夢の終わるその日まで
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√明久
そんな気がするの
前書き
依子視点で進みますが、時系列は続いています。
吉井君にお友達を紹介してもらった。正直に言うと名前はあまり覚えていないのだけれど、顔は覚えている。顔と名前を一致させるためにも紹介してもらった人には挨拶に行こう。そうだなぁ……まずはあの子のところに行ってみよう。
「ねえねえ、君っ」
「ん、なんじゃ?」
この、独特なしゃべり方をする秀吉ちゃん。秀吉ちゃんはすごく気になっていた。この子とは絶対に友達になりたいと思っている。
「唐突なんだけれど、実際のところ、君って本当に女の子なの?」
「何を言っているのじゃ。わしは立派な男子じゃ」
そんな気はしていた。そんな気はしていたよ。初っ端から吉井君に嘘をつかれた気分だ。
「やっぱりそうだよね。吉井君が「一見女の子に……」って言っていたんだけれど、私には秀吉ちゃんが女の子には見えなかったんだよ」
「何を教えているのやら……。とにかく、わしは男じゃ。それとその「秀吉ちゃん」はやめんか」
いや、でもやっぱり女の子にも見える。
「なんだろう、秀吉君が「わしは男じゃ」って必死になっているところを見るとやっぱり女の子なんじゃないかって思えてくるんだけど、ふとした瞬間に見せる仕草はやっぱりかっこいい男子に見えるんだよね、わかるかな?」
「な、何を言っているのじゃお主は」
少し顔を赤らめて目を逸らした。
「ふむ……中々に可愛いのじゃ」
「真似をするでないぞ!!」
手をブンブン振って否定しているところをみるとすごく可愛い。顔がそもそも女の子みたいな顔しているのに、そんな可愛い仕草をしたら誰だって女の子だと思うと思う。
「可愛いのじゃ」
「可愛くないのじゃ!!」
この子とは仲良くなれそうな気しかしない。この子となら魔法少女になれそうな気がする。もしくは美少女戦士。
「一緒に魔法少女にならない?」
「ならんのじゃ」
「じゃあ美少女戦士になろうよ」
「お主が言っているのは全部女の子向けのものなのじゃ。ワシには到底縁のないものなのじゃ」
「まあ、確かに言われてみればそうだけど、黙っていてもしゃべっていても秀吉君はなれるよ。諦めたらダメだよ」
「なりたいとも思ったことはないのじゃが……」
なれる、なれるよ。私たちならなれる。
次はカメラを持ったあの子。なかなか良い趣味を持っている。そんな気がする。
「ちょっといいかな?」
「……」
一瞬無視されたのかと思ったけど、手は動きつつ顔はこっちを見ていた。
「さっき吉井君に君のことを紹介してもらったんだ」
なるほど、と頷いて話し始めた。
「……無津呂財閥の次期9代目の跡取り。祖父の無津呂秀次郎はあらゆる企業の筆頭株主。五本の指に入るほどの世界的大富豪だ。その孫娘の無津呂依子は身長138㎝、足のサイズは19㎝。無津呂依子のことに関しては何でも知っている」
何故かこの人は私の個人情報をたくさん知っている。ちょっとだけ圧倒されている私であった。まさか、命を狙われている?私を人質にとってお祖父様を恐喝する気か?!
「そこまで知っている人には初めて会った。なんでそんなこと知っているです?」
「……このくらい余裕」
やばい、やばいこの人。いくら吉井君の友達だとはいえ、少し警戒した方が良さそうだ。
「まさか、無津呂家の財産狙ってるです?人質する気です?」
「……そんなわけないだろう」
「ミステリアス、ミステリアス」
財産を狙っているわけでもないのになんで私のことをなんでも知っているんだろう?なんでも知っているならなんでも知っているのだろう。あの事について聞いてみよう。
「じゃあ、私のバスト知っているです?最近妙に大きいのです」
「……お前は何を言っている?!女子だったらそんなことを気軽に言うな」
鼻血を流しながら卓袱台をバンバン叩いて説教をしてきた。なんだ、この人は面白い人そうだ。少なくとも、悪い人ではなさそう。
「君がなんでも知っているって言うから聞いてみただけです」
「……知っていても言わない」
この人はいつまで鼻血を流しているつもりなんだろう?
「君、鼻血止まらないです?ティッシュを上げるの。早く止めないと失血するよ」
「流石ムッツリーニ、会話10秒で既に鼻血モードか……。恐るべし依子ちゃん」
「……ありがとう。もらっておく」
制服にポケットティッシュを入れて良かったな、と思った。入れておいた、というよりはお母さんに無理やり突っ込まれて偶然持っていただけだから本来ならティッシュなんてポッケに入れないんだけど。
「うんうん、どうぞどうぞー」
「依子ちゃんが可愛いからって鼻血だしちゃって。僕みたいに依子ちゃんの席の隣だったら毎日輸血パックが必要だね」
「輸血パック……?病気なの?」
「いや。そういうわけじゃないんだけどね……」
「君はいつからそうなってしまったんだい?」
「……依子ちゃんがいなくなってから3年後くらい」
「私は昔も今と変わらず、ずっといるじゃないの」
少し哀しそうな顔をして視線を下に落とした。そしてさっきと変わらずカメラのレンズを拭いて綺麗にしていた。まるで私と昔からの知り合いのように、この人はそういった。それとも私と同じ名前の子がいるのだろうか?そういう風には聞こえなかった。私はこの人と昔から知り合いだったのだろうか?そんなことはないと思うのだけれど――謎のままクラス代表の子のところに向かった。
「坂本君」
身長が高すぎて肩を叩くことが出来なくて、裾を少し引っ張った。
「ん、どうした?」
「あ、いや……。特に用事はないんだけれど」
「そうか」
柄が悪く見えるから少し怖い。下手なことを言ったらクラス代表ということで先生も黙認のいじめが始まるかもしれない。
「今、坂本君って言った私、清楚ですか?それとも、おしとやかですか?」
怖いと言いつつも、聞きたいことはしっかり聞いておく。
「それを自分で聞いたら例えそうだとしてもそうでなくなるからやめたほうがいいぞ」
「それも一理」
さっきの人よりもこの人の方が昔から知り合いだったような気がする。
「君と私はどこかで会っているかな?」
「……」
不思議な顔をしていた。というより何かを考えているような顔をしている。少し間が空いてから口を開いた。
「会っているわけないだろう」
「そうだよね、何故だか懐かしい気がしてしまった。それだけです」
「ああ、そうか。まあ、これからよろしくな」
「うん、よろしく」
やっぱり、気のせいだ。彼にしたってあの子にしたって会ったことあるはずがないのだ。
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