い頭に、こう言われる。

???「カエレ……ッ!」

ユーリ「え? あの……もしかしてお邪魔ですか?」

???「ゼロ、オイテケ!」

ユーリ「はい? ゼロですか? まあRAYもゼロと言えばゼロでしょうけど……」

???「コレ、ゼロ? ヒコーキジャナイノ?」

ユーリ「まぁ、RAYはメタルギアですから、飛行機ではありませんね」

???「ソウナノ……」

ユーリ「ああ、そんなに落ち込まないで! チョコレートあげますから、泣かないで下さい~!」

???「モグモグ…………アマイ! オイシイ!!」

ユーリ「は~良かったですぅ~」

???「モットクレ!」

ユーリ「他には持ってきてないんです。一旦戻れば買ってこれますけど……」

???「ナラ、ツイテイク! イッショニイク!」

ユーリ「え? ふぇえ~~~~!?」

数時間後。

サバタ「なんか増えてるな」

ディアーチェ「遠征先でユーリが連れてきたのだ」

シュテル「いっそここに鎮守府でも設立します?」
 
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