たまかりっ! ~小悪魔魂奪暴虐奇譚~
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1
───時は20時間ほど遡ります。
「ん~……」
ごしごしと眠気の取りきれない目をこすりながら、稀代の魔女、パチュリー・ノーレッジはふかふかのキングサイズベッドから身を起こしました。
素っ裸で。
ほんの数時間前まで、使い魔である『こぁ』と、夜通し裸の睦言を繰り広げていたため、ほんのりとした汗の香りがただよいます。
───幻想郷は紅魔館・地下の大図書館。
その奥に位置するパチュリーの居住スペースがここです。
「こぁ?」
パチュリーはきょろきょろとベッド周りを見回しました。愛しの使い魔の姿がないからです。
あれだけ熱烈に可愛がってあげたにもかかわらず、彼女はパチュリーと目覚めを同じくしなかったようです。
「ちぇっ。寝顔を拝めなかったわね、失敗したわ。───こぁ!」
先程よりも幾分か大きめの声で使い魔を呼び出します。数秒もせず、部屋のドアを開いて彼女が姿を現しました。
「おはようございますパチュリー様! 朝ごはんの支度、できていますよ」
「おはようこぁ。……貴女は働き者ね」
部屋に訪れた愛らしい少女を、パチュリーは愛おしげに見つめます。
昨夜の乱れようがウソのように振る舞う、清純という言葉をそのままカタチにした、天使な美少女。いや悪魔なんですが。
ともかく、それが古よりの大魔法使い、パチュリー・ノーレッジの誇る、唯一の僕なのでした。
「でも先に服を着ないとね。手伝ってくれるかしら」
「はい、喜んで」
美しい裸体を隠すこともせず、パチュリーはベッドから立ち上がりながらそう告げ、こぁはその命令を嬉しそうに受諾します。
これが、彼女たちのいつもの朝。
「───その前に」
「はい? ……あ、んっ」
無防備に近づいてきたこぁの手を取り、引き寄せます。少しだけ驚いてみせる彼女の唇を、パチュリーさんは当然のように奪いました。
「ん、ン……んふっ、パチュ、ん───んんっ」
「朝のあいさつを済ます前に家事なんて貴女らしくないミスね、こぁ? ん、……」
静寂に満ちた室内に、唾液を交換する音だけが響きます。
だんだんとこぁの肢体から力が抜けていきますが、パチュリーは気にもとめません。ついにこぁの膝から力が抜け、柔らかなベッドに倒れ込みました。キシ、と欲情をかきたてる音がパチュリーの耳に届きます。
「お仕置きが必要よね、こぁ?」
「は、はい……お願いします、パチュリー様」
こぁは頬を瑞々しい桃のように染めてそう返事をしました。どうやらスイッチが入ってしまったようです。
パチュリーは嬉しそうにうなずき返してから、こぁの服のボタンに指をかけ──────
「うん、今日の朝食も美味しいわ。さすがね、こぁ」
「は、い……ありがとうございます、パチュ、リ、様……」
平然とコーンスープを口に運ぶパチュリー。しかしこぁはそうもいっていないようです。
はぁはぁと荒めの息を吐きながら、なんとか同じように食事に手を伸ばそうとするも、収まり切らない快感の余韻に身体が震えてままならないようです。よくみれば、ほんの一時間前までととのっていた着衣は乱れ、肌にはじわりと汗が浮いていました。
熱っぽい顔を羞恥に歪めながら、なんとか呼吸を整えようとしています。完全に事後でした。
「ごちそうさまでした」
「おそまつ……さまです」
少しして、のんびりとした朝食の時間にパチュリーが終わりを告げます。ようやく回復してきたこぁが、テキパキとは言いがたい速度で食器をかたづけ始めました。
しかし一食分、それも女性ふたり分の洗い物です。こぁは速やかに仕事を終えると、パチュリーに一礼してから司書としての仕事を始めようとします。
「その前に」
「は、はい……んんっ」
本日何十回目かのキスがこぁを襲いました。ことあるごとにイチャつきたいパチュリーが、そう取り決めたのです。
「で、では仕事にまいりますね」
再び快感に冒された使い魔の少女は、なんとかパチュリーに背中を向けます。
───ここまでは、毎日の光景でしかありませんでした。
「ねえ、こぁ?」
「はい?」
どういう気向きか、その背中にパチュリーが声をかけました。
「貴女、自分をどう思うかしら」
「え? ど、どう、と言われても……?」
また何かされるのではと期待───警戒していたこぁに、予想外の質問が飛びます。
「貴女は、自分がなんなのか答えられる?」
「はぁ。わたしは『こぁ』……パチュリー様の使い魔、小悪魔ですけど」
「少し間違っているわね。貴女は『私の愛しい使い魔・こぁ』よ」
「え、えと……えへへっ」
ただでさえ可愛らしいこぁの表情が、歓喜にほころびました。
「でも、それで満足かしら」
「満足ですけど」
「愛してるわこぁ」
「わたしもですパチュリー様。大好きです愛してます」
「嬉しいわ。キスしましょう、こぁ」
「何度でも!」
即答即応でした。なんだこれ。
「……でもね、少し考えたのよ私」
「はい?」
おおよそ10分ほどして、ようやく唇を離した少女たちが語り出します。
「私だってこぁのことは愛おしいわ。可愛いわ。離したくなんかないわ。というかもう結婚しましょう。いいわよね?」
「もちろんですパチュリー様!」
二人は服を脱ぎ捨てると、そのままベッドへとダイブしました。
~La Fin~
「……けれど、その前にするべき事があると気付いたの」
「そ、それは……?」
~再開~
マジメモードのつもりか、パチュリーは吐息がぶつかるほどのいろいろ台無しな距離で、こぁの瞳に訴えました。
「悪魔───否、天使───いいえ、もっと、もっと素晴らしい存在である貴女が、自らの力をおとしめてしまうなんて、私には耐えられないの」
「……どういうことです?」
「こぁ、貴女には力がある。“小悪魔”なんてか弱い存在のままで終わっていい女ではないわ! 貴女なら“大悪魔”、いいえ、もしかしたら“堕天使”にだって負けない強さを身に着けられるかもしれない!」
こぁは息を呑みました。
パチュリーの瞳が、真剣そのものだったからです。
「私の目に狂いはないわ。こぁ、貴女にはそのくらいの潜在力を感じるの……!」
「わたしに……そんな力が……」
こぁはわなわなと両手を震わせました。
たしかに、自分は今の環境に甘えていたのかもしれないと思ったからです。
パチュリーとの蜜月は、狂おしく愛おしい日々。比類なきエルドラドがうんぬんかんぬん。
ポエミーな自己暗示はあっという間に脳内で完結したようで、こぁはパチュリーの瞳を強く見返しました。
「任せてくださいパチュリー様! こぁは、こぁは必ず、パチュリー様に相応しい使い魔になって戻ってきます!
具体的にはとりあえず人類絶滅させて魂奪い尽くす方向で!
「嬉しいわこぁ! 特に詳細を話したワケでもないのにそこまで読んでツーカーな答えを出してくれるなんて!」
二人は感動にむせび泣きました。そしてまた抱き合いました。全裸で。
それはそれは長いことイチャついた後、こぁはようやく旅支度を整えました。
「では、こぁは少しのあいだ旅に出ます。パチュリー様を置いて行くのは心苦しいですけれど……」
「いいえ、私はこぁを信じてる。貴女なら一週間とかからず世界を血に染めて帰ってくるって。……キスもハグもガマンしてみせるから!」
「そこまでの決意をわたしなどのために……愛しています、パチュリー様!」
「私もよ、こぁ!」
こうして、『こぁの魂狩り一人旅・残虐ファイト待ったなし』編がスタートするのでした。めでたしめでたし。
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